遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と悪魔の研究

橋本 直

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第十四章 『特殊な部隊』の暴走

第34話 不気味な映像と第三の勢力

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 誠は報告書の作成をしようと画面を起動した。誠は端末を起動した瞬間、一瞬自分が望んだアプリが起動した後、すぐに思いもかけない動画再生サイトに画面が切り替わったので誠は自分の端末がハッキングされたのではないかと息を呑んだ。

 誠が開いた画面にはいきなり見覚えのない映像が流れ出し、血の気が引いていくのが自分でも分かった。これは自動再生アプリが勝手に作動しただけ……そう頭で理解しようとするが、背中を冷たい汗が伝う。それは『特殊な部隊』宛に送信されたファイルを自動的に再生するアプリが起動していることを意味していた。

 そこには銃撃戦を行うランとかなめの姿とその射線から逃げる甲武陸軍の戦闘の様子が映っていた。しかも、その映像の映っている角度からして甲武軍が撮影したものでは無いのは明らかだった。

 映像の中、ランとかなめが銃撃戦を展開している。乾いた銃声と硝煙が画面越しにも漂ってくるかのようだ。ビルの屋上から覗く撮影者の影。銃弾を遮るように広がった目に見えぬ壁に、甲武軍の兵士たちが次々と弾かれて倒れていく。……これを誰が、何の目的で撮った?誠はその湧き続ける疑問に言葉を失っていた。

「なんですか!これは!どこでこんな映像!いったいこんな映像、誰が撮ったんですか?駐留軍の監視カメラって訳でもないでしょうし!それだったらこんな流出画像なんて簡単にみられるわけが無いですよ!」 

 誠は目を疑った。かなめとランの背後に回り込んで包囲しようとした甲武軍の一個分隊を恐らくこの映像の撮影者が展開したと思われる法術の干渉空間がさえぎっていた。壁にぶつかるように倒れる兵士達。ビルの屋上らしくこの画像を撮影した人物の足が見えた。

「これって……この映像を撮影した法術師が大事になるのを避けてる?クバルカ中佐……甲武軍は元地球人しかいない軍隊のはずですよね。当然、法術なんて使える人はほとんどいませんよね?じゃあ誰がこんな干渉空間を展開してるんですか?そんな気配は感じましたか?」 

 干渉空間が展開されていたと言うことはラン達の銃撃戦の最中に、ランとは別の覚醒済みの法術師がその場にいたことを意味していた。そして、画像の角度からして撮影しているのがその法術師本人であることは間違いなかった。

「今頃見たのか?うちの技術部の将校のところに匿名で奇特な方から直接送信されてきたそうだ。世の中意地の悪い奴もいるもんだな。しかし、アタシに気付かれずに干渉空間を展開するとは……なかなか手慣れた奴だ。これからは法術師にも注意しなきゃならねーな。アタシ等は監視されているよーだ。アタシ等の追ってる研究組織とは別の既に完成された法術師を擁する組織に……」 

 ランはもうすでにこの動画を確認済みのようで驚く様子もなくキーボードを叩きながらつぶやいた。干渉空間を展開しているのはランでは無かった。まるで銃撃戦が形だけは激しくなるのを期待しているようなその法術師の意図に誠は恐怖すら感じた。

「でも……クバルカ中佐。法術が展開されている感覚は無かったんですよね?」 

 誠の言葉にランは手を休めて誠を見上げた。

「物理干渉系の能力に精通した法術師なら発動してもあまり精神波は出ねーようにできるからな。そんなことアタシにも簡単だ。それにこっちだって銃撃戦で相手の額じゃなくて防弾チョッキの致命傷にならない所に弾を的確に当てるのに手一杯だったし。それどころじゃなかったからな」 

 そう言って再びランはキーボードを叩き始めた。

「誰かが我々を監視していると言うことですか……しかもただ監視をしていることをこちらに教えてくる……私達が追っている研究機関とは別の組織……」 

 カウラの冷静な言葉に誠は再び画面に目を向ける。発砲する甲武軍兵士の前に遼北人民解放軍の暴動鎮圧用の装甲車が飛び込んで銃撃戦は終わった。そして回り込もうとした分隊を甲武軍とかなめとランを引き離そうとする駐留軍のハンミン国軍の戦闘服の一団が包囲した。

