特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』② 海と革命家、時々娘

橋本 直

文字の大きさ
73 / 111
休日の終わり

第73話 帝国騎士団

しおりを挟む
「しかし、叔父貴の奴。珍しく焦ってるな」 

 司法局実働部隊基地の隣に隣接している巨大な菱川重工豊川工場の敷地が続いている。夜も休むことなく走っているコンテナーを載せたトレーラーに続いて動き出したカウラのスポーツカーの後部座席でかなめは不機嫌そうにひざの上の荷物を叩きながらつぶやいた。

「そうは見えませんでしたけど」 

 助手席の誠がそう言うと、かなめが大きなため息をついた。

「わかってねえなあ」 

「まあしょうがないわよ。私だってあの不良中年の考えてることが少しわかったような気がしたの最近だもの」 

 そう言って自分で買ってきたマックスコーヒーをアメリアが口にする。

「どうしてわかるんですか?」 

「部隊長は確定情報じゃないことを真剣な顔をして口にすることは無い。それが隊長の特徴だ」 

 ギアを一段あげてカウラがそう言った。こういう時は嘘がつけないカウラの言葉はあてになる。確かに誠が見てもあのように本音と明らかにわかる言葉を吐く嵯峨を見たことが無かった。

「法術武装隊に知り合いがいねえだ?ふざけるなっての。東都戦争で叔父貴の手先で動いてた嵯峨直参隊の連中の身元洗って突きつけてやろうか?」 

 かなめはそう言うとこぶしを握り締めた。

「たぶん隊長の手元に着く前に安城中佐にデータ改ざんされるわよ……隊長もかわいそうよね……安城中佐に粉振りかけても無駄なのに」 

 そのアメリアの言葉にかなめは右手のこぶしを左手に叩きつける。

「暴れるのは止めてくれ」 

 いつもどおりカウラは淡々とハンドルを操っていた。

「安城中佐って……」

 誠はこの中では一番まともな答えを返してくれそうなカウラに声をかけた。

「司法局公安機動隊の隊長だ……うちと違って正式な『特殊部隊』の隊長って訳だ」

「なるほど」

 社会知識のない誠にもここが『特殊な部隊』で、他に正式な『特殊部隊』が存在することくらいのことは理解できた。

「でも、西園寺さんでもすぐわかる嘘をついたわけですか。じゃあどうしてそんなことを……」 

「決まってるじゃない、あの人なりに誠君のこと気にしているのよ。さすがに茜お嬢さんを司法局に引き込むなんて私はかなり驚いたけど」 

 飲み終わったコーヒーの缶を両手で握り締めているアメリアの姿がバックミラーを通して誠の視線に入ってくる。

「どう読むよ、第一小隊隊長さん」 

 かなめの声。普段こういうときには皮肉が語尾に残るものだが、そこには場を凍らせる真剣さが乗っていた。

「法術適正所有者のデータを知ることが出来てその訓練に必要な場所と人材を所有する組織。しかも、それなりの資金力があるところとなると私は一つしか知らない……そこが今回の刺客と何かのつながりがあると考えるのが自然だ」

 その言葉に頷きながらかなめが言葉を引き継ぐ。 

「遼帝国青銅騎士団」 

 カウラの言葉をついで出てきたその言葉に誠は驚愕した。

「そんな!遼帝国って発展途上国ですよ!そんな法術とか理解できそうにないじゃないですか!」 

 誠が声を張り上げるのを見て、かなめが宥めるようにその肩を押さえた。

 車内は重苦しい雰囲気に包まれる。

「神前。確かにあそこは発展途上国だが……法術に関しては先進国なんだ……法術の存在が無かった時代ならまだしも、今はその存在は公になった。青銅騎士団が『剣と魔法の世界の特殊部隊』として注目されてたのは事実なんだぜ……まあ五年前の選挙でを南都軍閥の頭目、アンリ・ブルゴーニュが政権を担うようになってからは経済も好調だ……どうなることやら」 

