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『女王様』と『正義のヒロイン』と『偉大なる中佐殿』

第139話 コールナンバーα(アルファー)

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 ヘルメットを抱えたままかなめが喧騒の中へ突き進んでいく。その姿がなぜか神々しく感じられるのを不思議に思いながら誠はかなめの後に続いた。

『つり橋効果ってこう言うものなのかな』

 誠には柄にも無くそう思えた。

 格納庫に入ると作業がもたらす振動で、時々壁がうなりをあげた。誠の全身に緊張が走る。作業員の怒号と、兵装準備のために動き回るクレーンの立てる轟音が、夢で無いと言うことを誠に嫌と言うほど思い知らせる。

「おう!着いたぞ!」 

 かなめがすでに時刻前に到着していたカウラに声をかける。

「問題ない。定時まであと三分ある」 

 長い緑の髪を後ろにまとめたカウラは、緑のヘルメットを左手に持っている。

「整列!」 

 カウラの一言で、はじかれるようにして誠はかなめの隣に並ぶ。

「これより搭乗準備にかかる!島田曹長!機体状況は!」 

「若干兵装に遅れてますが問題ねえっすよ!」 

 05向けと思われる230mmロングレンジレールガンの装填作業を見守っていた島田が振り返って怒鳴る。

「各員搭乗!」 

 三人はカウラの声で自分の機体の足元にある昇降機に乗り込んだ。誠の05式乙型の昇降機には隊で最年少の二等技術兵がついていた。

「神前少尉。がんばってください!」 

 よく見ると彼の作業用ヘルメットの下に『必勝』と書かれた鉢巻をしているところから見て、彼が甲武国出身だと言うことがわかった。後輩の誠はこの『特殊な部隊』に配属されて初めての『尊敬』の視線に見つめられながらコックピットまで昇降機で誠を運んだ。

「わかった。全力は尽くすよ」 

 目だけで応援を続ける二等技術兵にそれだけ言うと誠は自分の愛機となるであろう灰色の機体に乗り込んだ。彼が合図を出すのを確認して誠はハッチを閉める。

 装甲板が下げられた密閉空間。

 誠の手はシミュレータで慣らした通りにシステムの起動動作を始めた。

 計器の並びは訓練課程最後に乗った練習機と同じで、すべて正常の数値に収まっていた。

 それを確認すると誠はヘルメットをかぶった。

『神前少尉。状況を報告せよ。また現時刻より機体名はコールナンバーで呼称する。αアルファースリー大丈夫か?』 

「αスリー、全システムオールグリーン。エンジンの起動を確認。30秒でウォームアップ完了の予定」

 それだけ言うとモニターの端に移るカウラとかなめの画像を見ていた。

『どうだ?このままカタパルトに乗れば戦場だ。気持ち悪いとか言い出したら逃げる犬っころみたいに背中に風穴開けるからな!』 

 かなめはそう言いながら防弾ベストのポケットからフラスコを取り出し口に液体を含んだ。

『αツー!搭乗中の飲酒は禁止だぞ!』 

『飲酒じゃねえよ!気合入れてるだけだ!』 

 あてつけの様にかなめはもう一度フラスコを傾ける。カウラは苦い顔をしながらそれを見つめた。
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