遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の夏休み

橋本 直

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第十四章 『特殊な部隊』の昼食

第37話 荷物と、心と、煙と

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「いらっしゃい!いいところに来たわね!第二弾の焼けたのが出来てきたところよ」 

 紫色の夏向けのワンピースを着た家村春子が誠達を迎えた。

「肉あるか?肉!アタシは肉さえ食えれば文句はねえんだ!」 

 いつも通りの姿に戻ったかなめは、すばやくテーブルから箸をつかんで、すぐにアメリアが焼いている牛肉に向かって突進する。 

「みっともないわよ、かなめちゃん。誠ちゃん!さっき技術部の男子が作った焼きそば出来てるから……食べたら?」 

 アメリアにそう言われてテーブルの上の紙皿を取ると奥の鉄板の上で焦げないように脇に焼きそばを移している菰田の隣に立った。

「どんどん食べてくださいねー、材料は一杯買ってあるんで」

 先ほどまで失態ばかり見せてきた菰田が得意げにかなめに向けてそう言った。

「結構な量買い込んだじゃないか……今回昼のバーベキューの予算はそんな量買えるほどなかったはずだぞ。オメエは金が絡むと役に立つんだな」

 かなめは菰田から焼きそばの乗った皿と箸を受け取りながらそう言った。

「まあそれが仕事なんで!それに、野球部のマネージャーを長く務めさせていただいてますから……試合の度に用意する飲み物とかも安く手に入るルート、見つけたんですよ」

 菰田にツッコミを入れるとかなめは誠の皿に焼きそばを盛り分ける。

「ピーマンが有るじゃねえか……菰田、さっき言ったのは取り消し!オメエはマネージャー失格」 

 そう言うとかなめは自分の皿からピーマンだけをより分けて誠の皿に乗せた。

「好き嫌い言うな!体に悪いぞ!」

 串焼きの肉にタレを塗りながら遠火であぶっているカウラがそう言った。

「僕もピーマンはちょっと……」

 誠はそう言って困ったような表情で意見してきたカウラに目を向けた。

「神前……お前、ピーマン苦手なのか?」

 焼きそばを啜りながらかなめはそう言って笑みを浮かべる。

「基本的に嫌いなものはあまりないんですけど、ピーマンはあの苦みが苦手で」

 仕方なくかなめが乗せてきたピーマンを無理して口に運びながら誠はそう言った。 

「そうか!テメエもピーマンは嫌いか!気が合うじゃねえか。ピーマン好きな奴にろくな奴はいねえからな!」 

 かなめの冗談がカウラを刺激する。

「西園寺。それはピーマンが好物の私への当てつけか?」 

 カウラのその言葉に、かなめがいつもの挑発的な視線を飛ばす。

「誠ちゃん!お肉持ってきたわよ。食べる?」 

「はあ、どうも」 

 アメリアが当てつけのように山盛りの肉を持ってきた。誠はさっと目配りをする。その様子をかなめが当然のようににらみつけている。カウラは寒々とした視線を投げてくる。 

「島田君達、ちゃんと荷物番してればいいけど。彼にはさぼり癖があるから」 

 そんな状況を変えてくれたアメリアの一言に誠は心の奥で感謝した。

「ああ、アイツ等ならちゃんと荷物番してるだろ。釘は刺しといた」 

 アメリアから皿を奪い取ったかなめが肉を食べながらそう言った。

「小食のサラはあの程度で良いけど、大食漢の島田君があの程度の量でお腹一杯になるわけないじゃない。誠さんは結構食べるから、肉が足りなくなっちゃうわよ。誰か代わってあげられないの?もう用意できてるんだから」 

 春子がそう言うと、きれいにトレーの上に食材を並べた物を人数分作っていた。

「じゃあアタシが代わりに番して来るよ!」  

 母親の言葉を聞いて小夏が元気に駆けていく。

「気楽だねえ、あいつは。所詮は中学生。ガキってことか」 

 かなめはビールの缶を開けた。かなめは元々泳ぐ予定がないのでかなめの分だけビールが用意されていた。

「それが子供の凄いところよ、ああこれおいしいわ」 

 焼きそばをつまみ食いをしながらアメリアがそう言った。

「カウラ、その肉の塊よこせ!」 

 突然のかなめの言葉にカウラはめんどくさそうに振り向く。

「全部食べるんじゃないぞ」 

 かなめの口元の下品な笑みを見て、カウラはタレをつけながら焼いている肉の塊を遠ざける。

「呼ばれました」 

「アメリア!ごめんねー。ちょっといろいろあって」 

 島田が仏頂面を浮かべて浮かれた調子のサラに続いてやって来る。誠が想像するところ、いい雰囲気まで行ったところで小夏が邪魔に入ってぶち壊しにされたのが気に食わないらしい。

