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第十六章 『特殊な部隊』を狙うモノ
第42話 地上に降りた革命家
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しかし、松の梢が続く遊歩道に入ったところでかなめは不意に立ち止まると誠に小声でささやいた。
「神前、気づいてるか?」
誠はかなめのドスの利いた声に、誠は思わず身構えた。かなめの目が鋭く光っていた。タレ目で迫力はあまり無いが、彼女の性格を知っている誠を驚かすには十分だった。
「気づくって……まさか、誰かが……」
誠は言いかけて辺りを見回す。視線の先にそれらしい姿は見えないが、肌が粟立つ。以前、誘拐されたときと同じ嫌な空気が、肌にまとわりつくようだった。
先月の『近藤事件』の発端も、自分が誘拐されたところから始まっただけあって、誠は辺りを警戒することが多くなっていた。見る限りにはそれらしい人影は無い。しかし、以前、菱川重工の生協で感じた時と同じような緊張感が流れていた。
「素人じゃねえ、かなりのスキルだ。こっちが気づいたら不意に気配が消えやがった。どうする?」
かなめがサングラス越しに誠を見つめる。その口元が笑っているのは、いつものことだと諦めた。
「でも丸腰じゃないですか?」
誠は水着に薄手のジャケット、かなめも海ではずっとジャケットを羽織ったままだった。
「そうでもないぜ」
かなめが羽織ったジャケットをめくって見せる。かなめの愛銃、スプリングフィールドXDM40のシルエットが見えた。
「しかし、こんなところでやるわけにはいかないんじゃ……」
周りには少ないながらも観光客の姿が見える。かなめも同感のようで静かにうなづいた。
「まだ偶然の可能性もある。だが……あの岬まで引き込めれば、少なくとも『第三者』の目はねえな」
かなめは短く言い、誠の手を掴んで引っ張る。体温よりも冷たい指先に、誠は彼女が既に『覚悟』していることを感じ取った。
午後を過ぎて風が出始めた海に沿った道を進んだ。さすがにこれほど人通りが少ないとなると、赤いアロハシャツを着た男が後を付いてくるのが嫌でもわかった。
こちらに存在が見破られることはすでに想定済みといった風に男はついてくる。かなめはすでに銃を抜いている。とりあえず人のいない所で決着をつけることは後ろの男も同意見のようで、一定の距離を保ったまま付いてくる。
岬に着いたところで、かなめは男に向き直った。
「見ねえ面だな。ただのチンピラにしちゃあ動きが良いし、兵隊にしちゃあ間が抜けてるな。兵隊だったら狙撃ポイントはここら辺にはいくらでもある。わざわざ真正面から遣り合う必要はねえ」
かなめは銃口を男に向ける。今のかなめならすぐにでも発砲するかもしれないと思っていた誠だが、かなめの引き金にかけられた指に力が入ることは無かった。
「これは辛らつな意見ですね。確かに俺は東和共和国生まれですからね。兵役も無いこの国だ……軍事教練など受けたことが無いもので。ああ、狙撃するというのは良いアイデアですね。私の仲間にも銃の使い手が居ますから今度はそいつに頼みましょう」
ぼさぼさの髪に、やつれているように見える細面が見るものを不安にする。アロハシャツから出ている鍛えられた跡などない締まりのない両腕は、どう見ても軍人のものには見えなかった。
「金目当てだったらアタシが銃を持っていることをわかった時点で逃げてるはずだ。非公然組織なら仲間を呼ぶとかしているしな。何者だ?テメエは」
まるで幽霊みたいだ。誠は男の顔に浮かんだ版で押したように無個性な笑みを見つけて背筋が寒くなるのを感じた。
「元甲武国陸軍、非正規戦闘集団所属、西園寺かなめ大尉。そして東和宇宙軍から遼州同盟司法局に出向中である神前誠曹長」