「結構凄い状況だったんですね。この画像を撮影した法術師の干渉空間による邪魔が無ければ恐らくお二人は甲武軍に包囲されて……それそこ『人外魔法少女』のクバルカ中佐が本気で法術を使って事態を打開しないといけないような状況になるところでした」 

 アンはそう言いながらスカートを気にしながら苦笑いを浮かべていた。アンが使った嵯峨がよく使うランの蔑称である『人外魔法少女』という言葉に誠は吹き出しそうになるのを必死になって堪えた。だが、民兵として生きてきてアニメの存在もろくに知らないアンがおそらく『人外魔法少女』の意味をよく理解していないことを知っているようで笑って頭を掻いていた。

「民兵さんから見てもそうかい。確かにな、こんなつまらねーことでアタシの切り札は切りたくねーんだ。法術師は先にその手の内を見せた方が負ける。この撮影者には感謝の言葉しかねーな」

 キーボードで始末書を仕上げながらランはそうつぶやいた。アンは幼い時から民兵として戦ってきた根っからの戦士だった。今はその時通えなかった夜間中学校に訓練が終わると通っているはずだった。

「民兵じゃなくてもこれは相当な銃撃戦ですよ……たとえこの撮影者が被害を最小限にしようと干渉空間を展開しなかったとしてもよく死者が出ませんでしたね。それだけお二人の技量が高かったと言うところですか?」

 アンから言い切られたかなめは落ち込みながら席へと戻っていった。

「しかし、このタイミングでの第三勢力の介入か……こいつは……予想してたよりやべー山みてーだな。一体どこの誰だ……アメリカか?連中は隊長を人体実験して法術師の何たるかを地球圏で一番理解している国だし、信託領ジャパンには多数の遼州人が暮らしているから法術師の数をそろえるのはそれほど難しーことじゃねー。それに何よりこの遼州圏の利権に一番執着している国だ。どんな卑怯な手を使ってきても不思議じゃねー。それとも……」

 ランはそうつぶやくとキーボードをたたき続けた。

 端末に集中しようとした誠の視界に、島田が久しぶりに見る整備班員のつなぎ姿で廊下を見ながら部屋に入ってきたのが見えた。隣にはサラがニヤニヤ笑いながら廊下の騒動を眺めているのが見えた。島田とサラのバカップルの登場で誠はこれまでの緊張とした雰囲気が一気に吹き飛んでいくようで思わず安心している自分を見つけた。

 不気味な映像がもたらした不安が詰め所を包んでいたが、次の瞬間、廊下から聞こえる騒々しい叫び声が場の空気を一変させた。

「ベルガー大尉。あれ、何とかした方が良いですよ……いい加減迷惑なんですよ。なんとかなりませんか?」 

 緊張した機動部隊の詰め所の雰囲気をぶち壊しにするのんびりとした口調で島田はそう言って隊長室の辺りを指差す。誠が島田が開けたドアの向こうをのぞき見るとそこにはかなめとかえでがいた。かえではかなめにしがみつきながら泣いている。ドサクサ紛れに胸を揉む彼女の手をかなめは思い切りつねり上げている。

「お姉さまー!お姉さまが解雇なら僕もー!」

「だから違うって言ってるだろ!人の話を聞けよ!」

 叫ぶかえでをかなめはなんとかたしなめようとする。その隣ではその様をかえでの補佐役である渡辺リン大尉が無表情のまま黙って二人を見つめていた。その異常な光景に誠達はただ唖然としていた。

「まあ……あれは一つのレクリエーションだからな。これからはああいった光景を見ても美しい姉妹愛と言う風に思いこむことにしよう」 

 カウラは自分に言い聞かせるようにそう言って冷ややかな目を騒動の本人達に向けていた。

「カウラの言うとーりだ。副隊長命令だ、アレは娯楽ということで無視しろ。それより島田……どうなんだ、そっちは?」 

 ひとたび呆れたようにそのまま誠の席から離れて自分の機動部隊長の机に戻ったランが島田に声をかけた。

「どうもねえ。口が堅い人が多いのか、それとも本当に何も知らないのか微妙なところでしてね。とりあえず今日は独自のルートで捜査するからって茜お嬢さん達は俺達を置いて出かけたわけですが……行き先はまた同盟厚生局ですよ。どうせ門前払いを食らってお終いってところじゃ無いんですか?連中も何かというと背後に遼北本国がついているんだぞって言う圧力をちらつかせて……連中も手慣れたもんですよ。これじゃあ何時まで経ってもらちがあかない」 

