遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の夏休み

橋本 直

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第二十一章 『特殊な部隊』の教育

第65話 この寮、女子上司が住みつきます。

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 遼州同盟司法局実動部隊男子寮の前に誠は駅から歩いてたどり着いた。そこで誠を待っていたのは島田だった。

「いい身分だな……茜お嬢さんに西園寺さんの家まで送ってもらったそうじゃねえか……それにしちゃあ帰りが遅い。西園寺さんと何してた?神前……知ってるだろうな。この寮じゃ『不純異性交遊』は禁止、いや、厳禁だ。これは俺様……いや、この寮の象徴である偉大なるクバルカ中佐の意志だ。その点をわきまえろ」

 島田は肩をそびやかし、口にくわえたタバコを器用に持ち上げた。

「そもそも恋は精神を乱す。愛など不要。規律こそが全て。俺と菰田の提案を元にあのクバルカ中佐が寮則を作ったときに決めた『鉄の掟』だ。今さら変更はできねえ」

 目の前で堂々と時代錯誤の持論を語る島田を見て、誠は黙ってうなずくしかなかった。

 『愛と性との完全分離に成功した珍しい個体』とアメリアが称する、純情硬派で知られる島田のヤンキーの人にらみに誠は怯んだ。二年前、隊発足の時に島田と菰田が勝手に作ったルールだ。『恋は精神を乱す』というのが彼らの持論だった。それは副隊長にランが就任したことによりさらに強化なものとして寮長の島田以外の例外は絶対認めないと言うところまで絶対化されていた。

「何もしてないですよ!何も!西園寺さんの部屋があまりに汚いから掃除してきただけです!それにあそこの近くまで通ってるバスは豊川駅行きしかなくって……本数も少ないし……」

 誠の口を突いて出る言い訳に島田は呆れながら口にくわえたタバコに手をやる。

「本当だろうな……ってオメエが嘘をつけるような器用な人間じゃねえことはこれまでの付き合いで分かってる。なんもしてねえってことは分かる。もし何かしてたらこの寮から出て行ってもらう。それが寮長である俺が決めたルールだ」

 硬派を気取るヤンキーと絶対に実らない恋に生きる変態が二人で決めたルール。それを破るほど誠の心臓は丈夫ではなかった。

「かなり無茶苦茶なルールですね。それって単に島田先輩と菰田先輩の趣味で決めたことでしょ?全員に強制するのはちょっと……」

 誠にも下心と言うものは存在するのでそう言って目の前の硬派なヤンキーに抗議した。

「無茶だろうが何だろうが関係あるか!寮長は俺!俺がここでは一番偉いの!この寮の人間はすべからく『硬派』であれ。これはランの姐御のお言葉だ。オメエあの『偉大なる中佐殿』の言葉に逆らうつもりか?」

 ここでランの権威を利用して誠がそれに逆らえないことを知っているあたりが島田の質の悪さだと誠は思った。

 島田は自分の言葉に誠が反論できないことを確認すると島田は誠に背を向けて寮の玄関に消えた。

 誠は少し言いたいこともあったが、とりあえず手にプラモデルの箱を持ったままなのもなんなので、そのまま自室に向かった。

「でも……ここ男子寮だったよな……あの三人が来たら……男子寮じゃ無くなるじゃん。なんて呼んだら良いんだ?この寮……もうすぐ三人も女子上司が入ってくるこの場所は、『男子寮』というより『戦場』に近い気がする……」

 寮の階段を上りながら誠はぶつぶつとつぶやいていた。

「そんなに私たちが来るのが嫌?」

 肩越しに声がした瞬間、誠の背筋が凍った。

 アメリア……出た。『嵐の前兆』そのものだ。

「アメリアさん……嫌じゃないですけど……寮長は島田先輩ですよ。あの人無茶苦茶ですよ。……島田先輩の寮ですよ?そこに乗り込むってことですよ?アメリアさんとの付き合いは島田先輩の方が長いんですからあの人の性格は島田先輩の方が良く分かると思いますが、短い僕でもアメリアさんが島田先輩の言うことを聞くなんて言うことは到底考えられませんよ。それでも良いんですか?」

 島田の滅茶苦茶にアメリアが素直に従うとは思えない。誠はそう言ってアメリアがどういう反応をするか試してみた。

「誠ちゃんはまだ世の中を分かってないわねえ」

 誠の手からプラモデルの箱を奪い取るとアメリアはそう言って笑った。

「島田君は准尉。私達は中佐。軍では階級がすべてよ。ランちゃんもアタシ達が島田君の言うことを聞かないことくらい織り込み済みでここに住むことを許可してくれたんでしょ?誰があの馬鹿の言いなりになるもんですか!」

 アメリアは島田の作った寮則を完全に無視する気満々だった。

「そんな理屈あの人に通用しますか?まあ、あの人クバルカ中佐には頭が上がらないから中佐から『大目に見てくれ』って言われたら、アメリアさんの思う通りになりそうですけど」

