遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の夏休み

橋本 直

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第四章 『特殊な部隊』のオアシス

第13話 副寮長、出動す

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「そう言えば……今回の合宿はあの面倒な菰田が来るんだな。アイツは一応野球部のマネージャーだから。いつでもクビにしてやるって言ってるのに……そしたら死ぬとか言いやがる。まあ、アイツが死んでもアタシは困らねえんだが、うちがブラック企業扱いされるのは駄目だって叔父貴が言うんだ。だからマネージャーぐらいさせてやれって。まったく面倒な話だぜ」

 ラム酒を口に含みながらかなめはそう吐き捨てるように言った。そこには菰田に対する嫌悪の情があふれていた。

「本当に来るんですか?あの人『野球をやらないために産まれた男』だって島田先輩が言ってましたよ。確かにマネージャーが雑事をしてくれると便利なのは分かるんですけど……本当に来るんですか?僕はあの人が苦手なんで……」

 かなめの言葉を聞いて誠達の『特殊な部隊』の管理部門のトップである主計曹長の三白眼が誠の脳裏に浮かんだ。

「どうせ島田君には逆らえない整備班所属の部員が雑用をしてくれるからいつマネージャーをクビにしても良いんだけど、そんなことをしたら彼、首を吊りかねないわね。それに菰田君は練習用グラウンドの手配から備品の搬入スケジュール、現地への予算申請の手続きまで全部やってるのよ。人には見せないけど、仕事だけはできるのよ。まあ、今はスコアラーをやってる整備班の西君にも同じくらいの事はすぐできそうだから私としてはあの顔を見ない方が気分は良いんだけどね。それに……カウラちゃんの担当でしょ?菰田君は。カウラちゃんが優しい言葉の1つもかけてあげたらきっと彼頑張るわよ。何とかしてあげなさいよ」

 アメリアは苦笑いを浮かべながらカウラの表情を窺った。カウラは訳が分からないというように、ただ烏龍茶を飲み、串焼きを頬張った。

「そう言えば管理部って……普段何をしてるんですか?今日、顔を出したんですけどパートのおばちゃんしかいませんでしたよ。中でも白石さんは工場とのコネがあるから色々役に立ってくれてるとは思うんですけど……軍籍のある菰田先輩が部長代理を務める意味が有るんですか?わざわざ下士官を配置しておく意味って何かあるんですか?どうせうちの経費の計算とかするだけじゃないですか。パートの人とどこかから事務官の人でも呼んで責任者に据えれば済む話じゃないですか?」

 あてずっぽうでそう言った誠に、三人の女上司は大きくため息をついた。

「あのなあ……うちは『組織』なんだよ。誰がうちの経費の計算した結果の押印とかするんだ?誰がオメエの残業手当を計算結果のゴーサインとか出すんだ?正規の隊員じゃねえとそんなことできねえだろ?それとも何か?白石さんを隊員として雇えってのか?あの人もう六十だぞ。普通の会社だったら定年の年だ。そんな人に責任者を任せろって言うのか?オメエはやっぱり社会を分かっちゃいねえ。それにアイツも軍人だ。いくつかの航空機の運転経験もある。うちは経理だけの無駄飯食いの軍人を食わせとくような予算はねえんだ。だからアイツも新型の輸送機のロールアウトの話が有ると、喜んでその機種対応訓練を受けに行く。うちは『特殊な部隊』。1つの仕事しか出来ねえ役立たずには生きていく道はねえんだよ」

 かなめはあきれ果てたというようにラム酒をあおった。

「でも……事務仕事なら、アメリアさんの『運航部』でやってますよね?菰田先輩じゃなくっていつも暇してるアメリアさんが書類に判子押せばいいじゃないですか。アメリアさんは中佐でしょ?菰田先輩は曹長ですよ。その判子の重さとかも当然階級によって変わってくるような気がするんだけどなあ……」

