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第二十章 『特殊な部隊』と仕組むもの
第50話 血塗れのデモンストレーション
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都心部の高層ビルの窓ガラスが衝撃波を受け、一斉に砕け散った。轟音とともにガラス片が陽光を反射し、きらきらと雨のように降り注ぐ。下界では、避難を求める警報と人々の悲鳴が交錯し、路上は恐怖と混乱の渦に包まれていた。
ようやく到着した東都警察法術対応部隊が展開した干渉空間は破片を空中で受け止めるが、すべてを防ぎ切れるわけではない。赤い血が歩道を染め、救助に駆けつける警官の怒号が遠くから響く。
だが、そのすべてを見下ろせる位置にある東都第一ホテルの最上階レストランの大窓からその光景を眺める老人の目は、歓喜で輝いていた。まるで戦場の惨劇を観劇するかのように、口元に笑みを浮かべ、赤ワインを軽く揺らす。
ルドルフ・カーン。その背後に重厚なクラシック音楽が流れ、周囲の客は窓際に群がりながらも恐怖を隠せずにざわついていた。一方で、カーンはこの地獄絵図をただ愉快そうに見下ろしている。
ただ、それを見守る老人の目が大惨事を見るものでなく、歓迎すべきショーを見ているように歓喜の色を帯びているのを警察官たちが見ればこれが単なる暴走事件では無く、この老人が関係する事件だと言うことを知ることが出来ただろう。
「実にすばらしい能力だ。同盟厚生局の役人も遼北のコミュニストの支援も無しに結構いい物を作るじゃないか。しかし、桐野君。君は良いロケーションを選んだね。これはテロを偽装したデモンストレーション。私にものを売り込むには最適の環境だ。そう思わないかね?これから君達がその役人共の成果を上回るものを見せてくれると言う話、信用しても良いんだね?楽しみにしているよ……怠けることしか考えないコミュニストの勢力下にある同盟厚生局程度でもこのくらいの事が出来るんだ。『力ある者の世界』を作るという君の主はどういったものを用意するのか興味を惹かれるね」
桐野孫四郎は無言で慣れないフォークを握りしめた。手は震えていないが、不器用に刃先が肉を押しつぶすたびに金属が皿を擦る不快な音が響く。彼にとって、こんな高級肉はただの飾りだ。人造肉の冷たい食感に慣れた舌には、この柔らかい赤身がやけに生々しく感じられる。
「……あの程度、ただの子供の遊びです。本当の法術師はああはなりませんよ。それに前の戦争で遼帝国にはあの『真紅の粛清者』と呼ばれたクバルカ・ランを始めとする多数の法術師が居た。しかし、奴らは一切戦闘には参加せず、遼帝国は自滅の道を歩んだ……もし、遼帝国がクバルカ・ランを指揮官とする法術師で構成された部隊をあの戦争に投入していればあなたの国も、私の国も地球圏に勝っていたとは思いませんか?」
そう言った後、再びステーキにフォークを突き立てた。『人斬り孫四郎』の異名で知られた甲武浪人桐野孫四郎の言葉に老人は満足げにうなずいた。
「そうだとしてもだ。あの戦争で法術師の力が公にされれば遼帝国が付け上がることは分かっていたからね。分相応と言う言葉をあの暗愚な遼霊が理解できたとは到底思えないよ。それでは聞くが女を抱いて薬が打てればそれで良いと言う暗君の象徴とでもいうべきあの男に何が理解できると言うのかね?あの戦争では法術師の存在は公にされるべき存在では無かった。もしそうなれば遼帝国が戦後の宇宙を支配してしまう。そんな悪夢を地球人の血を引くことに誇りを持っている私は見たいとは思わないな。同盟国はあくまで同じ陣営で戦う一時的な仲間に過ぎない。それはあくまで一時的なものなんだ。終戦後の地図を考えればあの戦争は負けて仕方のない戦争だったんだ。だから我々はあの時は負けた。でもそれで戦いが終わったとは私は考えていない。私の戦いは今でも続いている。そして、その闘志は年々増すばかりだよ」
そう言ってカーンは慣れない桐野とは違ってごく自然にパンに手を伸ばす。カーンは目の前のフランス料理にまるで慣れていない男の滑稽な様を楽しみながら窓の外で怪物が暴れまわる様子を眺めていた。
