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ハイカラなホテル
第30話 複雑なかなめ
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会話が途切れるとウェイターが前菜のサラダを運んで来た。
誠は初めての体験にただ茫然とその見事に皿を並べていく様を眺めていた。
「だが、貴様の家の複雑さに比べたら大したことはない」
サラダにフォークを伸ばしながらカウラはそう言ってかなめを見つめた。
「なんだよ……アタシの家は……確かに複雑だな……特に叔父貴がらみが」
口調はがらっぱちだが、かなめのフォークさばきは手慣れたものだった。
「そう言えば……隊長は苗字が『嵯峨』ですけど……西園寺さんの叔父さんなんですよね?なんで苗字が違うんですか?」
フォークに慣れずにそのまま皿を手に持ってサラダを食べ始めた誠にアメリアやカウラが明らかに呆れた表情を浮かべる。
「まず言っとくと、叔父貴は爺さんの義理の息子なんだ……なんでも、おふくろの家の親戚とかで……十三歳の時にうちに来たらしい。そん時の名前が『西園寺新三郎』って言うの。アタシの親父とその兄貴の次で三男だから『新三郎』」
そこまで言うとかなめはまた慣れた様子でワインを口に含んだ。
「でも、隊長が僕の家に出入りするようになった時には『嵯峨惟基』って名乗ってたって母さんが言ってましたよ?」
誠はサラダを口に頬張りながら下品にそう言った。明らかに三人の女性上司が呆れているのは分かったが、他に食べ方を知らなかったので仕方がなかった。
「うちは、『殿上貴族』のトップなんだよ!貴族の家が断絶になると、うちにその家の家格が預かりになるわけ!」
物わかりの悪い誠を非難する調子でかなめが叫んでくる。
「お家断絶……なんか江戸時代みたいですね」
「まあ、甲武国は『大正ロマンあふれる国』だから」
アメリアがわけのわからないフォローを入れてくるが誠は完全に無視した。
「でだ。『嵯峨』の家は甲武の公爵家で特別な家の『四大公家』なんだけど、ずっと絶家になってたんだけど、爺さんが他の貴族連中への当てつけで叔父貴を当主に据えて再興させたわけ。だから、そん時に苗字が『嵯峨』になったわけだよ」
かなめは相変わらず上から目線で社会常識のない誠に向けてそう言った。
「でも……名前は?」
苗字のことは理解できても名前がなぜ変わるかは誠には理解できなかった。
「あのなあ……甲武の上流士族以上は『幼名』って制度があんの!叔父貴は十三歳でうちに来た上に嫡流じゃねえから幼名で『新三郎』って名乗ったわけ!『九郎判官義経』とか知らねえか?」
「知りません」
かなめの常識は誠にとっては完全にカルトクイズクラスのモノだった。
「だから……叔父貴はその規則で言うとだ『悪三郎内府惟基』って呼ぶの!新聞とかではそっちで出てくるの!」
「え?甲武国の新聞ってそんな珍妙な呼び方するんですか!」
誠は確信した。自分は甲武国には住むことができないだろうと。
「まあ……かなめちゃんの『読める』新聞は誠ちゃんには絶対に読めないから大丈夫よ」
またアメリアが妙なことを言うが無視しようとしたが、誠はその言い回しが気になってアメリアの方に目を向けた。
「だって……かなめちゃんは活字が読めないもの」
「え?活字が読めない?」
誠はあまりに意外な言葉に呆然とした。そしてそのまま視線をかなめに向ける。
「活字なんてのは明治時代に学のねえ連中が考え出した下賤な文字なの!そんなの殿上貴族は読んじゃいけねえの!ちゃんと『道風流』とか『定家流』で書け!」
かなめはそう叫ぶとたれ目で誠をにらみつけた。
「でも……活字が読めないと困りません?」
おどおどと誠はかなめにそう尋ねる。
「そんなもん、アタシ専属の国文学者の書家が書き起こすから問題ねえ!それにアタシは頭が電脳化してるからすべて音声データで理解できんの!活字を読む必要なんてねえの!」
もはやここまで行くと暴論である。
「それに、西園寺の脳は完全な『野球脳』だからな。活字を見るとすべて野球関連の単語が思い出されて意味不明になる」
