特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』② 海と革命家、時々娘

橋本 直

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西園寺かなめ

第91話 プラモデル

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 立ったままかなめは口にスモークチーズを放り込んで外の景色を眺める。窓には吹き付ける風に混じって張り付いたのであろう砂埃が、波紋のような形を描いている。部屋の中も足元を見れば埃の塊がいくつも転がっていた。

「西園寺さん。掃除したことあります?」 

 そんな誠の言葉に、口にしたウォッカを吐きかけるかなめ。

「……一応、三回くらいは……」 

「ここにはいつから住んでるんですか?」 

 かなめの顔がうつむき加減になる。たぶん部隊創設以来彼女はこの部屋に住み着いているのだろう。寮での掃除の仕方、それ以前に実働部隊の詰め所の彼女の机の上を見ればその三回目の掃除から半年以上は経っていることは楽に想像できた。

「掃除機ありますか?」 

「馬鹿にするなよ!一応、ベランダに……」 

「ベランダですか?雨ざらしにしたら壊れますよ!」 

「そう言えば昨日の夜、電源入れたけど動かなかったな」 

 誠は絶句する。しかし、考えてみれば甲武国の四大公の筆頭である西園寺家の当主である。そんな彼女に家事などが出来るはずも無い。そう言うところだけはかなめはきっちりと御令嬢らしい姿を示して見せる。

「じゃあ、荷物を運び出したら。掃除機借りてきますんで掃除しましょう」 

「やってくれるか!」 

「いえ!僕が監督しますから西園寺さんの手でやってください!」 

 誠の宣言にかなめは急にしょげ返った。彼女は気分を変えようと今度はタバコに手を伸ばした。

「それとこの匂い。入った時から凄かったですよ。寮では室内のタバコは厳禁です」 

「それ嘘だろ!オメエの部屋でミーティングしてた時アタシ吸ってたぞ!」 

「あれは来客の場合には、島田先輩の許可があれば吸わせても良いことになっているんです!寮の住人は必ず喫煙所でタバコを吸うことに決まっています!」 

「マジかよ!ったく!失敗したー!」 

 そう言うとかなめは天井を仰いでみせた。

「そうだ……神前。ついて来い」 

 かなめはそう言って急に立ち上がる。誠は半分くらい残っていたビールを飲み下してかなめの後に続く。誠が見ていると言うのに、かなめはぞんざいに寝室のドアを開ける。

 ベッドの上になぜか寝袋が置かれているという奇妙な光景を見て誠の意識が固まる。

「あれ、何なんですか?」 

「なんだ。文句あるのか?」 

 そのままかなめはそそくさと部屋に入る。ベッドとテレビモニターと緑色の石で出来た大きな灰皿が目を引く。机の上にはスポーツ新聞が乱雑に積まれ、その脇にはキーボードと通信端末用モニターとコードが並んでいる。

「なんですか?これは」 

 誠はこれが女性の部屋とは思えなかった。運用艦『ふさ』のカウラの無愛想な私室の方が数段人間の暮らしている部屋らしいくらいだ。

「持っていくのは寝袋とそこの端末くらいかな」 

「あの、西園寺さん。僕は何を手伝えば良いんですか?」 

 机の脇には通信端末を入れていた箱が出荷時の状態で残っている。その前にはまた酒瓶が三本置いてあった。

「そう言えばそうだな」 

 かなめは今気がついたとでも言うように誠の顔を見つめる。

「ちょっと待ってろ。テメエに見せたいモノがあるから」 

 そう言うと壁の一隅にかなめが手を触れる。スライドしてくる書庫のようなものの中から、明らかに買ったばかりとわかるようなプラモデルの箱を取り出す。

「誠はこう言うのが好きだろ?やるよ」 

 誠はかなめの顔を見つめた。かなめはすぐに視線を落とす。それは地球製の戦車のプラモデルだった。

「もしかしてこれを渡すために……」 

「勘違いすんなよ!アタシはもう少しなんか運ぶものがあったような気がしたから呼んだだけだ!これだってたまたま街を歩いてたら売ってたから……」 

 そのまま口ごもるかなめ。それは誠のあまり好きではないドイツ軍の回収型戦車のプラモデルだった。しかし、あまりモデルアップされない珍しい一品だった。

「ありがとう……ございます」

「もっと嬉しそうに言え!」

 いつもの強引な彼女に戻ったかなめを見て誠は笑みを浮かべた。
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