遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の夏休み

橋本 直

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第二十二章 『特殊な部隊』の前祝

第67話 ブラックカードと地獄極楽

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「じゃあ始めるか!」

 それから誠とカウラは小夏に開店準備の手伝いをさせられた。店の雇いの調理人の源さんと仕込みをしていた春子が顔を出すころには『特殊な部隊』の面々は次々に顔を出した。

「本当にかなめちゃんのおごりなの?後でランちゃんのツケに足しといてなんて落ちは無しよ」

 不審そうな表情を浮かべたアメリアが小夏から受け取ったビールを注ぎながらそう言った。

「金は下ろしてきた。ここはカード使えねえからな。アタシを誰だと思ってるんだ?こう見えても一応ブラックカードの五枚や六枚くらいは持ってるんだぜ」

 自分用のラム酒をグラスに注いだかなめはそう言ってアメリアに反撃した。まあ、甲武一のお姫様なのだからそれくらいの事は当然なのだと誠は受け流した。

「それにしても菰田君は来ないのね」

 周りを見渡していたこの『特殊な部隊』ではレアな常識人であるパーラは今日の掃除業務の中心人物である菰田が居ないことを気遣っていた。

「パーラ。菰田の話はするな。酒がまずくなる。アイツは酒が飲めないし鶏肉が食えないからな……ヒンヌー教では鶏肉は禁忌なのかな?なあカウラ」

 菰田の事は元々嫌いなかなめがふざけてそう言った。

「私に聞くな。迷惑しているのは私の方なんだ」

 パーラとかなめとカウラの漫才が繰り広げられている間も次々と場にビールが配られて行く。

「それじゃあ!今日一日ご苦労さん!明日からはよろしく!」

 そう言うとかなめはグラスを掲げた。

『カンパーイ』

 店中に一同の大声が響いた。

「今日は送ってもらって助かりました、パーラさん。でも、俺は酒飲んでもバイクぐらい運転できますよ」

 島田はいつものように非合法のヤンキー発言をした。

「島田君!警察官が飲酒運転してどうするのよ!全く島田君には順法精神と言うものが無いのかしら……だからうちはいつまで経っても『特殊な部隊』扱いなのよ」

 島田の暴言にパーラは心底呆れたような表情を浮かべる。

「じゃあ、焼鳥盛り合わせができたから!順番に回していってね」

 焼きあがった焼鳥盛り合わせを春子がアメリアに手渡す。アメリアは振り向いてテーブル席の技術部の男子隊員にそれを手渡す。

 手慣れたその手並みに感心しながら誠も気分を良くしてビールを飲んだ。

「それにしてもあれね。菰田君って本当に付き合い悪いわね……と言うか『ヒンヌー教徒』の面々。この場に一人も居ないじゃない。掃除の時には手伝ってくれたのに」

 三杯もビールを飲んでいい気分になってきたアメリアはそう言って周りを見回した。彼女の言うように誠が知っている『ヒンヌー教徒』の男子隊員の姿は菰田をはじめとして一人も無かった。

「アイツ、去年のクリスマスの時も年末から正月にかけての年越しの飲み会の時も先に帰ったよな。確かに子供がいる部下のパートのおばちゃん達が先に上がるのは分かるぜ。でも、アイツの付き合いの悪さは……」

 かなめはラムを舐めながらそう言って下品な笑いを浮かべてみせる。

「私は酒は飲まないがこういう雰囲気は好きだぞ……なあ、パーラ」

 カウラは同じく烏龍茶を飲んでいるパーラに声をかけた。

「私の場合運転手が私だから飲まないんであって、誰かが私の車を代わりに運転してくれるなら飲みたいけど」

 いつもいいように使われているだけと言う自覚のあるパーラは不機嫌そうにそう言った。

「じゃあ、俺が運転しましょうか?」

 その様子を野生の勘で察知した島田が合の手を入れる。

「島田君はもう飲んでるでしょ?本当に島田君には学習能力と言うものが無いのかしら?」

 この場で烏龍茶を飲んでいるのは車を運転してきたカウラとパーラくらいだった。他の隊員達は帰りはここから五キロ先の寮まで歩くつもりでビールを飲んでいた。

「そう言えば白石さんが言ってたぜ、『菰田君ももう少し身なりに気を使ったらいいのに』って。アイツの私服はいつも同じ服だからな。しかもセンスが無くてどこで買って来たか分からない……ああ、センスが悪いのはアメリアか!」

 かなめはつくねを頬張りながらアメリアを指さす。

「そんな、菰田君と一緒にしないでよ。私は個性重視でこういう服を着てるの!じゃあ、誠ちゃん、これは何と読むでしょう?」

 そう言うとアメリアは誠に向けてTシャツの前を広げて見せた。

「『地獄極楽』……どこで売ってるんです?そのTシャツ」

 誠はアメリアが私服として着てくるTシャツの販売元のセンスを本気で疑っていた。

「でもアイツ等私服を買わずに貯めた金で何してんだ?カウラ……アイツから金、貰ってる?」

 心底不思議だというようにかなめは話題についていけないという表情をしていたカウラに尋ねた。

「いや、そもそもなんで私が菰田達から金を貰わないといけないんだ?」

 かなめの言うことがまったく理解できかねるというようにカウラは首を横に振った。

「大体、経理なんて金を扱う仕事をしていると金を貯めたくなるんじゃねえか?運航部の女子で投資が上手いのがいるけどそいつと話してるとこ見たことが無いから貯めた金を投資しているって訳でもねえみたいだしな」

