特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』② 海と革命家、時々娘

橋本 直

文字の大きさ
106 / 111
新しい日常

第106話 出勤風景

しおりを挟む
「なんだ、早かったな」 

 声に気づいて振り向けばカウラが立っている。普通の隊員は隊で着替えるはずなのだが、彼女は東和軍の夏季勤務服の半袖のワイシャツ、そして作業用ズボンという奇妙な格好をしていた。

「何か気になることでもあるのか?」 

 カウラはいかにも不思議そうに尋ねてくる。おしゃれなどには関心のないカウラらしいと言えばそれまでだが、定時前に制服を見せられて誠は少し食傷気味だった。

「その格好でいつも……」

「そうだが、気になることでもあるのか?」

 カウラはそう答えると玄関の下駄箱から革靴を取り出す。

「相変わらずおしゃれなんてどうでも良いって格好じゃないの、カウラちゃん。私服とか持ってないの?」 

 声の主、アメリアの方を振り向いて誠は後悔の念に抱かれた。そこには誠も見ている深夜アニメのファンシーなキャラクターのTシャツを着たアメリアが歩いてくる。

「貴様の方がよっぽど恥ずかしいと思うが」 

「大丈夫、見る人が見ないとわからないから」 

 確かにそのキャラクターが実はヤンデレで最終回に大虐殺を行う内容だったために打ち切りにされたアニメのキャラだと言うことは一般人は知らないだろう。誠はそう思いながら得意げなアメリアに生ぬるい視線を送る。

「お前等、本当に頭ん中大丈夫か?」 

 タンクトップにジーンズ。ヒップホルスターに愛用の銃を挿したかなめが笑う。かなめもアメリアも、そして誠も唖然としながら彼女が寮を出るのを見送った。

「ちょっと待ちなさい!かなめちゃん!」 

 アイシャがかなめの肩をつかむ。そしてすばやく拳銃を抜き取った。

「かなめちゃんもしかしてこのまま歩こうとしてない?」 

「だってアタシ等コイツの護衛だぜ?銃の一挺くらい持っているのが……」 

「だからって抜き身で持ち歩くな」 

 カウラの声で渋々かなめはアメリアに銃を任せた。アメリアは手にしたバックに銃を入れる。

「これからはこう言うものを持ち歩きなさい」 

 アメリアは手にしたブリーフバックを指し示した。その重そうな持ち方から見て、彼女の愛用の拳銃P7M13ピストルが入っていることは間違いないと誠は思った。

「それじゃあ行くぞ」 

 銃を奪われたもののアメリアの言いたいことはよくわかるので、かなめは黙って遼の玄関を出る歩き始める。夏の日差しはもうかなり上まで上がってきていた。アメリアは通り過ぎる猫を眺めながら取り出した扇子を日よけ代わりにしている。

 寮の駐車場は半分ほどが埋まっていた。今の時間に止まっているのは夜勤か遅番の隊員の車が大半である。ここまできて自分のバイクで出勤しますとはいえない状況に誠は運転するだろうカウラを見つめていた。

「早く開けろ。暑いんだから」 

 カウラのスポーツカーの前でかなめが呟く。またため息をついたカウラはオートロックを開いた。カウラは助手席のドアを開き、シートを倒すとそのまま後部座席に滑り込む。

「こっち来い!」 

 そう言うとかなめはサイボーグならではの強い力で誠を後部座席に引きずり込んだ。

「そんなに強く引っ張らなくても……」 

「がたがた言うな!カウラエンジンかけろ、それから窓も開けるんだぞ!」 

 かなめの言葉に少し不愉快そうな顔をしながらカウラはエンジンをかけ、そのまま窓を開けた。

「今の時間だと駅前に向かう道は全部ふさがってるわね。裏道で行きましょ」 

 アメリアはそう言いながらナビを設定している。

「そうだな。引越しした直後に遅刻と言うのもつまらないからな」 

 そう言うとカウラのスポーツカーはすばやくバックし、そのまま切り替えして駐車場を出た。

「狭いなあ。カウラ、車買い替えないのか?」 

 かなめの言葉を無視してカウラはアクセルを吹かす。後ろを覗き込んでかなめと誠が密着しているのを見てアメリアは気に入らないというようにこめかみを振るわせながらバックミラー越しに二人を凝視していた。。