 誠は馬鹿にされて少し怒ったようにそう言った。

「うちはあくまで管理部の『下請け』だから。経費の計算は本当は『管理部』の担当なのよ。私には判子を押す権限なんて無いの!名目上だけでも『管理部部長』の存在が必要なの!それに彼、簿記とかの資格はたくさん持ってるから偉いさんの評判もすこぶるいいし。まあ……確かに嫌な奴よ。今回の旅行もしっかり来るみたいだけど……それこそ彼を置いてけぼりにしたら首を吊りかねないわよ。まああんな嫌な奴が首を吊っても誰も悲しまないのは間違いないけど」

 そう言うアメリアの表情にはあざけりの色が見て取れた。

「でもアメリアさんと言うか皆さん。なんで菰田先輩をそんなに嫌うんですか?」

 誠は率直な疑問を口にした。途端に女性陣の表情は一斉に曇った。

「ケチ、不清潔、背が低くてあの年でメタボ腹。そして性格が悪くて嫉妬深くて弱いものを見るといじめにかかる。どこに好きになる要素があるの?逆に聞くけど誠ちゃん……菰田君の事好き?」

 アメリアはいつものアルカイックスマイルを崩してそう誠に詰問してきた。

「どちらかと言うと……苦手です」

 菰田には悪いが誠にはそう答えるしか道は無かった。

「そうだよなあ……菰田を好きな奴なんてたぶん宇宙に誰一人いねえだろうなあ……ただ、神前。言っとくとアイツは下士官寮の副寮長だぞ。まあ……シンパを集めて珍妙なことをするばかりであまりリーダーシップとかは無いから島田よりは影が薄いがな。しかし、あそこの金銭管理は菰田が自分でやってる。島田の馬鹿に金を渡すと絶対懐に入れるからな。その点、菰田の野郎は金に関してだけは公私の区別ができる。まあ、アイツの取柄はそのくらいのものか。ああ、アイツは一応自称『フェミニスト』だったな。以前、訓練で誤って女子の身体に触れてしまった部員を鬼のように糾弾したこともあった。まあそれとアイツの取柄は金の計算。しかたねえんじゃねえの?とりあえず世の中金なんだ。アイツが副寮長を務めてられるのは金に厳しくて寮の経費なんかをそれこそ1円単位で報告して来るからなんだ。大雑把な島田にそんな芸当出来る訳ねえだろ?だから島田の欠点を補完するためにも菰田の存在は必要なの。まあ、金の無い世界が来て、寮の経費の計算をしてる白石さんが金の事を忘れてくれるような世の中が来れば菰田の奴は世の中から必要とされなくなる……ああ、そんな世の中来ねえかなあ」

 かなめはそう言うと葉巻をくゆらせる。

「シンパ?」

 誠はかなめの言葉が理解できずに聞き返した。

「そう。あの馬鹿はカウラちゃんの欠点である『盆地胸』に執着する馬鹿よ!私やかなめちゃんみたいに胸が大きいのは不潔なんですって!馬鹿にして!アイツら『ヒンヌー教団』が私を名指しで『不浄の山』とか呼んでるのよ!頭おかしいでしょ?確かに私は102cmのHカップだし、かなめちゃんも98㎝のGカップで巨乳だけど、巨乳に人格が無いとか連中言ってるのよ!まったく連中の脳はどうなってるのかしら?」

 怒りに任せてアメリアがそう言ってビールのグラスを叩きつける。誠は何とか彼女をなだめようと、空いた彼女のグラスにビールを注いだ。

「まあ、菰田の計算は正確だし、判断も適格だ。私は所詮作られた存在だ。どう思われようが仕方がない。それに西園寺は別としてクラウゼの胸が大きく見えるのは身長が大きいからだ。自慢になるものじゃない」

 カウラはすでに好きでもない菰田達に付きまとわれる運命を受け入れているようだった。

「カウラちゃんがそんなだから連中が増長するのよ!それに、『ラスト・バタリオン』がお好みなら運航部の女子全員がそうじゃないの!私だって胸が大きいけど『ラスト・バタリオン』よ!まあ連中はみんな頭の中がキモいからこっちからお断りだけど」