 確かにかなめが言うようにケチで知られる菰田の金の使い道はこの場の一同にとっては最大の謎だった。

「私も菰田君が散財してるなんて話聞いたことが無いわね。あ!」

 突然気づいたことがあるというようにアメリアが手を叩いた。

「なんだよ、アメリア。いきなりびっくりするじゃねえか」

 かなめは驚いて口にしていたネギまを吐きかけながらそう言った。

「彼、本気でカウラと結婚できると信じてるのかも!豪勢な結婚式の費用の為に爪に火をともして貯金してるのかもしれないわね。なんていじらしい……と言うかむなしい話ね。カウラは菰田君が嫌いなんでしょ?」

「ああ、私は菰田が嫌いだ。生理的に受け付けない。アイツは仕事ぶりは悪くない。それとこれとは別の話だ。人間、相性というものがある。私は菰田が近づいてくると自然に身構えてしまう癖が出来てしまった。こればかりは仕方がないことだ。諦めてもらうことを待つしか仕方が無いんだ」

 アメリアの思い付きとその言葉へのカウラの返しにこの場にいる一同は一瞬の沈黙の後に大爆笑した。

「菰田には悪いがこれは仕方のない事なんだ」

 はっきりとカウラはそう言った。

「カウラさんにそこまで嫌われて……アイツも哀れな奴だな」

 島田は彼もまた菰田とは犬猿の仲なのでこれ以上ない喜びようをしている。

「カウラさん、その言い方はあまりに菰田先輩に失礼なんじゃないですか?」

 さすがの誠もここまで嫌われている菰田に同情を覚えてそう言った。

「神前。貴様は菰田が好きか?」

 何とかフォローを入れようとした誠にカウラが真剣な表情でそう言ってくる。

「どちらかと言えば嫌いです」

 誠は本音を口にしていた。

「ほら見ろ!菰田を好きな奴なんて隊に一人も居ねえんだ……ああ、取り巻きの『ヒンヌー教徒』の連中は別か」

 この場に菰田が居ないことを良いことにかなめはそう言って嬉しそうにラム酒を舐めた。

「ああ、これ以上アイツの話をしてると酒がまずくなる。誰かカラオケでも歌えよ」

 最初に話題を振っておきながらそれをすっかり忘れたというようにかなめは周りを見渡した。

「正人!デュエットしよ!じゃあ『愛の歌』よろしく!」

 かなめの言葉を待っていたかのようにこれまでおとなしくしていたサラが島田の手を引いて巷で人気の曲名を言って歩き出した。

「えー、俺その曲歌えねえよ……ってまあ、サラには付き合ってやるか。なんたって『彼氏』だからな」

 笑顔の島田はそう言うと茶髪のヤンキーが歌うにはふさわしくないようなポップな曲調のイントロに合わせてマイクを掲げた。

 モテない人間が集まった国の国民であるその他の面々は、二人のラブラブぶりに明らかに嫉妬の表情を浮かべる。

「班長頑張ってくださいねー」

「島田君、サラに恥をかかせないでね」

 技術部員の応援もパーラの言葉もどこか白々しい響きをたたえていた。

「アメリアー!パーラー!しっかり二人の愛のデュエットを見ててねー!」

 そうサラが叫んだあと元気に歌い始めると全員がサラと島田を無視して焼鳥に集中した。

「こんなにあからさまに島田先輩達を浮かせなくても……」

 誠は少しはモテたいという意識があるのでそう言って仕方なしに曲に合わせて拍手をした。

「いいのよ、いつも見せつけてくれちゃって。どうせ島田君は本当にこの曲を歌えないんだから画面の文字を棒読みするだけで盛り上がらないわよ」

 一番二人の関係に嫉妬しているアメリアはそう言いながらビールを一気に口に流し込んだ。

「あの人なりに、サラさんとの帰り道を『特別な時間』にしたいんだろうな。……まあ、迷惑だけど」

 予想通り島田の棒読み口調とサラのノリノリと島田の棒読みが織りなすあの時間は、誠にはまさに『地獄』だっただと誠には思えた。

「アメリア、オメエ飲みすぎだぞ」

 ご機嫌にビールをあおるアメリアを見てラムをちびりちびりとやっていたかなめが珍しく常識的な指摘をした。

「そうかしら?いつも通りよ。飲みすぎるのはかなめちゃんと誠ちゃんだけで十分。私は決して酔ってないわよ」

「いや、酔ってるね。酔っ払いほど自分は酔ってないと言うもんなんだ」

 笑顔のサラを横目で見ながらそれを無視してかなめとアメリアは会話を続けていた。

『なんだこの空間……酔っ払いと恋人ごっこの達人が入り乱れるカオス会場じゃないか……ここに『教祖』……菰田先輩が居たら大変なことになるな……居ないのは正解だ……少なくとも僕にとっては』

 誠は一人ジョッキのビールを飲みつつそんなことを考えていた。この部隊には、確かに友情や信頼がある。けれど、その輪の中に全員が自然に入れるとは限らない。菰田先輩の姿を思い浮かべながら、誠は少しだけ心を痛めた。

『……たぶん菰田先輩も、本当はこの輪に入りたいのかもしれない。でも、そのやり方が分からない。人と笑うためには、まず自分を笑えるようにならなきゃいけない……きっと、それが一番難しい』

 あの菰田の気難しそうな四角い顔を思い出しながら誠はそんなことを考えていた。

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