遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の夏休み

橋本 直

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第三章 『特殊な部隊』の新たなる任務

第8話 出鱈目な報告書と、英雄の条件

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 夕方。終業時間を迎えた誠は、まだ提出が終わっていない前回の出動のレポートの手を止めて伸びをした。

「神前!あがっていいぞ。アタシも今日は帰るわ『今日できることは明日やる』それがアタシの信条だ。今日はアタシがお世話になってる御仁からはもの良いのが手に入ったってメールが入ったんだ。夜はそれを梅肉添えにして冷たいのを一杯やるつもりだ。今から楽しみだな」

 機動部隊長の大きな机に座っているちっちゃな幼女、『偉大なる中佐殿』と隊では呼ばれているクバルカ・ラン中佐がそう言いながら立ち上がった。誠が配属された当時はランは制服から着替えるとまるで8歳女児の典型のような幼児服を着ていたが、最近はランが言う『普段着』である着流しに胸にさらしを巻いた姿でまるで任侠にんきょう映画の主人公のような格好で大きな高級車に乗って変える日常に誠も慣れてきていた。

「『近藤事件』の報告書……出さなくていいんですか?もう例の事件から1か月になりますけど……こんなに仕事が遅いと上から何か言われるんじゃないですか?今日できることは今日やるって言うのが普通じゃないですか?クバルカ中佐……それはちょっと職場放棄なんじゃないですか?」

 そう言って再びキーボードに手を伸ばそうとする誠だった。誠は母に言われた言葉を思い出して鬼の上官であるランに意見した。

 しかし、誠が不意に向けた視線の先に、小隊長カウラ・ベルガー大尉は珍しく柔らかい笑みを浮かべているのが見えた。

「いいんだ、このところの報道を見てみろ。『法術』と言う超能力が遼州人に備わっているということで大混乱だ。遼州同盟は隊長経由で今回の貴様の法術発動を知っていたが、同盟加盟国や地球圏などは我々と接触を取りたくて仕方がないらしい……そんなところに『法術師』の存在を知っててそれを生かした戦術で勝利しましたなんて報告書を提出してみろ。司法局上層部の連中もこれ以上仕事が増えるのは嫌なんだ。どうせ地球圏の連中は遼州圏に『法術師』などと言う地球科学の理解を超えた存在が居ることに混乱の極みにある。事態が落ち着いてからゆっくり見せてやるのが筋ってもんだろ?これ以上地球圏との関係をこじらせるのは遼州圏としても得策ではない。クバルカ中佐はそう言うことを言いたいんだ」 

 そう言うカウラの言葉を聞いて誠はランが自分の仕事をしない理由をこねくり回しているだけのような気がしていた。

 『法術』誠が知る限り遼州人だけが持つ異能力。『近藤事件』で誠が全宇宙に示して見せた地球人の科学では解析不能なその能力の存在を地球人は『魔法』と呼んで恐れおののいていることは誠も知っていた。

「でも、地球圏に僕の持つ力が理解できないなら理解できるようにかみ砕いて僕の報告書が必要なんじゃないですか!それに今回の作戦で僕が使った法術に付いて誰も何も言ってこないのは変ですよね?別に褒めてもらいたいわけじゃ無いですけど、これだけ誰も何も言ってこないと逆に不気味に感じてきますよ!」

 ランの言葉とカウラの解説に今1つ納得できない誠はそう反論した。

「そんなことは分かってんだよ、叔父貴も。一般には公表されることの無い正規の報告書はすでに叔父貴が代筆して提出済みだ。オメエのは内部的な書類として処理されるだけ。一兵卒の意見なんてもんは戦争とまでは言わなくても国際関係の中では何の意味もねえんだよ!そんなオメエの感想文なんざいつ提出されようが世の中なんて何1つ変わらねえの。それともなにか?『史上初の法術戦闘経験者』として英雄になりてえのか?それで自分をモテると勘違いしている地球圏の女共にまで顔を売って童貞卒業してえのか?そんなにモテてえのか?良い度胸じゃねえか……オメエはアタシの『下僕』。アタシより目立つなんて絶対許さねえ。当然、英雄になってモテて童貞卒業も無し。残念だったな、『下僕』。オメエはどこまで言ってもただ変な力が使えるだけの童貞。典型的なモテない遼州人。そして甲武の最高位の貴族であるアタシの『下僕』なんだ」

 カウラの正面に座っている西園寺かなめ大尉はそう言って薄ら笑いを浮かべていた。

 誠はそんな二人の態度にカっと目を見開いて机を叩いて立ち上がって反論した。

「そんな!嘘と出鱈目だらけの報告書ってアリですか!公文書偽造じゃないですか!世間に顔向けができませんよ!僕は嫌ですよ!そんなの!それと一応僕だって活躍したんですよ!少しは夢ぐらい見させてもらったっていいじゃないですか!」

