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『出動』のブリーフィング

第137話 風変わりな女たちの『励まし』

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「カウラさん?」 

 うつむいたまま立ち尽くしているカウラに誠は思わず手を伸ばしていた。

「隊長命令だ、直立不動の体勢をとれ!」 

 一語一語、かみ締めるようにしてカウラは誠に命令した。誠は言われるまま靴を鳴らして直立不動の体勢をとる。

「一言、言っておくことがある。これは作戦遂行に当たっての最重要項目である」 

「はい!」 

 うつむいたままのカウラは肩を震わせながら何かに耐えているように誠には見えた。誠を見つめる緑色の瞳。

 潤んでいた。

「死ぬな。頼む……」 

「はい」 

 誠は思いもかけぬカウラの言葉に戸惑っていた。同じように自分の言葉に、そして自分のしていることに戸惑っているカウラの姿が目の前にあった。

「言いたいことは、それだけだ。先に出撃準備をしておいてくれ。ハンガーでまた会おう」 

 カウラは今度は天井を見上げながらそう言った。誠は一度敬礼をした後、静かに控え室から出た。

 『ふさ』艦内の廊下は同級艦と比べて広めに設計されている。それを差し引いても、誠には私室に続くこの廊下が奇妙なほど長く感じられた。廊下には誰もいない。誠がこの艦に乗ってからほとんど常駐していた『医務室』に出入りしていた整備班員やブリッジクルーの女子や『釣り部』の『特殊』な面々とは誰一人擦れ違わなかった。

「静かなものだなあ」 

 誠はそう独り言を言った後、居住スペースのあるフロアーに向かうべくエレベーターに乗り込んだ。

「んだ?ちんちくりんな『脳味噌筋肉』に絞られたのか?」 

 エレベータ脇の喫煙所で、かなめがタバコを吸っていた。

「それともあの盆地胸に絞られたとか……」 

 かなめのその言葉に誠は思わず目をそらす。

「おい!ちょっとプレゼントがあるんだが、どうする?」 

 鈍く光るかなめの目を前に、誠は何も出来ずに立ち尽くしていた。

「そうか」 

 かなめの右ストレートが誠の顔面を捉えた。誠はそのまま廊下の壁に叩きつけられる。口の中が切れて苦い地の味が、誠の口の中いっぱいに広がる。

「どうだ?気合、入ったか?」 

 悪びれもせず、かなめは誠に背を向ける。

「済まんな。アタシはこう言う人間だから、今、お前にしてやれることなんか何も無い。……本当に済まねえな『下僕』」 

 最後の言葉は誠には聞き取れなかった。かなめの肩が震えていた。

「ありがとうございます!」 

 誠はそう言うと直立不動の姿勢をとり敬礼をした。気が済んだとでも言うように、かなめは喫煙所の灰皿に吸いさしを押し付ける。

「今度はハンガーで待ってる。それじゃあ」 

 それだけ言うとかなめはエレベータに乗り込んだ。また一人、残された誠は私室へ急いだ。
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