「地球人至上主義者のあなたにはあの醜い肉塊は脅威と見えますか?いや、脅威ですよね。聞いた私が馬鹿でした。ただ、あれがおもちゃに見えるような力を我々は持っていてそれを欲しがって地球圏の連中も何件か我々に接触を取りたいと言ってきていますよ。しかし、陛下はまだその許可を出していない。地球圏からその思想ゆえに追放同然に捨てられた元地球人のあなたが我々の最初のお客様だ。光栄に思ってもらわないと」
すでに肉を口に入る大きさに切ることを諦めた桐野はフォークに刺した肉を口で引きちぎる。まだ避難勧告が出ていないものの、ビルの最上階のレストランでは階下の騒動を見下ろすべく窓に張り付く客達の姿があふれていた。
「なあに、あのようなものは脅威とは呼ぶに値しないよ。兵器は使用者の意図に従ってこその兵器。あれは兵器と呼べるような代物ではない。いうなれば自然災害みたいなものだ。同盟厚生局もこの程度の商品を『不死の兵隊』の名を付けて私に見せて買ってくれと言うなどとは……それこそ資金の無駄だ。一方で、君達が見せてくれたカタログの中の完成された法術師の方だが、あれが組織的に運用されれば我が国は地球圏側についていたかもしれないね。一国の立場を変えてしまう。それほどのスペックを持っていると私は感じたね。そうなればあの戦争の地図そのものが違うものとなった……違うかね?」
窓が時々衝撃波のようなものを受けて膨らむたびに野次馬になれなかった客達が窓を見つめた。
「それに私はこんな値段を吊り上げるためのデモンストレーションの為の舞台設定自体には興味が無いんだ。噛ませ犬がいくら活躍しても観客は喜ばないものだよ。出資にふさわしい代価であると言う完成品を見せていただきたい。ただそれだけの話だ。早く君達の商品を見せてくれないかね?私もそれほど暇を持て余している訳では無くてね」
カーンは穏やかな顔で目の前で今度はパンを口に詰め込み始めた桐野を眺めていた。
「出資?そうですね。あなたにはそれにふさわしい手駒を手に入れる資格がある……私には腹立たしい限りのことではありますが。お見せしますよ、まもなく。その目が驚きに包まれる瞬間を想像すると私も興奮を覚えるほどの物をね」
パンを飲み込んだ桐野は地球の銘柄モノの赤ワインでそれを流し込んだ。酒なら飲みなれているので別に味など気にせずいつも飲む日本酒のようにそれを一気に胃まで流し込んだ。その様子を暖かく見守る外惑星の高級官僚の偽名でこのホテルに滞在しているカーンを桐野は見上げた。
「なんと言ったら良いのだろう。楽しみだね……しかし、ちゃんと仕上げてあるんだろうね?あのデータ。正直、君達があれほどの物を提供してくれるとは思ってはいなかったんだよ。口約束だけで信用するほど私は甘い人間では無いよ。私は現実主義者だ。データより自分の目を信じるタイプでね」
そう言って階下の騒動が始まる前に桐野が差し出した小さなデータディスクをカーンは手にした。その表情にゆとりのある笑みが浮かんだ。
「口約束?書面なら取り交わしたはずですが。完成されて制御可能な法術師になります。三人ほど選びましたよ。従順でありながら的確な判断ができて、それでいて好戦的な性格。戦いを好まない遼州人にはなかなかいない性格の持ち主ですよ。同じ法術師としてはあなたのような無力な人間に従うように調教するのに骨が折れました。俺ならあの連中の教育なんてものはとてもじゃないが勤まらない仕事だった。我々の専門スタッフに感謝してもらいたいものですね」
桐野の笑みにカーンも満足げにディスクをかざして見せた。
「それは重畳。だが、君達の苦労などというものは正直どうでもいいんだ。私が知りたいのは純粋に能力的にはどの程度のものなのか、それが気になってね。実際に私の目の前でその能力とやらを見せるためにこのロケーションを用意したわけだから、それなりの成果を上げることが出来る程度の性能は持っていると考えるべきかな?私を満足させることが出来るのかな?この無意味な爆弾としか呼べない代物を提出してきた同盟厚生局と違って、君達にはそれが可能だと?ならばこの退屈な時間も有意義なものになるだろう」
カーンはディスクを胸のポケットに入れると興味深そうに桐野を見つめた。口を手で拭う無作法を自覚しているような笑みを浮かべる孫四郎はその視線を外へと向けた。