 元々理系脳で語彙力の少ない誠は『公文書偽造』などと言う難しい言葉を無理して使って今の矛盾した隊の状態を表現した。

「公文書偽造はしていない。ただ内容が事実と異なるだけだ。それに貴様がモテるのは私としても許しがたい。諦めろ」

 社会的な常識に疎い誠が使い慣れない『公文書偽造』と言う言葉を間違って使っていることをカウラが訂正した。

 それでも誠の自筆の報告書として上層部に出された報告書の内容を誠が知らなければ後々大問題になることくらい誠にも分かった。

 うろたえている誠の隣まで来た帰り支度のランはほほ笑みながら彼の肩を叩いた。

「心配すんじゃねーよ。オメーは所詮下士官の下っ端だからな。アタシ等が全責任を負うって言ってんだから、気にすんな。偉い連中もそれで良いって言ってるんだ。面倒な仕事が後に伸びるって話だからな。今日できることは明日やるってずるさも社会に出たら必要だぞ。いい勉強になったろ。それに英雄なんてなるもんじゃねえぞ。英雄なんて言うのは大体が反省の色の無い人殺しだ。そんな人殺しにオメーを教育するつもりはアタシにはねー!」

 『永遠の八歳女児』と言えるちっちゃな顔に笑みを浮かべるとランは部屋を出て行った。

「なんだか、納得できないな……やらなきゃいけないことは早くやった方が良いのに。それに活躍したのは僕だよ。夢ぐらい見ても良いんじゃないかな……」

 まだ社会人になって二年しかたっていない誠にはそんなランの『腹芸』を理解することはできなかった。

「でも本当に……いいんですか?後で今回出した報告書の矛盾がマスコミに指摘されたら大スキャンダルですよ」

 誠は部隊長、嵯峨惟基の姪に当たるかなめに目を向けた。

「いいんだよ、それが軍事警察ってもんだ。政治家連中向けのヤバい案件とか、表に出したらマスコミの集中砲火を浴びることが確実な案件を秘密裏にこなすのもアタシ等の仕事だ。それに今回の『法術』の存在とその公表は政治問題だ。一兵卒の関知するところじゃねえだろ?全責任は司法局実働部隊長の叔父貴が取るって言ってるんだから……安心しろよ。それにランの姐御も言ってたろ。英雄になってモテても、単なる人殺しである事実は消えねえんだ。それとも何か?オメエはあの『那珂』のブリッジクルー数百人を一瞬で殺したことをそんなに自慢してえのか?単なる殺人狂だな……どうかしてるぜ」

 そう言って笑うかなめを見ながら、誠はしょうがないというように目の前のモニターの電源を落とした。

「それより、神前。オメエはアタシの『下僕』だよな」

 女王様気質で遼州内惑星系第二惑星を構成する『大正ロマンあふれる国』、甲武国の名家の当主でもあるかなめは、いつも誠を『下僕』と呼んだ。

 甲武国の宰相令嬢であり、直接確認はしてはいないものの自身も高位の貴族らしい彼女にとって、この東和共和国の庶民の出である誠は『下々の出』の当たり前の青年にすぎなかった。

「いい加減『下僕』扱いはやめてくれませんか?一応、東和市民なんで」

 誠はそう言って反論するが、かなめは脇に吊るしたホルスターの中の愛銃『スプリングフィールドXDM40』を撫でながら誠が言うことをまるで下等な動物の名ぎ声を聞くような顔をしてにこにこと笑っている。

「そんなこと関係ねえんだよ!オメエは気に入ったからアタシの『下僕』にしたんだ!光栄だろ?甲武の貴族主義者の士族の連中なら飛び上がって喜ぶぞ」

 かなめは誠の意思とは関係なく笑っている。

「僕は……嫌です。それより、何か用があるんじゃないですか?」

 そう言って誠は『下僕』の話題から離れようとした。

「飲みに行くぞ。アタシが飲みたいと言ったらそれに付き合う。それが『下僕』たるオメエの責務だ」

 かなめと言えば酒だった。誠はかなめの予想通りの言葉に半分呆れながら目の前の端末の電源を落とした。

「飲み会ですか?先週も行ったじゃないですか……」

 酒は誠も嫌いではないがいくらその金がランのツケで出るからと言って毎週のように飲みに行くかなめの神経には半分呆れていた。それと同時に、ランが払ういつも飲みに行く『月島屋』のツケがどれだけ溜まっているかを考えると少し不安になった。

「週に一度は飲む。それがここでのしきたりだ」

 エメラルドグリーンのポニーテールが似合う長身の女性のカウラは、全く酒が飲めないくせに飲み会の雰囲気が好きなタイプだった。

「そんなもん、今度の海に行くことについて話し合うに決まってんだろ!今回はアタシとカウラ、それにアメリアだけだ。島田達やサラ達はなんでもカラオケに行くらしいからな。アタシ等が遊びに行かなくてどうするんだよ!」

 上機嫌のかなめはたれ目を光らせながら、意味の分からない理屈をこねる。

 誠はかなめに逆らうといつも彼女の愛銃の銃口を向けられるので、ここは黙って頷いた。

「分かりました……でも、今日は僕は寮から原付で来てるんで……」

 明日の通勤の足を考えると飲みに行くのは若干不安な誠だった。

「大丈夫だ。貴様は私の『スカイラインGTR』で送ってやる。明日の朝は寮長の島田のバイクの後ろに乗ってくればいい。決まりだな」

 なんとか言い逃れをしようとした誠だが、カウラは笑顔で誠の逃げ道を封じた。

「ふう……」

 いつものように誠は女性上司達の気まぐれに付き合わされる。自分が彼女達の色気に騙されていることは十分承知だが、久しく彼女のいない誠はただ苦笑いを浮かべてそれに付き合うより他の道を知らなかった。

「じゃあ、着替えてきますんで」

 それだけ言って誠は機動部隊詰め所を後にした。


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