特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』② 海と革命家、時々娘

橋本 直

文字の大きさ
29 / 111
ハイカラなホテル

第29話 かなめの生まれた国

しおりを挟む
「そう言えば、西園寺。この機会に神前に自分の生まれた国を紹介してやったらどうだ?」

 突然、カウラが真顔でそう言った。下戸の彼女の白い頬が朱に染まっているので、それなりに酔ったうえでの言葉なのだと誠にも分かる。

「そうよね……誠ちゃんは社会常識ゼロの理系馬鹿だもんね」

 アメリアまでそう言って笑うので誠は頭を掻くしかなかった。

「なんでアタシがあんな国の話をしなきゃなんねえんだよ……その前にだ。アタシの名前について話した方がいいだろ?色々面倒だから」

「さすが、『太閤殿下』ってわけね」

 そう言って空いたグラスにギャルソンがワインを注ぐのを眺めているアメリアは悪戯っぽい顔でかなめを見つめた。

「名前ですか?西園寺さんて芸名なんですか?」

 誠はかなめの言葉が理解できずに頓珍漢な話をした。

「なんで芸名を名乗るんだ?アタシはいつからアメリアみたいな女芸人になったんだ?」

「アタシのは『ラジオネーム』よ!」

「自慢になるか!」

 二人のやり取りに誠はただ茫然とするばかりだった。

「まずだ。アタシの東和での書類上の名前は『西園寺かなめ』。ちゃんと普通に一般的な漢字の『西園寺』にひらがなで『かなめ』なわけだ」

「はあ、知ってます」

 かなめの当たり前すぎる説明に誠はおずおずとそう答えた。

「だが、甲武国のパスポートには『藤原朝臣要子ふじわらのあそんようし』となるわけだ。藤原は東和でもよくある『藤原』で、そのあとに『の』がついて、名前が重要の『要』に子供の『子』で『ようし』と読むわけだ」

「はあ……なんでなんです?」

 誠にはかなめの言葉が全く理解できなかった。

「そんなもん法律でそう決まってんだからしょうがねえだろ?」

 理解力の無い誠に半分呆れながらかなめはそう言ってワインを一息で飲み干した。

「さらにだ。アタシを知らない人がその名前で呼ぶのは法律違反なんだな、甲武国では」

「え?」

 さらに誠の理解のリミッターに亀裂が入り始めた。

「知り合いなら別にいいんだ。でも……学校とかでは『藤太姫とうたのひめ』と呼ぶ決まりなんだ」

「なんですか?それ?」

 だんだん誠は訳が分からなくなってきた。

「あれでしょ?甲武国の貴族の半数以上は姓『藤原』なのよ。その中の一番の人物が『藤太』で、かなめちゃんは女だから『姫』……結婚すると『殿』になるんだっけ?」

 アメリアはどうやらかなめのその名前の法則を理解しているようでそうサラリと言ってのける。

「まあな、つーかめんどくさいからアタシが『姫』と呼ばせてたから……甲武でアタシの周りで『姫』と言ったらアタシのこと……他の場所は知らねえけど、アタシの前では呼び捨てにするルールなの」

 またもや誠には理解不能なルールがかなめから発せられた。

「しかし、軍では違うんだろ?」

 カウラがそう言うということは東和でも甲武国について知っている人にとっては常識のことらしいと誠は感じて少し恥ずかしくなった。

「そうだな。軍は武家の勢力下だかんな……」

「武家?……もしかして『サムライ』ですか?」

 誠はまたもや子供のような言葉を吐いていた。

「あのなあ……甲武国は『大正ロマンあふれる国』とか東和で笑われてるだろ?大正時代って言ったら……華族がいて、士族がいて、平民がいる。それが大正時代。士族は役人や軍人や警察官に優先的になれる。平民は大根飯を食って飢えてる。それが大正ロマンの真実だ」

 かなめはズバリそう言い切った。

「あの……今でも甲武国の平民は『大根飯』とか言うものを食ってるんですか……っていうか『大根飯』ってどんな料理ですか?」

 誠の言葉に三人の女上司は大きなため息をついた。

「甲武国はね、身分制度があるのよ……まあ、ゲルパルトも『バロン』とか『ロード』とか『ナイト』とかあって、苗字に『フォン』とかつけてる人はいるけど……甲武国ほど露骨じゃないわね」

 とりあえず誠が理解したことは自分が庶民的な東和共和国に生まれてよかったということだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

『無能な聖女』と婚約破棄された私、実は伝説の竜を唯一従える『真の守護者』でした。~今さら国に戻れと言われても、もう遅いです~

スカッと文庫
ファンタジー
「魔力値たったの5だと? 貴様のような偽聖女、この国には不要だ!」 聖女として国を支えてきたエルナは、第一王子カイルから非情な婚約破棄を言い渡される。隣には、魔力値を偽装して聖女の座を奪った男爵令嬢の姿が。 実家からも見捨てられ、生きては戻れぬ『死の森』へ追放されたエルナ。しかし、絶望の中で彼女が目覚めさせたのは、人間には測定不能な【神聖魔力】だった。 森の奥で封印されていた伝説の銀竜を解き放ち、隣国の冷徹皇帝にその才能を見出された時、エルナを捨てた王国は滅びの危機に直面する――。 「今さら謝っても、私の結界はもうあなたたちのために張ることはありません」 捨てられた聖女が真の幸せを掴む、逆転劇がいま幕を開ける!

『リスタート1980 ― 四十歳OL、昭和で未来を書き換える ―』

momo
ファンタジー
40歳の独身OLがひょんな事から1980年に時間遡行している。日本を守る為、授かったスキルで泥船に乗った日本の危機を救うお話。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...