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『出動』のブリーフィング

第135話 『特殊な部隊』には『無用』の自分

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「それでは時計あわせ、三、二、一」 

 司法局実働部隊運用艦『ふさ』、機動部隊控え室。

 その名前にもかかわらず、誠はここに乗艦以来、一度も入ったことは無かった。

 第一小隊小隊長のカウラ・ベルガーが一番左に立っていた。その隣には第一小隊二番機担当の西園寺かなめの姿がある。そして『05式特戦乙型』を与えられる予定の『回収・補給』係の神前誠は直立不動の姿勢でその隣に立っていた。

 機動部隊長であり『偉大なる中佐殿』と呼ばれるクバルカ・ラン中佐がその前に立っていた。それぞれに腕時計をして、作戦時間の時計合わせをしていた。

「今回の『クーデター首謀者処刑』作戦の特機運用はこのメンバーでやる。他からの支援はねーかんな!」 

 部下達を見回した後、ランはそう言い切った。

「いいぜ、そんなもんだろ?」

 まるで勝利が決まっているかのようにかなめはそう言った。

 誠は気が気でなかった。

 相手は第六艦隊のエリート部隊である。その総戦力すら『補給係』の誠には聞かされていない。

「僕にも敵の戦力ぐらい教えてくださいよ」

 誠は恐る恐る手を挙げてそう言った。 

「質問は後!現在|11:00ひとひとまるまる時。12:00ひとふたまるまる時にベルガー、西園寺、神前はハンガーに集合。そして別命あるまで乗機にて待機。以上質問は?」 

「ハイ!ハーイ!」 

 まるで小学生が出来た答えを発表するような勢いで誠は手を上げた。

「ちなみに神前の質問はすべて却下する!」 

「そんな!僕だって出撃するんですよ!補給は!回収はどうするんですか!」 

 誠は当たり前の抗議をした。しかし、ランは全く聞く耳を持たない。

「全部アタシが考えて指示を出す!アタシは『人類最強』だから相手は死ぬ!だからオメーみたいな使えねーのに教える意味はねー!」 

 ランは無茶苦茶な叫び声をあげた。

「神前は逃げりゃあいいんだよ。叔父貴だって逃げていいって言ってんだから」

 誠の隣に立つかなめがそうつぶやいてたれ目で誠を見上げた。

「……僕は……必要無いんですか?」

 かなめに言っても無駄だと思った誠は小隊長のカウラの顔を見てそう言った。

「特に必要ないな。貴様は私にとってはいれば便利だという程度だ」

 カウラの非情な言葉が誠の耳に響いた。

 誠は『逃げる方法』を訪ねようと、機動部隊長のランに目をやった。

 かわいらしいランの顔に笑顔が浮かんだ。

「逃げてもいーぜ。アタシ等はオメーを恨まねーし、責めねーよ。それもまー人生だ。まー、人生においては『戦う』より『逃げる』ことの方が難しいんだけどな」

 ランの微笑みが誠にはまぶしすぎた。

 自分が役に立たないことは誠にも分かっていた。おそらく足手まといになる。でも、この『特殊な部隊』の役に立ちたい気持ちはあった。
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