「なあに、その為にうってつけのデモンストレーションとして同盟厚生局の役人を騙してあの化け物を起動させたんですから……あの醜い塊を作り出した同盟厚生局の連中は自分の非力を思い知ることでしょう。連中が作りたい『不死の兵隊』の量産ですが、そんな簡単にできるのなら我々はすでにその技術を手にしていますよ。連中はこちらの用意した覚醒済みの法術師に対抗できる本当の意味で戦力になる『不死の兵隊』は作れない……技術の限界って奴ですか。あなたも連中とはこれでおさらばした方が良い。役人は所詮役人。犬は犬。里心がついて飼い主の元に戻られては後々面倒だ。遼北人民共和国、それと東和陸軍もそうだ。連中も所詮は飼い犬だ。飼い犬は飼い犬らしく飼い主の言うことを聞いていればいいのに、たまに逆らってみせる。そのツケはその命で贖ってもらう。それが家畜の運命と言う奴ですよ。終幕までの準備はこちらと……あの茶坊主……いや、嵯峨惟基の『特殊な部隊』がしてくれるでしょう」
その言葉でカーンも桐野が主である『廃帝ハド』の意図ではなく、独自の判断で今行動し、法術師の納入までこぎつけたのだろうと言うことを悟った。そして立ち上がったカーンは階下で東和警察の空中で状況の収集に当たる法術対応部隊や一般の機動隊とにらみ合う制御に失敗して暴走を始めた法術師の成れの果てに視線を向けた。
「なるほど。君の上司には感謝しなければな。いや、感謝以上の事を君にしてあげる必要があるようだ……君は何を望むかね。もし君のもたらすものが私を満足させるものだとしたら何でもしてあげて良いくらいだ」
カーンの問いに桐野はただ不敵な笑みを浮かべるだけだった。
「感謝……金で買える感謝は感謝のうちに入るんですかね。それに俺個人の望むものなど何もない。少なくともあなたは俺の欲するものを持っていないし今後も手に入れる見込みもない」
桐野はそう言って笑った。カーンはその様子を一瞥すると満足げに笑みを浮かべてワインを飲み干した。
「それはなんとも無欲なことだね。君達、遼州人が持つ美徳である『足ることを知る』精神という奴かね。まあいいさ。感謝が要らないというならしないだけだ。私は合理主義者でね。じゃあ、見せてもらおうじゃないか。出資に見合う法術師の活躍とやらを」
カーンはワイングラスを窓際のテーブルに置くと、暴走する法術師の成れの果てにカーンが望む変化が訪れるだろうと気がやってくるのを楽しみに待つことにした。
ようやく到着した東都警察法術対応部隊が展開した干渉空間は破片を空中で受け止めるが、すべてを防ぎ切れるわけではない。赤い血が歩道を染め、救助に駆けつける警官の怒号が遠くから響く。
だが、そのすべてを見下ろせる位置にある東都第一ホテルの最上階レストランの大窓からその光景を眺める老人の目は、歓喜で輝いていた。まるで戦場の惨劇を観劇するかのように、口元に笑みを浮かべ、赤ワインを軽く揺らす。
ルドルフ・カーン。その背後に重厚なクラシック音楽が流れ、周囲の客は窓際に群がりながらも恐怖を隠せずにざわついていた。一方で、カーンはこの地獄絵図をただ愉快そうに見下ろしている。
ただ、それを見守る老人の目が大惨事を見るものでなく、歓迎すべきショーを見ているように歓喜の色を帯びているのを警察官たちが見ればこれが単なる暴走事件では無く、この老人が関係する事件だと言うことを知ることが出来ただろう。
「実にすばらしい能力だ。同盟厚生局の役人も遼北のコミュニストの支援も無しに結構いい物を作るじゃないか。しかし、桐野君。君は良いロケーションを選んだね。これはテロを偽装したデモンストレーション。私にものを売り込むには最適の環境だ。そう思わないかね?これから君達がその役人共の成果を上回るものを見せてくれると言う話、信用しても良いんだね?楽しみにしているよ……怠けることしか考えないコミュニストの勢力下にある同盟厚生局程度でもこのくらいの事が出来るんだ。『力ある者の世界』を作るという君の主はどういったものを用意するのか興味を惹かれるね」
桐野孫四郎は無言で慣れないフォークを握りしめた。手は震えていないが、不器用に刃先が肉を押しつぶすたびに金属が皿を擦る不快な音が響く。彼にとって、こんな高級肉はただの飾りだ。人造肉の冷たい食感に慣れた舌には、この柔らかい赤身がやけに生々しく感じられる。