男はそう言いながらゆらりと体を起こした。その動きに反応してかなめは銃口を向ける。
「なんでアタシ等のことを知ってる?ニュースで見た?報道管制は効いてたはずだぜ」
かなめはあざ笑うようにアロハの男に向けてそう言い放った。
「情報の入手先ですか?……我々の組織は、『公然の裏』に手を伸ばすことに長けていましてね。想像力のある人なら、察していただけるかと……それと銃を向けて勝ったつもりでいるみたいですが……知らないんですか?西園寺大尉とあろうお方が。高レベル法術適格者にはそんなものは役に立ちませんよ」
男はゆらゆらと風に揺れながら右足を踏み出した。
「試してみるのも悪くないんじゃねえか?とりあえずテメエの腹辺りで」
そう言い終ると、かなめは二発、男の腹めがけて発砲した。銀色の壁、誠も展開することができる『干渉空間』が男の前に広がり、弾丸はその中に吸収された。かなめの表情に一瞬驚きのようなものが浮かぶのが誠にも見えた。
「さすがですね、正確な射撃だ。でも現状では理性的に私の正体でも聞き出そうとするのが優先事項じゃないですか?」
また一歩男は左足を踏み出す。銃が効かないとわかり、かなめはいつでも動けるように両足に力をこめる。だがそれをあざ笑うかのように男は言葉を続ける。
「神前君。君の力を我々は高く買っているんだよ。地球人にこの星が蹂躙されて四百年。我々は待った、そして時が来た。君のような逸材が地球人や同盟の売国奴の側にいると言うことは……」
兵隊としては二流でも政治的意見を言わせればひとかどの物らしい。誠はやつれたアロハの男をそんな男だと判断した。
「うるせえ!化け物!くたばりやがれ!」
かなめは今度は頭と右足、そして左肩に向けてアロハの男の弱点を探すかのように正確にそれぞれ弾丸を撃ち込んだ。再び弾丸は誠にも見覚えのある銀色の干渉空間に吸い込まれて消えた。
それは『近藤事件』の時、命を懸けてかなめの盾になるべく誠が展開した『干渉空間』とランが呼んだ盾と同じものに見えた。
銃弾をまるで受け付けない男は余裕の表情で誠達に歩み寄ってくる。
「力のあるものが、力の無いものを支配する。それは宇宙の摂理だ。そうは思わないかね、神前君。『あのお方』もそうお考えだ。そう思うだろ?君も」
再び男の右足が踏み出される。誠は金縛りにでもあったように、脂汗を流しながら男を見つめていた。
誠は精神を集中した。
「どうする気だ!神前!」
かなめの叫ぶ先に銀色の空間が現れる。
「そのくらいのことは出来て当然と言うことですか。確かに私の力ではそれを突破することは難しいでしょう。ただ……」
男はそう言うと自らが生成した銀色の空間に飛び込むとその空間の痕跡も消え去り何もない空間だけが残された。
「どこ行った!」
銃を手にかなめは全方位を警戒する。
「ここですよ」
男の声のする場所が誠には特定できない。
「何!」
かなめの足元の岩が銀色に光りだす。思わずかなめは飛びのいてそこに銃を向ける。誠は一度、銀色の干渉空間を解いた。相手はどこからでも空間を拡げる事が出来る。誠と同じ法術師であるクバルカ・ラン中佐に聞いた限りでは、その空間に他者が侵入すればかなめが撃った弾丸同様蒸発することになると言う。
完全に手詰まりだった。
「逃げましょう、西園寺さん」
銃を手にかなめは周りを警戒する。戦場と似た緊張した空気がそうさせるのか、かなめの顔には引きつったような笑顔があった。
「馬鹿言うな!逃げられる相手なら最初から逃げてる!」
かなめも銃が効かない相手となると自分が無力なのは理解していた。歯を食いしばり悔しがるが彼女が男に対しできることは何もなかった。
「騒動にならぬように人気の無いところで仕掛けたのが運の尽きですね。『特殊な部隊』のお仲間が助けに来るには時間がかかる。さあ、神前君。一緒に来給え。『廃帝ハド』陛下の理想の世界を一緒に作ろうじゃないか」