「あら、かなめちゃんは良いんじゃないの?このままのほうが。誠ちゃんとラブラブごっこが出来るじゃない」 

 一瞬、アメリアの言葉が理解できなかったかなめだが、その視線でアメリアが何を言おうとしているのか理解すると誠の足を踏みつけた。

「痛いですよ!西園寺さん!」

 誠は痛みの叫びをかみ殺してそう叫んだ。

「空が高いや。空気は夏の気温だがもう秋かねえ」 

 痛みにうずくまる誠を見ながらかなめは外からの風に短めの髪をなびかせていた。カウラは誠に同情するようにバックミラーの中で笑みを浮かべている。

「じゃあクーラーは要らないな」 

「おい、風情ってモノの話をしただけだ。ちゃんとつけろよ、クーラー」 

 かなめに言われなくてもカウラはもうすでにクーラーを動かしていた。

「こんな道あったんですね」 

 住宅街の中。大通りなら渋滞につかまって動けなくなる時間だと言うのに確かに回り道とは言えすいすいとカウラの赤いスポーツカーは走る。

「このルートの方が早いのよ。まあ、誠ちゃんは原付だから渋滞とか関係ないものね。中央大通りを走れれば確かに一番早いんだけど渋滞があるから……」 

 アメリアは涼しげな目を細める、細い路地、他に車の姿は無かった。そして住宅街を抜けると一面の田んぼが広がっている。

「ここから先はどう行っても大丈夫よ。まあ、最後は菱川重工の正門で工場ラインの出勤組みの渋滞につかまるでしょうけど」 

 アメリアが伸びをする。カウラはそのまま細い農道を飛ばしている。

「そう言えば今日はおせっかいな甲武海軍の面々とかもついてこないな」 

 大きなあくびをした後、かなめはそうつぶやいた。

「ああ、それらしい連中なら駐車場を出て住宅街の中でまいたぞ」 

 あっさりとカウラはそう言った。

「カウラ、お前なあ。せっかくの甲武の税金使って護衛してくれるって言う連中まいてどうすんだよ」 

 至極もっともなかなめの突っ込みにカウラが笑みを浮かべた。車は菱川重工豊川の正門へと続く通称『産業道路』に出た。トレーラーが次々と走っていく中、カウラはタイミングを合わせてその流れに乗った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。

孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。 目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸 3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。 「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

処刑を望んだ悪役令嬢ですが、幼なじみの騎士が手放してくれません

藤原遊
恋愛
「私は処刑される運命の悪役令嬢――そう信じて、死を望んでいた。 けれど、幼なじみの騎士は『この命に代えても守る』と離してくれなくて……?」 侯爵令嬢アメリアは、幼い頃から「悪役令嬢」として囁かれてきた。 その冷たい視線と噂の中で、彼女は静かに己の役目を受け入れていた――。 けれど、すべてを遠ざけようとする彼女の前に現れたのは、まっすぐに想いを示す幼なじみの騎士。 揺らぐ心と、重ねてきた日々。 運命に逆らえないはずの未来に、ほんの少しの希望が灯る。 切なく、温かく、甘やかに紡がれる悪役令嬢物語。 最後まで見届けていただければ幸いです。 ※ 攻略対象の叔母である悪役令嬢に転生したけれど、なぜか攻略対象の甥に激重に愛されてます にて、親世代の恋愛模様を描いてます。

殲滅(ジェノサイド)ですわ~~!! ~異世界帰りの庶民派お嬢様、ダンジョン無双配信を始めます~

SAIKAI
ファンタジー
「わたくしの平穏なニート生活を邪魔するゴミは……殲滅(ジェノサイド)ですわ~~!!」  ブラック企業の理不尽な上司に対し、「代わりがいくらでもいるとおっしゃるなら、さっそくその有能な方を召喚なさってはいかが?」と言い残し、颯爽と退職届を置いてきた華園凛音(はなぞのりおん)。  実家で優雅なニート生活を満喫しようとした彼女だったが、あろうことか自宅の裏庭にダンジョンが出現してしまう。 「お庭にゴミを捨てるなんて、育ちが悪くってよ?」  実は彼女、かつて学生時代に異世界に召喚され、数多の魔王軍を「殲滅(ジェノサイド)」してきた伝説の勇者だった。 現代に戻り力を封印していた凛音だが、暇つぶしと「デパ地下のいいケーキ代」を稼ぐため、ホームセンターで購入したお掃除用具(バール)を手に、動画配信プラットフォーム『ToyTube』でのダンジョン配信を決意する!  異世界の常識と現代の価値観がズレたままの凛音がバールを一振りするたび、世界中の視聴者が絶叫し、各国の専門家が物理法則の崩壊に頭を抱え、政府の調査団が土下座で資源を請い願う。  しかし本人はいたって庶民派。 「皆様、スパチャありがとうございますわ! これで今夜は高い方のメンチカツですわ! 最高ですわ~~!!」  これは、本人は至って普通の庶民派お嬢様だと思っているニートが、無自覚に世界ランクをのぼり詰める殲滅の記録。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

救国の代償で白髪になった聖女、一度のミスを理由に「無能の戦犯」として追放される ~隣国の覇王に拾われ、愛され、奇跡の力を見せつける~

スカッと文庫
ファンタジー
聖女アリシアは、百年に一度の大氾濫から国を守るため、禁忌の魔力全解放を行い、単身で数万の魔物を殲滅した。その代償として、彼女の美しい金髪は真っ白な「白雪色」に染まり、魔力は一時的に枯渇してしまう。 しかし、その功績はすべて現場にいなかった「偽聖女セシリア」に奪われ、アリシアは「結界を一部損壊させた戦犯」「魔力を失った役立たず」として、婚約者の王太子ギルバートから国外追放を言い渡される。 「失敗したゴミに、この国の空気は吸わせない」 泥の中に捨てられたアリシア。しかし、彼女を拾ったのは、敵対国として恐れられていた帝国の「武徳皇帝」ラグナールだった。彼はアリシアの白髪が「高純度の神聖魔力による変質」であることを瞬時に見抜き、彼女を帝国の宝として迎える。 数ヶ月後。アリシアが帝国の守護聖女として輝きを取り戻した頃、王国では「一度きりの奇跡」だったセシリアの魔力が尽き、本当の滅亡が始まっていた。 「今さら結界が解けたと泣きつかれても、もう私の魔力は一滴も残っていません」

処理中です...