「……あの程度、ただの子供の遊びです。本当の法術師はああはなりませんよ。それに前の戦争で遼帝国にはあの『真紅の粛清者』と呼ばれたクバルカ・ランを始めとする多数の法術師が居た。しかし、奴らは一切戦闘には参加せず、遼帝国は自滅の道を歩んだ……もし、遼帝国がクバルカ・ランを指揮官とする法術師で構成された部隊をあの戦争に投入していればあなたの国も、私の国も地球圏に勝っていたとは思いませんか?」
そう言った後、再びステーキにフォークを突き立てた。『人斬り孫四郎』の異名で知られた甲武浪人桐野孫四郎の言葉に老人は満足げにうなずいた。
「そうだとしてもだ。あの戦争で法術師の力が公にされれば遼帝国が付け上がることは分かっていたからね。分相応と言う言葉をあの暗愚な遼霊が理解できたとは到底思えないよ。それでは聞くが女を抱いて薬が打てればそれで良いと言う暗君の象徴とでもいうべきあの男に何が理解できると言うのかね?あの戦争では法術師の存在は公にされるべき存在では無かった。もしそうなれば遼帝国が戦後の宇宙を支配してしまう。そんな悪夢を地球人の血を引くことに誇りを持っている私は見たいとは思わないな。同盟国はあくまで同じ陣営で戦う一時的な仲間に過ぎない。それはあくまで一時的なものなんだ。終戦後の地図を考えればあの戦争は負けて仕方のない戦争だったんだ。だから我々はあの時は負けた。でもそれで戦いが終わったとは私は考えていない。私の戦いは今でも続いている。そして、その闘志は年々増すばかりだよ」
そう言ってカーンは慣れない桐野とは違ってごく自然にパンに手を伸ばす。カーンは目の前のフランス料理にまるで慣れていない男の滑稽な様を楽しみながら窓の外で怪物が暴れまわる様子を眺めていた。
「地球人至上主義者のあなたにはあの醜い肉塊は脅威と見えますか?いや、脅威ですよね。聞いた私が馬鹿でした。ただ、あれがおもちゃに見えるような力を我々は持っていてそれを欲しがって地球圏の連中も何件か我々に接触を取りたいと言ってきていますよ。しかし、陛下はまだその許可を出していない。地球圏からその思想ゆえに追放同然に捨てられた元地球人のあなたが我々の最初のお客様だ。光栄に思ってもらわないと」
すでに肉を口に入る大きさに切ることを諦めた桐野はフォークに刺した肉を口で引きちぎる。まだ避難勧告が出ていないものの、ビルの最上階のレストランでは階下の騒動を見下ろすべく窓に張り付く客達の姿があふれていた。
「なあに、あのようなものは脅威とは呼ぶに値しないよ。兵器は使用者の意図に従ってこその兵器。あれは兵器と呼べるような代物ではない。いうなれば自然災害みたいなものだ。同盟厚生局もこの程度の商品を『不死の兵隊』の名を付けて私に見せて買ってくれと言うなどとは……それこそ資金の無駄だ。一方で、君達が見せてくれたカタログの中の完成された法術師の方だが、あれが組織的に運用されれば我が国は地球圏側についていたかもしれないね。一国の立場を変えてしまう。それほどのスペックを持っていると私は感じたね。そうなればあの戦争の地図そのものが違うものとなった……違うかね?」
窓が時々衝撃波のようなものを受けて膨らむたびに野次馬になれなかった客達が窓を見つめた。
「それに私はこんな値段を吊り上げるためのデモンストレーションの為の舞台設定自体には興味が無いんだ。噛ませ犬がいくら活躍しても観客は喜ばないものだよ。出資にふさわしい代価であると言う完成品を見せていただきたい。ただそれだけの話だ。早く君達の商品を見せてくれないかね?私もそれほど暇を持て余している訳では無くてね」
カーンは穏やかな顔で目の前で今度はパンを口に詰め込み始めた桐野を眺めていた。
「出資?そうですね。あなたにはそれにふさわしい手駒を手に入れる資格がある……私には腹立たしい限りのことではありますが。お見せしますよ、まもなく。その目が驚きに包まれる瞬間を想像すると私も興奮を覚えるほどの物をね」
パンを飲み込んだ桐野は地球の銘柄モノの赤ワインでそれを流し込んだ。酒なら飲みなれているので別に味など気にせずいつも飲む日本酒のようにそれを一気に胃まで流し込んだ。その様子を暖かく見守る外惑星の高級官僚の偽名でこのホテルに滞在しているカーンを桐野は見上げた。
