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『力』を持つ者の定め 『特殊な部隊』の通過儀礼としての『事件』

第62話 『特殊な部隊』の新米隊員がたどり着いた『アジト』

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 押さえつけられた姿のままで、車が何度となく加速したり止まったりすることを感じながら、誠はじっとしていた。車の頻繁な加減速から、誠は豊川の田舎町から東都の都心部に連れてこられたのかと、まるで他人事のように考えていた。

「着いたぞ。とりあえずしっかりと目隠しをさせてもらうぞ」 

 先ほどの男はそういう誠の顔にさらに布の袋をかぶせた。

『このまま見殺しかよ。あの『特殊な部隊』から解放されるのか……『死体』として』 

 そんな言葉が脳裏に浮かんでは消えた。

 空調の効いた車内から袋を頭にかぶせられたまま誠は降ろされた。生ぬるい空気と耳に響く喧騒。東都の都心部のどこかと言うことは推測ができた。跳ね返りの熱で全身から汗が噴出す。そんな誠に声をかける人はいない。

 初めて誠は恐怖と言うものを心の奥から感じた。

 彼等は自分を殺すのだろうか?さっきの口振りでは、すぐに殺すということはないはずだ。そう思う誠はとりあえず状況を確認しようとするが、布でさえぎられた視野のため、足元の崩れかけた階段以外誠の目に入ってくるものはない。男達は誠を両脇で挟みつけたまま、時折小声でやり取りをしながら誠を小突きつつ階段を登った。

 男達の誠を前へ進めるために小突く動作が止まった。袋をかぶされて見えないが、建物のドアを空けようと言うらしい。

 開いたドアから冷気が漏れる。空調は効いているらしい。誠が後ろで扉が閉まるのを感じたところで袋が頭からはずされた。

 廃墟のようなビルだった。埃だらけのフロアー。階段の隣に割れたスナックの看板が残っているところから見て、かつては雑居ビルだった廃墟に連れ込まれたことはわかった。

「お客さんだ。頼むぜ」 

 背広の男が奥に向かって怒鳴ると、腰に拳銃をつるした若いポロシャツの男と紫のワイシャツに紺色のスラックスをはいた中年の男が、手錠を持って部屋から現れた。

「しばらくここでじっとしていてくれよ」 

 初めに誠に拳銃を突きつけた男が、銃口を誠に向けたまま二人に誠を押さえさせる。男達はにやけた笑いを浮かべながら誠の両腕を後ろに回して手錠をかけて、階段に向けて誠を突き飛ばした。

「そのまま上がれ」

 そう言われて誠はアロハの若い男に続いて階段を登った。

「なんでこんな俺が野郎の世話しなきゃならないんすか?」 

 ポロシャツの男はそう言いながら二階に上がったところで誠のふくらはぎを蹴飛ばした。

 誠はそのままバランスを崩すが、今度は髪の毛を紫のワイシャツの男に引っ張られて直立させられる。誠が古びた全面ガラスのかつてのスナックのドアの中を見ると、男達がテーブルの上に酒瓶を並べて談笑しているのが見えた。

「ちょろちょろよそ見するんじゃねえ!」 

 再びポロシャツの男が誠の襟元をつかむと三階に向かう階段に誠を引き立てていく。急に冷気が薄くなり、コンクリートの熱せられた香りが誠の鼻をついた。

 人気の無い三階のフロアーを素通りして四階に向かう階段に誠は引き立てられた。

 むせるような熱気とうなりを上げる冷房の室外機の音ばかりが誠の鼓膜の中に刻み込まれた。
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