特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』 遼州の闇

橋本 直

文字の大きさ
157 / 187
変わった世界の中で目覚めて

第157話 『特殊な部隊』の仲間たちと知る自分の『特殊な運命』

しおりを挟む
「ここは?」 

 頭痛とめまいを感じながら、誠は目を覚まいした。

 彼が最初に見たのは、痩せた眼鏡の医師の日焼けした顔だった。彼もまた『釣り部』の一員なのだろう。誠はぼんやりとした頭でそんなことを考えていた。

「起きましたよ、大佐。神前君、しばらくは安静にしている方がいいと思うんですが……」 

 誠が絶対磯釣りが好きだと認定した軍医が振り返った先には、嵯峨がついたての隙間から入り口の方を見ている姿があった。

『起きたってよ!』 

 あわてた調子でかなめがつぶやきが聞こえる。

『騒ぐな西園寺。一応ここは病室だ』

 落ち着いた調子を装うのに必死なカウラの言葉が聞こえてくる。 

『残念ねえ……せっかく私が『桐の棺桶』を用意してあげていたのに……『しんらん』聖人サイン入りプロマイドも……』

 小さい声だが、アメリアは明らかに誠にも話し声が聞こえるように話していた。 

『また作ったの?あのプロマイド。ただ単にアメリアが高校の日本史の教科書から『親鸞聖人』の絵を拡大コピーして、ペンで『しんらん』って書いてるだけじゃない』 

 不服そうな調子でサラが突っ込みを入れる。

『その時の教科書の代金……もらってないわね。いつだって雑用は私達に押し付けてアメリアは遊んでばかりだもの。これ以上損するのはごめんよ』 

 パーラはすっかり呆れた調子だった。

『へー。今度『ザビエル』でやりません?高校時代よく落書きしたんすけど、最高傑作は『ザビエル』なんで。……縄文時代の人でしたっけ?『ザビエル』』

 今度はまるで声を小さくするつもりはないというような『馬鹿』な島田の声が響く。いくら歴史が苦手な誠も『縄文時代』の歴史的人物の絵はさすがに存在しないことは知っていた。

 嵯峨はそんな様子を注意するわけでもなく、とりあえず誠に向き直る。 

「まあ、初めてってのは何でも大変なものだ。ドクター。なんか問題点とかありました?」 

 外の騒動に笑顔を浮かべながら、嵯峨は小柄な釣り好き軍医に声をかけた。

「特にないですね。多少の緊張状態から来る神経衰弱が見られる他は健康そのものですな。うちの技術部のだらけた連中よりよっぽど健康的ですよ。まあ乗り物酔いと緊張した時の胃の内容物の逆流する症状はどうしようもないみたいですけどね」 

 朗らかに軍医はそう言うと席を立った。

「それと、やはりもう自室に戻るべきかもしれないね。あの連中がなだれ込んでくる前に」 

 そう軍医が言ったとたんに病室のドアが開いた。

「なんだ、元気そうじゃないか」 

 軍医と入れ替わりにかなめ達が入ってくる。皆笑顔で上体を起こした格好の誠を見つめた。

「とりあえず差し入れ」 

 と言うとかなめが飲みかけのラム酒のビンを突き出してくる。 

「間接キッス狙いね!」 

「馬鹿野郎!んな訳ねえだろ!たまたま他にやるもんがねえからだな!その……なんだ……」

 かなめはシャムに言われて言葉を濁しながらおずおずと下を向く。

「馬鹿は良いとして、本当に大丈夫か?」 

 カウラがそう言うと誠の背に手を当てて、起き上がろうとする誠を支える。バランスが少し崩れて、誠の顔とカウラの顔が数センチの距離で止まる。カウラのシャワーの後の石鹸の残り香が誠には心地よく感じられた。

 しかし、すぐさまアイシャのニヤついた顔を見つけた誠は、それをごまかすようにカウラの手を借りてベッドから降りた。

「大丈夫ですよ……ってすいません!」
 
 靴を履こうとした誠がよろける。彼を慌ててカウラが支えた。二人は思わず見つめあう形になる。

「ごほん」

 わざとらしくかなめが咳ばらいをした。誠はカウラの支えで、なんとか態勢を立て直すと、握っていたカウラの手を離した。

「それにしても行きは急ぎだっていうのにちんたらパルスエンジンで一週間もかかったのに、帰りは亜空間転移で三日で帰任かよ。まったく同盟法はどうなってるのかねえ……まあ『処刑執行』出動時は『ふさ』は軍艦扱いで帰りはもとの警察扱いってことはわかるんけど……まったく融通が利かねえな」 

 明らかにカウラ達を気にしているかなめがあてこするように嵯峨に言った。

「俺に言っても無駄だよ。同盟法は同盟機構が立案して同盟議会が可決した法案だ。そんな一司法執行関の部隊長がおいそれといじれるもんか」

「同盟機構を提唱して各法案をねじ込んだ人がそれを言います?」

「同機構を提唱?各法案をねじ込んだ?」

 誠はアメリアの『特殊』な言葉の意味を理解できずに反芻するばかりだった。

「いいの!病人は気にしなくても!それより祝勝会をするから!誠ちゃんの『偉大なパワー』で全宇宙を平和にする可能性が生まれた!そのお祝いよ!」

 糸目でそう言い切るアメリアを見上げて、誠はただ苦笑いを浮かべて自分の運命がこの『特殊な部隊』で変わってしまったことを悟った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

処理中です...