カウラのなんだかよくわからない説明に誠はただあきれるしかなかった。
誠は初めての体験にただ茫然とその見事に皿を並べていく様を眺めていた。
「だが、貴様の家の複雑さに比べたら大したことはない」
サラダにフォークを伸ばしながらカウラはそう言ってかなめを見つめた。
「なんだよ……アタシの家は……確かに複雑だな……特に叔父貴がらみが」
口調はがらっぱちだが、かなめのフォークさばきは手慣れたものだった。
「そう言えば……隊長は苗字が『嵯峨』ですけど……西園寺さんの叔父さんなんですよね?なんで苗字が違うんですか?」
フォークに慣れずにそのまま皿を手に持ってサラダを食べ始めた誠にアメリアやカウラが明らかに呆れた表情を浮かべる。
「まず言っとくと、叔父貴は爺さんの義理の息子なんだ……なんでも、おふくろの家の親戚とかで……十三歳の時にうちに来たらしい。そん時の名前が『西園寺新三郎』って言うの。アタシの親父とその兄貴の次で三男だから『新三郎』」
そこまで言うとかなめはまた慣れた様子でワインを口に含んだ。
「でも、隊長が僕の家に出入りするようになった時には『嵯峨惟基』って名乗ってたって母さんが言ってましたよ?」
誠はサラダを口に頬張りながら下品にそう言った。明らかに三人の女性上司が呆れているのは分かったが、他に食べ方を知らなかったので仕方がなかった。
「うちは、『殿上貴族』のトップなんだよ!貴族の家が断絶になると、うちにその家の家格が預かりになるわけ!」
物わかりの悪い誠を非難する調子でかなめが叫んでくる。
「お家断絶……なんか江戸時代みたいですね」
「まあ、甲武国は『大正ロマンあふれる国』だから」
アメリアがわけのわからないフォローを入れてくるが誠は完全に無視した。
「でだ。『嵯峨』の家は甲武の公爵家で特別な家の『四大公家』なんだけど、ずっと絶家になってたんだけど、爺さんが他の貴族連中への当てつけで叔父貴を当主に据えて再興させたわけ。だから、そん時に苗字が『嵯峨』になったわけだよ」
かなめは相変わらず上から目線で社会常識のない誠に向けてそう言った。
「でも……名前は?」
苗字のことは理解できても名前がなぜ変わるかは誠には理解できなかった。
「あのなあ……甲武の上流士族以上は『幼名』って制度があんの!叔父貴は十三歳でうちに来た上に嫡流じゃねえから幼名で『新三郎』って名乗ったわけ!『九郎判官義経』とか知らねえか?」
「知りません」
かなめの常識は誠にとっては完全にカルトクイズクラスのモノだった。
「だから……叔父貴はその規則で言うとだ『悪三郎内府惟基』って呼ぶの!新聞とかではそっちで出てくるの!」
「え?甲武国の新聞ってそんな珍妙な呼び方するんですか!」
誠は確信した。自分は甲武国には住むことができないだろうと。
「まあ……かなめちゃんの『読める』新聞は誠ちゃんには絶対に読めないから大丈夫よ」
またアメリアが妙なことを言うが無視しようとしたが、誠はその言い回しが気になってアメリアの方に目を向けた。
「だって……かなめちゃんは活字が読めないもの」
「え?活字が読めない?」
誠はあまりに意外な言葉に呆然とした。そしてそのまま視線をかなめに向ける。
「活字なんてのは明治時代に学のねえ連中が考え出した下賤な文字なの!そんなの殿上貴族は読んじゃいけねえの!ちゃんと『道風流』とか『定家流』で書け!」
かなめはそう叫ぶとたれ目で誠をにらみつけた。
「でも……活字が読めないと困りません?」
おどおどと誠はかなめにそう尋ねる。
「そんなもん、アタシ専属の国文学者の書家が書き起こすから問題ねえ!それにアタシは頭が電脳化してるからすべて音声データで理解できんの!活字を読む必要なんてねえの!」
もはやここまで行くと暴論である。
「それに、西園寺の脳は完全な『野球脳』だからな。活字を見るとすべて野球関連の単語が思い出されて意味不明になる」
カウラのなんだかよくわからない説明に誠はただあきれるしかなかった。
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