「そうよ、職場は『生態系』。島田君はランちゃんの『食物連鎖』の最下層にいるの。わかるでしょ?」

 理論派のアメリアに理屈に弱い島田が口喧嘩で勝てるわけがないのは誠にも分かった。

「これは何かしら……途中で買ったの?」

 アメリアは興味深げに誠が持ってきたプラモの箱を見つめた。

「あ、それダメです!それ、大事なやつですから!」

 誠は慌てて手を伸ばす。アメリアの興味津々な顔が、まるで新品の猫じゃらしを見た猫のようで不安だった。誠は余計な詮索をされる前にアメリアからプラモデルの箱を奪い返した。

「大丈夫よ。それに島田君はサラの言うことなら大体聞くから。いざとなったらサラをけしかければオールオッケーなわけ。誠ちゃんも島田君に顎で使われてばかりいないで、少しは反撃の方法を考えなきゃ。人間関係をうまく利用する。それが私からいえるヒントね」

「そんなもんですか……」

 そう言って誠は階段の踊り場を通り抜けて自室に向かった。

「そう言えば女子の下士官の方はどうしてるんですか?ひよこさんとか……確かあの人は軍曹でしたよね。あの人も自分のお金でここら辺りの高い家賃を払わせられているんですか?」

 誠は何気なくアメリアにそう尋ねてみた。運航部は女性士官だけで構成されているが、医療班のナースである神前ひよこは軍曹で、技術部にも何人か女子の下士官が所属していたはずだった。

「ひよこちゃんは実家から通ってるわよ。確かお母さんと弟と一緒。他の女子の下士官は千要県警の女子寮に入ってるはずよ。世の中そんな不公平が許されるほど腐っちゃいないって、安心しなさい」

 アメリアはそう言うとにんまりと笑った。糸目がさらに細くなる。

「そうか……県警の女子寮なら家賃が安いでしょうからね……でも大変ですね、士官は。ここの何倍と言うお金が家賃に消えるんでしょ?無駄遣いばかりのアメリアさんは特に困りそうだ」

 誠は皮肉を込めて多趣味で出費の多いアメリアをからかってみた。

「そうなのよ……でもこれで住居費が一気に減るから……お財布には優しい暮らしになりそうね!これでようやく月末の支払いのロシアンルーレットから解放されるのよ!一気にパラダイス状態!浮いたお金は何に使おうかしら!」

 誠の考えとは無関係にアメリアはどこまでも前向きだった。

「良かったですね……これから色々買えるものが増えるんじゃないですか?」

 前向きなアメリアの考え方に誠は心から納得した一言を彼女に返した。

「じゃあ、月島屋で会いましょう」

 そう言うとアメリアは身をひるがえして寮の玄関から出て行った。玄関の外にはアメリアに待ちぼうけを食らわされているいつも貧乏くじを引かされるパーラが突っ立っていた。アメリアに従うパーラは、まるで修学旅行の荷物持ち係のようだった。

「明日から……大変そうだな……」

 明日から闖入する三人の女上司のことを考えながら誠はプラモデルの箱を手に玄関から二階の自室に向かった。

「神前!良いか」

 かなめにもらったプラモの箱を鑑賞していた誠の部屋の前でカウラの声がした。誠はなぜかそれがいけないことのようにかなめからのプレゼントのプラモを机の下に仕舞った。

「どうぞ!」

「じゃあ、失礼する」

 いつも通り無表情なカウラは珍しそうに誠の部屋を見回した。

「物が多いわりに整頓されているんだな。良いことだ」

 カウラはそう言うと椅子に腰かけている誠の正面のベッドに腰かけた。

「今から行くんですか、飲み会。まだ四時ですよ」

 飲み会を始めるにはまだ早い時間帯なので誠はカウラに向けてそう言った。

「早いに越したことはない。アメリアはパーラの四駆で行くそうだ。なんでもアメリアのコレクションのことで相談をするらしい。まあ、パーラを顎で使おうという魂胆は見え見えだが」

 ここは笑顔の1つも欲しいところだったが、カウラの表情はまるで変わらなかった。

「パーラさんも災難ですね。まあ、春子さんと小夏ちゃんなら飲み会が始まる前に店に入れてくれるでしょうけど……何するんです?他の面子めんつが来るまで」

 誠にはカウラの提案の意味が理解できずに彼女にそう尋ねた。

「まずは小夏の宿題を手伝え。神前は優秀な成績で高校を卒業したんだろ?東都理科大学と言えば私立の理系単科大学の最高峰だ。私は過去に宿題を手伝ったが、小夏は『カウラの姐御は不愛想で感情がないから嫌だ』と言われたんだ。だからお前に頼む」

 カウラは誠の顔をじっと見つめた。その目に『拒否』という選択肢は存在していなかった。

「僕は文系教科はまるでダメですよ。国語や日本史の宿題なんてできる訳が無いじゃないですか?」

 実際、誠が国立大学を志望しなかった理由は絶望的な国語と社会常識の欠如にあった。特に古文は絶望的で、赤点を何度も取った実績がある。

「じゃあ、それ以外をやればいい」

 カウラは誠が小夏の宿題を手伝うのが当然だというようにそう言った。

「確かに月島屋にはいつもお世話になってますけど……やりますよ!やらせてください!」

 無表情なままにらみつけてくるカウラに誠はそう答えるしかなかった。
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