男の声がまるでテレパシーのように二人の頭の中で響く。
「銃声で誰かが来れば……この距離だ、間に合わねえか」
かなめは自分の後ろに銀色の空間が生成されようとしたことに気づいて発砲する、スライドがロックされ弾切れを示す。
「弾が無いのですか」
また再び地上に銀色の空間が現れ、その中から赤いアロハシャツの男が現れる。
「これでわかったでしょう」
男の顔に勝利を確信した笑みが浮かんだ。
「この糞野郎!きっちり勝負しろ!」
強がってみせるかなめだが、かなめにはもう持ち札が残っていなかった。
「甲武四大公爵家筆頭の大公殿下がそんな口をきいてはいけませんねえ。陛下はあなたも使える人材だと言っていた……なんなら一緒に来ませんか?私と共に」
男は今度は確実に一歩一歩、二人に近づいてきた。
「あなたは何者ですか」
ようやく誠が搾り出せた言葉は、自分でも遅きに失している言葉だった。
「なるほど、こういう時はこちらから名乗るのが筋というものですね。もっとも私個人の名前などあなた達の関心ではないでしょうが。私は遼州人の権利と自由を守るために活動している団体の構成員の一人です。屈辱の四百年の歴史にピリオドを打つべく立ち上がりました……名乗るほどの者ではありませんが……あえて言うなら、この遼州の間違った四百年の『過去を正す者』。あなた方の平和は、我々の屍の上に築かれた幻想です。それを壊しに来た。それだけのことです……カッコつけて言えば『革命家』ですかね」
男は誇らしげにそう言うとかなめを見下すような視線でにらみつけた。
「アタシ等も遼州人なんだけどねえ……アタシにはアンタ等の嫌いな地球人の血も混じっちゃいるが、そっちの方が法術師に成れる確率は上がるって話じゃねえか。まあ革命家さんはうちら警察としては取り締まりの対象でしかねえんだけどな」
もはや言葉で時間を稼ぐしかない、そう判断したかなめが皮肉めいた笑みを浮かべながらアロハシャツの男に声をかけた。
「確かにあなたの母上、西園寺康子様は本来、遼朝王弟家の出。かなめ様、あなたにも我々と志を同じくする資格があると言うことですが……いかがいたしましょうか?私とご同行いただけますでしょうか?」
男はまた一歩踏み込んできた。
「アタシにとっては、貴族も王家も全部おんなじさ。つまらねえだけだ。アタシは貴族とかつまんねえ肩書きが嫌で陸軍に入ったんだ」
かなめは本心から男に向けてそう叫んだ。
「ほう、それもまたよし。私達は王党派とも組しません。ただ遼州人全体の幸福を考えているだけです。私達はあまりに地球人に対してお人好し過ぎた。これ以上連中に大きな顔をされるいわれはない」
男は徹底的に地球人を憎んでいる。誠にわかることはそれだけだった。
「それで何が起きるんですか?あなた方はいったい何をしようと思っているんですか?」
誠は男の言葉をさえぎった。ゆっくりとうろたえることも無く、誠は男に近づいていった。
「今の遼州には……遺されたものすべてが共に暮らしている。地球人、遼州人、人工人間……血の違いも、歴史も、痛みも全部抱えて。あなたの言う『理想』は、そこから目を逸らすただの逃避です。力があるからって、それが正義になるんですか? 僕は……そんな世界に、加わる気はありません!」
思いもかけずに誠が自分に近づいてくる。驚いたような表情を浮かべていた男もそれが誠の本心だと察した男は、丁寧に言葉を選びながら話を続けた。
「仕方ないでしょう。我々は力を持っている。そして他の人々は持っていない。力のあるものが生き延びるのは宇宙の摂理で力のないものは滅びるしかない。それは自然の摂理ですよ……お二方とも我々と組む気は無い……ならば答えは1つですね。法術師の最大の敵は法術師……神前誠君、死んでもらうよ。それと藤太姫。神前君も一人であの世に行くのは寂しいだろうから一緒に地獄に落ちてもらいましょうか?」