 明らかに煮詰まっているのがわかって誠も島田に同情した。

「アタシ等も第三者に監視されている状態だしな。向こうの陣営でもどこかの馬鹿がかなめみたいに状況にいらだって動いてくれると楽なんだけどなー」 

 始末書の作成を終えたランが苦笑いを浮かべながらそう言った。

「不謹慎な発言は慎んでください。一応、ここも司法執行機関なんですから。犯罪を誘発するような発言をされては困ります」 

 ランの言葉にカウラが慎重にそう突っ込んだ。それを見て舌を出すランを見て誠は萌えを感じていた。

「でもこの監視している画像を撮った人は何者なんですかね。何かを見せたかった……そしてわざと流出させた。そうとしか思えないんですけど」 

 誠の言葉にランは覚えが無いと言うように首をひねった。実働部隊の詰め所のドアにはようやくかえでを引き剥がしたかなめが息を荒げて部屋に入って来た。

「それか?出所は在東和遼南人協会のサーバーからのアクセスだそうだ」 

 そう言ってかなめは詰め所の自分の席に腰かけて一息ついた。かなめに逃げられたかえでは廊下で指をくわえてかなめに熱い視線を送っていた。

「在東和遼南人協会。初めて聞く名前ですね。それってどう言う組織ですか?」 

 誠の何気ない発言にカウラが失望したようにため息をつく。

「遼南内戦で敗北した遼南共和国軍の亡命者が作った団体だ。主に構成員は前政権の官僚や軍の関係者が多かったが、最近ではそちらの関係者はほとんどが追い出されたらしい。遼南共和国を滅ぼした遼南人民国をクーデターでひっくり返した遼帝国の皇帝即位後に叩き潰した遼南東海州の花山院軍閥の関係者が今の幹部を占めてる。一時期の人民党の圧政や経済の混乱で発生した難民の相互利益の確保を目的としていると言うのが建前だが、実際のところは現政権の悪口を喧伝して回っている暇人の集団だ。もう無い国の話なんてしても何の得にもならないというのに」 

 カウラの言葉にかなめが苦々しげにさらに話を続けた。

「まあ、連中は母国奪還なんてことは考えてねーだろ。表向きは現政権をけん制する政治組織だそうだが実際には裏ルートでの租界の物資の流通を非合法のものから合法のものへと変える手続きを行うことで利益を得ている言う噂もある……まあ胡散臭い団体だな。『近藤事件』でも非合法物資の売却で得た資金のロンダリングを一部を近藤中佐に頼んでいた資料はお前も見てるはずだから覚えておけよ」 

 画面に目を張りつけながらのランのその言葉でようやく誠も親甲武系のシンジケートの中にその名前があったのを思い出した。

「でもなんでそこの関係者がこんな画像を撮れたんですか?確かに遼帝国には法術師が沢山いるって話を聞きますからそのなんとか協会の関係者が法術師であってもおかしいことは何もないのですが……」 

 誠の言葉にランは心底呆れ果てたと言う顔をしてため息をついた。

「サーバーを使ったからってこのビデオの撮影をした人間が在東和遼南人協会の関係者とは限らねーだろうが。そのくらいのことは考えろ!良い大学出てるんだろ?オメーは地頭はいいならただサボってるだけ。もっと頭を使う訓練をしろ!」 

 キーボードを叩きながらランが突っ込んだ。

「無関係では無いとは思うが少なくとも技術部の士官にそのサーバーを介して情報を流す意図を持った人物が、アタシ等の監視をしていることを印象付けたかったと言うことは間違いないだろうな。大体、そんな誰にでも分かるようなサーバーを通して情報を送ってくる意味が分からねえ。恐らく在東和遼南人協会自体はこの撮影者とは無関係だ。そもそもそんなことをする意味が在東和遼南人協会には全くねえ」 

 かなめはそう言って自分の端末の画面を開いた。かえでもあきらめたようにようやく自分の席に戻って訓練メニューの消化報告書の作成に入った。

 ただ何者かが誠達を常に監視下に置いていることを知らしめてみせた。その事実に今回の事件は単に違法法術研究を行っている研究者以外の意図が絡んでいる事実を誠は嫌でも思い知らされた。

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