「島田さん達、こっちにとってあるわよ」

 春子が鉄板の端にある肉と野菜の山を島田達に勧める。 

「さあ食え食え!」

 いかにも自分が作ったかのようにかなめが笑顔で肉を二人に勧めた。

「自分は何もしなかったくせに……」

「カウラ。何か言ったか?」

「いや別に……」

 いつも部隊で繰り広げられているかなめとカウラのやり取りがここでも繰り広げられるのを見て誠はただ苦笑いを浮かべるだけだった。

「食ったな……ちょっと餓鬼と代わって来るわ……神前も来い」

「僕もですか?僕はもう少し食べたいんですけど」

 一通りのメニューを食べ終えたかなめがそう言って誠の肩を叩いた。午前中に激しい運動をしただけあってまだ空腹を満たしきれていない誠は勝手なかなめに文句を言いたかったが、かなめの言うことには逆らえない奴隷根性が身についているので黙って従った。

「そうね、小夏ちゃんあんまり食べてなかったものね。でも誠ちゃんまだ食べたそうじゃないの……誰か他に信用のおけそうな人でかなめちゃんを監視できる人!立候補して!」

 コンロの脇でトウモロコシを食べていたアメリアがそう言うものの、かなめの機嫌を損ねると何をされるか分からないので誰一人手を挙げなかった。

 その様子を見て満足そうに笑うとかなめは強引に誠の腕を引っ張った。

「分かりましたよ!行きます!」

 誠はそう言ってかなめについて行った。

「まだ食べたりないのに……」

「アタシは十分食った。オメエもあれだけ食えば餓死はしねえ」

 無茶な論理を振りかざすかなめには何を言っても無駄なのは誠も分かっていた。

 そのまま二人は堤防の階段を下りて浜辺に降り立つ。

「外道!遅いぞ!それに神前の兄貴は食い足りないって顔してるぞ。全く人の事を考えない外道だなお前は」 

 小夏はそう言って不機嫌そうに立ち上がる。

「交代だ。とっとと食って来い!」 

「わかったよ。神前の兄貴、兄貴の分の肉は残しておきますんで」 

 すばやく立ち上がって敬礼すると、小夏はそのままアメリア達のところへと急いだ。

「さて、腹は膨らんだし、海でも見ながらのんびりするか」 

 そう言うとかなめはまたパラソルの下で横になった。誠はその横に座った。海からの風は心地よく頬を通り過ぎていく。かなめの横顔。サングラス越しだが、満足げに海を見つめていた。

 誠は隣に座るかなめに目をやった。確かにサイボーグの作り物とは言え、最上級の貴族にふさわしい優雅な肢体を晒す彼女に誠の目は自然に向いていた。

「じろじろ見るなよ、恥ずかしいだろ。それにアタシはこんな機械の身体だ。見たって何の得もねえぞ」 

 らしくも無い言葉をつぶやいてかなめはうつむいた。誠は仕方なく目をそらすと目の前の浜辺ではしゃぐ別のグループの姿を見ていた。

「平和だねえ」

 かなめののんびりとした言葉に誠は思わず苦笑いを浮かべていた。

「そう言えば西園寺さん。こんなことしてていいんですかね」 

 照れるのをごまかすために引き出した誠の話題がそれだった。

「なんだよ。突然」 

 めんどくさそうにかなめが起き上がる。額に乗せていたサングラスをかけ、眉間にしわを寄せて誠を見つめる。

「何でもないです!」

 誠の頭をよぎったのは『近藤事件』についての事だった。

 あの事件で表ざたになった法術の存在について今のところは何1つ解決していない。その中心人物である自分が仕事もせずに海でのんびりしていていいのだろうか?そんな疑問が誠の頭の中を渦巻いた。

 あの戦いで結果として誠は129名の命を奪ったと言う。誠には死んだ彼等にもこのゆったりとした時間を過ごす権利があったのではないかと言う気がしてきた。そして、これからの戦いで同じように多くの人の命を奪うことになるであろう自分の『力』に恐怖して目を潤ませた。

 しかし、今の状況で仕事の話をかなめにしたところでかなめの機嫌を損ねるだけだ。それは経験上分かってきていたので誠は自然と黙り込んだ。

「そうか、なんでもないか……ならいい」

 そう言うと先ほどはくわえているだけだったタバコに火をつけた。誠はもうかなめを注意する気にはなれなかった。

 タバコの煙を吐き出すと、サングラス越しに沖を行く貨物船を見ながらかなめがつぶやいた。

「船が見えるな……どこに行くんだろうな」 

 そう言うとかなめは再び沖を行く船を見ていた。ランが言うには『跳べる』古代遼州人達は船を造らなかったらしい。遼大陸の南部とここ東和共和国のある東和列島以外の地域は地球人がこの星にやってくるまで無人のまま放置されていたと言う。

 『修羅の国』と呼ばれるベルルカン大陸もまた無人の砂漠が広がるだけの地域で遼州人はその存在すら知らなかったと言う。

 誠はあの船がベルルカンに向っているような気がしていた。どうやら貨物船らしいその船が発したらしい汽笛が浜中に響いた。

「でも……こんな時もベルルカン大陸では内戦をしているんですね」

「デモもストもあるか!それにいずれベルルカンの内戦も止むはずだ!とりあえず休むぞ」

 そう言ってかなめは砂浜に横になった。誠も面倒なことはごめんなので静かに押し黙って海を眺めていた。


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