遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と悪魔の研究

橋本 直

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第十九章 第一期『特殊な部隊』

第49話 戦う理由、答えを求めて

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「それだけじゃ足りねー?じゃあ何があれば足りるんだ?」

 ランはため息をつきながら誠を真正面から見つめた。

「確かに足りない……と言うか、それじゃあ納得できないんです、クバルカ中佐。一つ、質問があります!これは重要なことです。これを聞かない限り、僕はお二人の指示には従えません!」

 誠は勇気を振り絞り、胸の奥で渦巻いていた疑問を真正面からランにぶつけた。普段は弱々しい声が、この時ばかりは震えながらも強い響きを持っていた。自分に沸きあがる疑問。それは簡単には言葉には出来ないが、それが無ければ戦うことはできない。誠にはその事だけは分かっていた。

「誠ちゃんが珍しく、ランちゃんに逆らったわね……こんな場面に立ち会うことになるなんて……今日は雪でも降るのかしら?」

 アメリアが半ば冷やかすように呟きながらも、その表情はどこか真剣だった。

「質問だぁ?……ふん、いいだろう。聞いてやるよ。今この状況で質問を投げる度胸があるんだ、どうせなら意味のあるやつを期待するぜ。この場にいる全員がすでに西園寺とアタシの提案を無条件で受け入れると言っているんだ。それを何故一番気が弱いはずのオメーだけが渋るのか……アタシにも興味があるところだ」

 ランは口元にわずかな笑みを浮かべ、誠の目をまっすぐ見据えた。少女の外見に似つかわしくない、百戦錬磨の戦士の眼光。視線が突き刺さり、誠の喉がかすかに鳴ったが、それでも彼は逃げなかった。

「……何をしても生き延びろ。そう命じられて、僕も無駄死にはしたくないって思います。でも……それだけじゃ理解できないんです……なにか……肝心な何かが足りないような気がするんです。言葉にははっきりできないんですがそんな感じなんです……ですから聞いてください」

 一度深く息を吸い込み、誠は続けた。

「そうやって生き延びた先に、僕らは何を背負って進めばいいんですか?なぜ、そこまでして戦い続けなければならないんですか?……その理由を、教えてください。あのうどん屋の大将には自分をかばって銃殺になったという隊長に対する負い目と今でも地球圏の連中から追われているという事実があります。僕も地球圏の連中から監視されていましたから人のことは言えませんが、僕を騙してまでこの『特殊な部隊』に入れた以上、僕がなんのために戦って何のために力を使うべきなのか……そのことに答える義務がクバルカ中佐にはあると思うんですが……違いますか?」

 その声には、恐怖よりも強い決意が宿っていた。真剣な誠の目を見てランの笑みはそれまでの嘲笑するようなものから穏やかな相手をいつくしむようなものに変わっていた。

 しばしの沈黙のあと、ランが細い目を見開き、口角を上げた。

「へっ……神前、随分と偉そうな口を利くようになったじゃねえか。巡洋艦一隻沈めただけでよぉ……感心するぜ」

 かなめがあきれたように鼻を鳴らす。かなめは先ほどまでの殊勝な態度をかなぐり捨てて誠を見下すようないつもの『女王様』的な視線で見つめていた。

「おい、西園寺、口を挟むな。神前の質問は悪くねー。答えてやるよ。これはな、アタシが隊長……司法局実働部隊隊長、嵯峨惟基特務大佐から聞いた『戦う意味』だ。……運が良かったな、オメーら全員、これはただじゃ聞けねぇ話だぜ。さすが隊長が見込んだ男だ。簡単には納得がいかねーってわけだ。それだけ見どころがあるとアタシは見て良ーんだな?じゃあ話してやるとするか。『戦う意味』。アタシ等『特殊な部隊』がなぜ戦わなければいけないかという意味をな」

 ランの声色は、淡々としていながら重みを増していく。アメリアもかなめも、自然と息を呑み、耳を傾けた。

「アタシ等『特殊な部隊』が戦う意味……その戦う意味はな、一言で言えば『命を救うこと』だ」

 短い言葉が、カラオケボックスの薄暗い空間に沈んだ。

「人の命を守るために、時に最低な命令が下る。……目の前の一人を殺すことで、その先にいる数百、数千の命を救えるなら、アタシや隊長は迷わず命じる。非道だろうが、悪魔だろうが、そうしなきゃ救えない時がある。……その命令でオメーらが手を汚すことになったら、責任はアタシらが取る。最悪の場合、オメーらに恨まれて銃殺されたって構わねぇ。だが、その時に救える命があるなら……アタシらは何度でもその命令を出す。もしかしたらあのうどん屋の大将のような境遇にオメー等がなるかも知れねー。それでもアタシや隊長は迷うことなくその戦闘指示を出す。それに従うかどうかはオメー等次第だ。オメー等が従えばアタシ等は勝ち、従わなければ負ける。その結果多くの人が死ぬ。ただそれだけの話だ」

 沈黙。空気が重く、息苦しいほどに張り詰める。誠は自分の手を見下ろし、その手がこれから誰かを撃つ瞬間を想像し、冷たい恐怖に囚われた。

「……それが、アタシ等が戦い続ける意味だ。もっと甘い『正義』とか『勇気』とかの言葉に簡単にできるような理由が欲しいなら、他を当たれ。そんな兵隊は役に立たねーことはアタシも隊長も戦場の地獄の中で見てきた真理だ。それだけは変えられねーんだ」