再び遼州人の力を誇示するような言葉を口にした男に顔を上げて強くにらみつけた。男は誠の表情の変化に少しばかり動揺したように見えたがすぐさまポーカーフェイスに戻った。
「神前、気づいてるか?」
誠はかなめのドスの利いた声に、誠は思わず身構えた。かなめの目が鋭く光っていた。タレ目で迫力はあまり無いが、彼女の性格を知っている誠を驚かすには十分だった。
「気づくって……まさか、誰かが……」
誠は言いかけて辺りを見回す。視線の先にそれらしい姿は見えないが、肌が粟立つ。以前、誘拐されたときと同じ嫌な空気が、肌にまとわりつくようだった。
先月の『近藤事件』の発端も、自分が誘拐されたところから始まっただけあって、誠は辺りを警戒することが多くなっていた。見る限りにはそれらしい人影は無い。しかし、以前、菱川重工の生協で感じた時と同じような緊張感が流れていた。
「素人じゃねえ、かなりのスキルだ。こっちが気づいたら不意に気配が消えやがった。どうする?」
かなめがサングラス越しに誠を見つめる。その口元が笑っているのは、いつものことだと諦めた。
「でも丸腰じゃないですか?」
誠は水着に薄手のジャケット、かなめも海ではずっとジャケットを羽織ったままだった。
「そうでもないぜ」
かなめが羽織ったジャケットをめくって見せる。かなめの愛銃、スプリングフィールドXDM40のシルエットが見えた。
「しかし、こんなところでやるわけにはいかないんじゃ……」
周りには少ないながらも観光客の姿が見える。かなめも同感のようで静かにうなづいた。
「まだ偶然の可能性もある。だが……あの岬まで引き込めれば、少なくとも『第三者』の目はねえな」
かなめは短く言い、誠の手を掴んで引っ張る。体温よりも冷たい指先に、誠は彼女が既に『覚悟』していることを感じ取った。
午後を過ぎて風が出始めた海に沿った道を進んだ。さすがにこれほど人通りが少ないとなると、赤いアロハシャツを着た男が後を付いてくるのが嫌でもわかった。
こちらに存在が見破られることはすでに想定済みといった風に男はついてくる。かなめはすでに銃を抜いている。とりあえず人のいない所で決着をつけることは後ろの男も同意見のようで、一定の距離を保ったまま付いてくる。
岬に着いたところで、かなめは男に向き直った。
「見ねえ面だな。ただのチンピラにしちゃあ動きが良いし、兵隊にしちゃあ間が抜けてるな。兵隊だったら狙撃ポイントはここら辺にはいくらでもある。わざわざ真正面から遣り合う必要はねえ」
かなめは銃口を男に向ける。今のかなめならすぐにでも発砲するかもしれないと思っていた誠だが、かなめの引き金にかけられた指に力が入ることは無かった。
「これは辛らつな意見ですね。確かに俺は東和共和国生まれですからね。兵役も無いこの国だ……軍事教練など受けたことが無いもので。ああ、狙撃するというのは良いアイデアですね。私の仲間にも銃の使い手が居ますから今度はそいつに頼みましょう」
ぼさぼさの髪に、やつれているように見える細面が見るものを不安にする。アロハシャツから出ている鍛えられた跡などない締まりのない両腕は、どう見ても軍人のものには見えなかった。
「金目当てだったらアタシが銃を持っていることをわかった時点で逃げてるはずだ。非公然組織なら仲間を呼ぶとかしているしな。何者だ?テメエは」
まるで幽霊みたいだ。誠は男の顔に浮かんだ版で押したように無個性な笑みを見つけて背筋が寒くなるのを感じた。
「元甲武国陸軍、非正規戦闘集団所属、西園寺かなめ大尉。そして東和宇宙軍から遼州同盟司法局に出向中である神前誠曹長」
男はそう言いながらゆらりと体を起こした。その動きに反応してかなめは銃口を向ける。
「なんでアタシ等のことを知ってる?ニュースで見た?報道管制は効いてたはずだぜ」