 そう言うとかなめはタバコを取り出してくわえる。

「西園寺。この車は禁煙だ」 

「わあってるよ!くわえてるだけだっつうの」 

 カウラの言葉に口元をゆがめるかなめ。そのままくわえたタバコを箱に戻す。

「私のところにも結構流れてくるわよ。青銅騎士団ってブルゴーニュ政権になってからかなりのメンバーが入れ替わってるわね。団長ナンバルゲニア・シャムラード中尉くらいじゃないの?生え抜きは」 

 そう言いながらアメリアは工場の出口の守衛室を眺めている。信号が変わり再び車列が動き出した。

「皇帝と言う重石が取れた今。その一部が暴走することは十分考えられるわな。ようやく平和が訪れたとはいえ、30年近く戦争状態が続いた遼南だ。地方間の格差や宗教問題で、いつ火が入ってもおかしいことはねえな」 

 バックミラー越しに見えるかなめの口元は笑っていた。

「西園寺は相変わらず趣味が悪いな。まるで火がついて欲しいみたいな顔をしているぞ」 

 そう言うとカウラは中央分離帯のある国道に車を乗り入れる。

「ちょうど退屈していたところだ。多少スリルがあった方が人生楽しめるもんだぜ?」 

「スリルで済めばね」 

 そう言うとアメリアは狭い後部座席で足を伸ばそうとした。

「テメエ!半分超えて足出すな!」 

「ごめんなさい。私、足が長いから」 

「そう言う足は切っとくか?」 

「冗談よ!冗談!」 

 後部座席でどたばたとじゃれあう二人を見て、誠は宵闇に沈む豊川の街を見ていた。東都のベッドタウンである豊川。ここでの暮らしも一月を越えていた。職場のぶっ飛んだ面々だけでなく、寮の近くに広がる商店街にも知り合いが出来てそれなりに楽しく過ごしている。

 遼州人、地球人。元をたどればどちらかにつながるであろう街の人々の顔を思い出して、今日、彼を襲った傲慢な法術使いの言葉に許しがたい怒りの感情が生まれてきた。

 誠は遼州人であるが、地球人との違いを感じたことなど無かった。先月の自分の法術の発現が大々的にすべてのメディアを席巻した事件から、目には見えないが二つの人類に溝が出来ていたのかもしれない。

 そんなことを考えながら流れていく豊川の町の景色を眺めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『無能な聖女』と婚約破棄された私、実は伝説の竜を唯一従える『真の守護者』でした。~今さら国に戻れと言われても、もう遅いです~

スカッと文庫
ファンタジー
「魔力値たったの5だと? 貴様のような偽聖女、この国には不要だ!」 聖女として国を支えてきたエルナは、第一王子カイルから非情な婚約破棄を言い渡される。隣には、魔力値を偽装して聖女の座を奪った男爵令嬢の姿が。 実家からも見捨てられ、生きては戻れぬ『死の森』へ追放されたエルナ。しかし、絶望の中で彼女が目覚めさせたのは、人間には測定不能な【神聖魔力】だった。 森の奥で封印されていた伝説の銀竜を解き放ち、隣国の冷徹皇帝にその才能を見出された時、エルナを捨てた王国は滅びの危機に直面する――。 「今さら謝っても、私の結界はもうあなたたちのために張ることはありません」 捨てられた聖女が真の幸せを掴む、逆転劇がいま幕を開ける!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。  カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。 ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)  異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。  他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。  自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。

男装の薬師は枯れぬ花のつぼみを宿す

天岸 あおい
ファンタジー
久遠の花と呼ばれる優秀な薬師の一族。 そんな彼らを守り続けていた、守り葉と呼ばれし者たち。 守り葉として育てられた子供・みなもだったが、ある日隠れ里を襲われ、生き別れた姉・いずみや仲間たちとの再会を夢見て薬師として生きながら、行方を捜していた。 そんなみなもの元へ現れた、瀕死の重傷を負った青年レオニード。 彼との出会いがみなもの運命の歯車を動かしていく―――。 男装の麗人で、芯が強くて自分の手を汚すことを厭わない主人公と、そんな一筋縄ではいかない主人公を一途に想う、寡黙で真面目な青年の物語。 R18ではありませんが、後半は大人向けの展開になっています。 ※他サイトで公開していたものを改題・改稿しております。 ※今作は非BLです。期間限定で掲載致します。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

処理中です...