 ランは短く吐き捨てるように言ったが、その瞳にはわずかな悲哀があった。

「分かりました……僕の戦う意味……その結果の責任は全て隊長とクバルカ中佐が取るということですね?」

 誠はそう言って憐れむような目で自分を見つめて笑っているランを見つめ返した。

「そう言うことだ。それが『武装警察』であるアタシ等の戦いだ」 

 誠の言葉にそう言い切ったランの言葉に誰もが言葉を失ったまま、時だけが過ぎた。やがて、かなめが無理やり空気を変えるように声を上げた……。

「まあ、理屈なんてこねても意味はねえな。ランの姐御の言葉だからだと期待してたが当たり前の事しか言わねえじゃねえか。アタシはそんな覚悟はとうにできてたよ。命令書一枚で犯罪者に転落する……たとえそこに命を救うという明らかな目的があったとしても……それが軍隊や警察ってもんじゃねのか?そう言うわけだ……じゃあ出るぞ」

 かなめはそう言って立ち上がる。誠もまた遅れて立ち上がるが、その顔にはランの言葉には今一つ納得が出来ないという不満の色があった。

 それにつられてカラオケボックスのドアに向ったランをかなめが死んだような表情を浮かべて押しとどめた。かなめがこの顔をするときは何か事件が起きた時であることは誠も何度かこんなかなめの顔を見ていたので知っていた。

 一同の視線がかなめに集中した。

「どーした?何が起きた?オメエの脳内はネットに繋がってる……何かあったんだな?」 

 ランはその幼い表情を前に苦笑いを浮かべながらかなめは言葉を切り出す。

「久しぶりだぞ!8体目の暴走法術師が出やがった!全員端末を開け!アタシはここのモニターにアタシの脳内に入った画像を転送する!」 

 かなめのネットと直結された電脳はその情報を分析しているらしくかなめは目を閉じた後、手にしていた小さなバッグからコードを取り出し首の後ろのジャックに差し込むとカラオケの機械の背後に回ってモニターのコードを差し替え始めた。

「今、確認します」

 緊張した面持ちのかなめの後ろで端末を手にしていたラーナが検索を始めた。

「どこだ!どこで出た」 

 ランも興奮して検索を始めたラーナの端末を見ようとその傍へと寄っていった。

「それが同盟機構本部ビルの正面だそうだ。東都の都心部のど真ん中で法術暴走……やってくれるよ……今映すぞ!見ろ!」 

 かなめの言葉を聞いて一同に沈黙が訪れた。次の瞬間、消えていたカラオケのモニターが光った。

 そこには報道カメラの映像らしいものが映し出され、中央では茶色い大型乗用車くらいのまるで柔らかいジャガイモのような形をしたものが絶え間なく衝撃波を発して道行く人々を吹き飛ばしている様が見えた。

「こりゃあ暴走とは言わねーだろ?テロだよテロ!政府機関の集まる都心部で法術暴走なんてどこかの組織の政治的意図があるに決まってるんだ!また、車が吹き飛んだ!コイツはいったい何がしてーんだ!」 

 ランの叫びが部屋に木霊する。画像の中ではその巨大な弾力性のありそうな茶色い球状の物体が絶え間なく衝撃波で周りに並び立つビルの窓ガラスを粉々にしていた。降り注ぐガラスの雨に通行人達の悲鳴が響き、物体が衝撃波を出すたびにカメラは大きく揺れた。

 まだかなめの情報にたどり着けないでいるラーナを置いて、引きつった笑いをランは浮かべていた。その様子をカウラが心配そうに眺めている。

「これは確かにそれは暴走ではなく爆弾テロみたいなものよ!こんな人通りの多いところで法術師を暴走させたらどんだけの被害が出るのよ!イカレてるわ!同盟厚生局の連中は!」 

 アメリアの叫び声がカラオケボックスの防音室の中に響いた。テレビの裏から這い出してきたかなめは画像の前に座ると鋭い眼光で衝撃波を次々を放つかつて法術師であったであろう茶色い肉塊をにらみつけていた。

「大っぴらに研究機関の連中が動いたんだ。十中八九、同盟厚生局関係の機関の犯行だが……今はアタシ等は謹慎中の身だ。出来る事なんて何もねーよ。まあ市街地となると遼帝国山岳レンジャーには対応権限がねーから東都警察の出番となるが、東都警察のお手並みを見ようじゃねーか。あそこも先日、法術対応部隊を発足させたばかりだ。連中はその実力をアタシ等に秘密にしてるが、その実力が実際この目で見られるんだ。あれだけ啖呵たんかを切ってアタシ等を捜査から外したんだからさぞ立派なご活躍をするんだろーよ」 

 そう言って不敵に笑うランの姿を見て彼女の肝の座り方に誠は感心させられた。

 画像の中では相変わらず茶色いでこぼこの有る丸い物体はその場にとどまったまま絶え間なく衝撃波で付近の木々や停車中の車両を吹き飛ばしていた。

「これが……僕達が追っていたもの……そしてこの状況を僕達は防げなかった……」

 誠は暴れまわる『怪物』としか表現しようのないかつて法術師であったものの姿を見ながらそんな言葉しか口にする事は出来なかった。

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