かなめはあざ笑うようにアロハの男に向けてそう言い放った。
「情報の入手先ですか?……我々の組織は、『公然の裏』に手を伸ばすことに長けていましてね。想像力のある人なら、察していただけるかと……それと銃を向けて勝ったつもりでいるみたいですが……知らないんですか?西園寺大尉とあろうお方が。高レベル法術適格者にはそんなものは役に立ちませんよ」
男はゆらゆらと風に揺れながら右足を踏み出した。
「試してみるのも悪くないんじゃねえか?とりあえずテメエの腹辺りで」
そう言い終ると、かなめは二発、男の腹めがけて発砲した。銀色の壁、誠も展開することができる『干渉空間』が男の前に広がり、弾丸はその中に吸収された。かなめの表情に一瞬驚きのようなものが浮かぶのが誠にも見えた。
「さすがですね、正確な射撃だ。でも現状では理性的に私の正体でも聞き出そうとするのが優先事項じゃないですか?」
また一歩男は左足を踏み出す。銃が効かないとわかり、かなめはいつでも動けるように両足に力をこめる。だがそれをあざ笑うかのように男は言葉を続ける。
「神前君。君の力を我々は高く買っているんだよ。地球人にこの星が蹂躙されて四百年。我々は待った、そして時が来た。君のような逸材が地球人や同盟の売国奴の側にいると言うことは……」
兵隊としては二流でも政治的意見を言わせればひとかどの物らしい。誠はやつれたアロハの男をそんな男だと判断した。
「うるせえ!化け物!くたばりやがれ!」
かなめは今度は頭と右足、そして左肩に向けてアロハの男の弱点を探すかのように正確にそれぞれ弾丸を撃ち込んだ。再び弾丸は誠にも見覚えのある銀色の干渉空間に吸い込まれて消えた。
それは『近藤事件』の時、命を懸けてかなめの盾になるべく誠が展開した『干渉空間』とランが呼んだ盾と同じものに見えた。
銃弾をまるで受け付けない男は余裕の表情で誠達に歩み寄ってくる。
「力のあるものが、力の無いものを支配する。それは宇宙の摂理だ。そうは思わないかね、神前君。『あのお方』もそうお考えだ。そう思うだろ?君も」
再び男の右足が踏み出される。誠は金縛りにでもあったように、脂汗を流しながら男を見つめていた。
誠は精神を集中した。
「どうする気だ!神前!」
かなめの叫ぶ先に銀色の空間が現れる。
「そのくらいのことは出来て当然と言うことですか。確かに私の力ではそれを突破することは難しいでしょう。ただ……」
男はそう言うと自らが生成した銀色の空間に飛び込むとその空間の痕跡も消え去り何もない空間だけが残された。
「どこ行った!」
銃を手にかなめは全方位を警戒する。
「ここですよ」
男の声のする場所が誠には特定できない。
「何!」
かなめの足元の岩が銀色に光りだす。思わずかなめは飛びのいてそこに銃を向ける。誠は一度、銀色の干渉空間を解いた。相手はどこからでも空間を拡げる事が出来る。誠と同じ法術師であるクバルカ・ラン中佐に聞いた限りでは、その空間に他者が侵入すればかなめが撃った弾丸同様蒸発することになると言う。
完全に手詰まりだった。
「逃げましょう、西園寺さん」
銃を手にかなめは周りを警戒する。戦場と似た緊張した空気がそうさせるのか、かなめの顔には引きつったような笑顔があった。
「馬鹿言うな!逃げられる相手なら最初から逃げてる!」
かなめも銃が効かない相手となると自分が無力なのは理解していた。歯を食いしばり悔しがるが彼女が男に対しできることは何もなかった。
「騒動にならぬように人気の無いところで仕掛けたのが運の尽きですね。『特殊な部隊』のお仲間が助けに来るには時間がかかる。さあ、神前君。一緒に来給え。『廃帝ハド』陛下の理想の世界を一緒に作ろうじゃないか」
男の声がまるでテレパシーのように二人の頭の中で響く。
「銃声で誰かが来れば……この距離だ、間に合わねえか」