「なんと言ったら良いのだろう。楽しみだね……しかし、ちゃんと仕上げてあるんだろうね?あのデータ。正直、君達があれほどの物を提供してくれるとは思ってはいなかったんだよ。口約束だけで信用するほど私は甘い人間では無いよ。私は現実主義者だ。データより自分の目を信じるタイプでね」
そう言って階下の騒動が始まる前に桐野が差し出した小さなデータディスクをカーンは手にした。その表情にゆとりのある笑みが浮かんだ。
「口約束?書面なら取り交わしたはずですが。完成されて制御可能な法術師になります。三人ほど選びましたよ。従順でありながら的確な判断ができて、それでいて好戦的な性格。戦いを好まない遼州人にはなかなかいない性格の持ち主ですよ。同じ法術師としてはあなたのような無力な人間に従うように調教するのに骨が折れました。俺ならあの連中の教育なんてものはとてもじゃないが勤まらない仕事だった。我々の専門スタッフに感謝してもらいたいものですね」
桐野の笑みにカーンも満足げにディスクをかざして見せた。
「それは重畳。だが、君達の苦労などというものは正直どうでもいいんだ。私が知りたいのは純粋に能力的にはどの程度のものなのか、それが気になってね。実際に私の目の前でその能力とやらを見せるためにこのロケーションを用意したわけだから、それなりの成果を上げることが出来る程度の性能は持っていると考えるべきかな?私を満足させることが出来るのかな?この無意味な爆弾としか呼べない代物を提出してきた同盟厚生局と違って、君達にはそれが可能だと?ならばこの退屈な時間も有意義なものになるだろう」
カーンはディスクを胸のポケットに入れると興味深そうに桐野を見つめた。口を手で拭う無作法を自覚しているような笑みを浮かべる孫四郎はその視線を外へと向けた。
「なあに、その為にうってつけのデモンストレーションとして同盟厚生局の役人を騙してあの化け物を起動させたんですから……あの醜い塊を作り出した同盟厚生局の連中は自分の非力を思い知ることでしょう。連中が作りたい『不死の兵隊』の量産ですが、そんな簡単にできるのなら我々はすでにその技術を手にしていますよ。連中はこちらの用意した覚醒済みの法術師に対抗できる本当の意味で戦力になる『不死の兵隊』は作れない……技術の限界って奴ですか。あなたも連中とはこれでおさらばした方が良い。役人は所詮役人。犬は犬。里心がついて飼い主の元に戻られては後々面倒だ。遼北人民共和国、それと東和陸軍もそうだ。連中も所詮は飼い犬だ。飼い犬は飼い犬らしく飼い主の言うことを聞いていればいいのに、たまに逆らってみせる。そのツケはその命で贖ってもらう。それが家畜の運命と言う奴ですよ。終幕までの準備はこちらと……あの茶坊主……いや、嵯峨惟基の『特殊な部隊』がしてくれるでしょう」
その言葉でカーンも桐野が主である『廃帝ハド』の意図ではなく、独自の判断で今行動し、法術師の納入までこぎつけたのだろうと言うことを悟った。そして立ち上がったカーンは階下で東和警察の空中で状況の収集に当たる法術対応部隊や一般の機動隊とにらみ合う制御に失敗して暴走を始めた法術師の成れの果てに視線を向けた。
「なるほど。君の上司には感謝しなければな。いや、感謝以上の事を君にしてあげる必要があるようだ……君は何を望むかね。もし君のもたらすものが私を満足させるものだとしたら何でもしてあげて良いくらいだ」
カーンの問いに桐野はただ不敵な笑みを浮かべるだけだった。
「感謝……金で買える感謝は感謝のうちに入るんですかね。それに俺個人の望むものなど何もない。少なくともあなたは俺の欲するものを持っていないし今後も手に入れる見込みもない」
桐野はそう言って笑った。カーンはその様子を一瞥すると満足げに笑みを浮かべてワインを飲み干した。
「それはなんとも無欲なことだね。君達、遼州人が持つ美徳である『足ることを知る』精神という奴かね。まあいいさ。感謝が要らないというならしないだけだ。私は合理主義者でね。じゃあ、見せてもらおうじゃないか。出資に見合う法術師の活躍とやらを」
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