 落ち着いた様子のカウラと対照的にアメリアはかなりエキサイトしていた。

 二人の人造人間の様子を眺めながら、誠はビールを飲んで酔ってしまおうと考えた。

「でも……確かに菰田さんは僕のこと嫌ってますよね」

 他の隊員に対しては下手に出る菰田も誠に対してだけは高圧的な態度を見せるので誠は菰田が苦手だった。

「いいじゃねえか。神前。アイツに好かれてうれしいか?あの粘質的なしゃべり方を年中聞きたいか?あのケチの経済観念に年中縛られたいか?」

 かなめはニヤニヤ笑いながら小夏が運んで来た焼鳥盛り合わせを受取った。

「まあ誰にでも得意不得意はある。人間関係でもそうだと言うだけだ」

 ネギまを手にそう言ってカウラは苦笑いを浮かべた。

「まあ私は菰田君は嫌い!彼ったら笑いものにされると怒るんだもの」

 アメリアは本心からそう思っている。誠はそう確信することができた。

「それは誰でも怒ると思いますけど……と言うかアメリアさんの悪ふざけは度が過ぎます」

 さすがに人がここまで嫌われると人の好い誠はかばいたくなってしまう。苦手な人間とは言え他人が笑いものにされているのを気分良く思うほど誠は冷淡ではなかった。

「今回の旅行も当然来るのよアレが……あー気持ち悪い」

 アメリアにとって菰田は生理的に受け付けないタイプらしくそう言ってビールを飲み干した。

「確かに僕を嫌ってるのは間違いなさそうですけど……一応僕は新入りなんで。それにあるじゃないですか、どうしても馬が合わないってこと。たぶんそう言うことですよ」

 誠は控えめにそう言った。かなめはうなづきながら自分の皿のレバーを誠の皿に移した。

「まあいいじゃねえか。アイツも子供じゃねえんだから好き嫌いで残業手当をカットしたりとかしねえだろ?」

「確かにそれをされたら……困りますね」

 かなめの言葉に誠は一抹の不安を覚えた。

「まあ、そんなことしたらパートのおばちゃん達に絞められるからね……菰田君は菰田君でまあ苦労してるんだわ……たまには息抜きさせてあげないと……ねえ、カウラちゃん♪」

 そう言ってアメリアは串から1つ1つ肉を抜く作業に没頭しているカウラに声をかけた。

「私が何をすればいいんだ?」

 カウラにとって菰田の存在はどうでも良いものの様だった。

「甘い言葉の1つもかけてあげなさいよ……これ以上、誠ちゃんが菰田君にいじめられたら困るじゃないの……生中もう1つ!」

 ビールを注文しながらアメリアはカウラに向けてそう言った。

「別に実害は今のところないので……カウラさん、気にしなくてもいいですよ」

 控えめに誠はそう言ってみた。確かに誠は菰田から怖い目で見られる以上の被害は誠はまだ受けてはいなかった。

「なあに、アイツもいい大人だ。手は出さないだろうな……島田とは違う。島田だったら気に入らなかったらまず殴るからな」

 島田は時々、誠に無理難題を吹っかけてくる。そしてそれができないと当然鉄拳制裁が待っている。そのターゲットとされていることは誠も自覚していた。

「島田は瞬間湯沸かし器で熱しやすく冷めやすいからな。奴と違って菰田は陰湿に根に持つタイプだから。元々何を考えているのか分からねえ所があるし」

 カウラの言葉にかなめはそう添えた。

「陰湿に根に持つタイプ……後々面倒な予感がする」

 誠はレバーを口に運びながらねちねちと小言を言ってくる菰田を想像してうなだれた。

 この旅行では何かが起きる。特に陰湿で根に持つ男……『野球をしないために産まれた男』菰田が同行するなら、なおさらだ。誠にはその確信だけは有った。

「でも……きっと何かあっても、大丈夫だ。少なくとも『仲間』は、居る」

 かなめ、カウラ、アメリアの笑顔を見ながら誠はそんなことを小さな声で口にしていた。
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