かなめは自分の後ろに銀色の空間が生成されようとしたことに気づいて発砲する、スライドがロックされ弾切れを示す。
「弾が無いのですか」
また再び地上に銀色の空間が現れ、その中から赤いアロハシャツの男が現れる。
「これでわかったでしょう」
男の顔に勝利を確信した笑みが浮かんだ。
「この糞野郎!きっちり勝負しろ!」
強がってみせるかなめだが、かなめにはもう持ち札が残っていなかった。
「甲武四大公爵家筆頭の大公殿下がそんな口をきいてはいけませんねえ。陛下はあなたも使える人材だと言っていた……なんなら一緒に来ませんか?私と共に」
男は今度は確実に一歩一歩、二人に近づいてきた。
「あなたは何者ですか」
ようやく誠が搾り出せた言葉は、自分でも遅きに失している言葉だった。
「なるほど、こういう時はこちらから名乗るのが筋というものですね。もっとも私個人の名前などあなた達の関心ではないでしょうが。私は遼州人の権利と自由を守るために活動している団体の構成員の一人です。屈辱の四百年の歴史にピリオドを打つべく立ち上がりました……名乗るほどの者ではありませんが……あえて言うなら、この遼州の間違った四百年の『過去を正す者』。あなた方の平和は、我々の屍の上に築かれた幻想です。それを壊しに来た。それだけのことです……カッコつけて言えば『革命家』ですかね」
男は誇らしげにそう言うとかなめを見下すような視線でにらみつけた。
「アタシ等も遼州人なんだけどねえ……アタシにはアンタ等の嫌いな地球人の血も混じっちゃいるが、そっちの方が法術師に成れる確率は上がるって話じゃねえか。まあ革命家さんはうちら警察としては取り締まりの対象でしかねえんだけどな」
もはや言葉で時間を稼ぐしかない、そう判断したかなめが皮肉めいた笑みを浮かべながらアロハシャツの男に声をかけた。
「確かにあなたの母上、西園寺康子様は本来、遼朝王弟家の出。かなめ様、あなたにも我々と志を同じくする資格があると言うことですが……いかがいたしましょうか?私とご同行いただけますでしょうか?」
男はまた一歩踏み込んできた。
「アタシにとっては、貴族も王家も全部おんなじさ。つまらねえだけだ。アタシは貴族とかつまんねえ肩書きが嫌で陸軍に入ったんだ」
かなめは本心から男に向けてそう叫んだ。
「ほう、それもまたよし。私達は王党派とも組しません。ただ遼州人全体の幸福を考えているだけです。私達はあまりに地球人に対してお人好し過ぎた。これ以上連中に大きな顔をされるいわれはない」
男は徹底的に地球人を憎んでいる。誠にわかることはそれだけだった。
「それで何が起きるんですか?あなた方はいったい何をしようと思っているんですか?」
誠は男の言葉をさえぎった。ゆっくりとうろたえることも無く、誠は男に近づいていった。
「今の遼州には……遺されたものすべてが共に暮らしている。地球人、遼州人、人工人間……血の違いも、歴史も、痛みも全部抱えて。あなたの言う『理想』は、そこから目を逸らすただの逃避です。力があるからって、それが正義になるんですか? 僕は……そんな世界に、加わる気はありません!」
思いもかけずに誠が自分に近づいてくる。驚いたような表情を浮かべていた男もそれが誠の本心だと察した男は、丁寧に言葉を選びながら話を続けた。
「仕方ないでしょう。我々は力を持っている。そして他の人々は持っていない。力のあるものが生き延びるのは宇宙の摂理で力のないものは滅びるしかない。それは自然の摂理ですよ……お二方とも我々と組む気は無い……ならば答えは1つですね。法術師の最大の敵は法術師……神前誠君、死んでもらうよ。それと藤太姫。神前君も一人であの世に行くのは寂しいだろうから一緒に地獄に落ちてもらいましょうか?」
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