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いい男探しの末路
いっそのこと、クラーラが他の男に目移りすれば平和的に解決できるのではないか。どうやらリシャルドは、そう考えたらしい。
そこで彼は、アルラニへの視察の際にもクラーラが好みそうな騎士を何人か連れていこうと提案してきたのだった。
「視察でクラーラ様と会うかは分からないけど、アルラニはウクラーリフとも関わりが深いから、念には念を入れておこうと思ってね」
「な、なるほど」
「若手ならば独身でまだ婚約者もいない騎士も多いし、聖女に見初められたとなれば、みんな喜んで結婚すると思うんだ。そう思わないかい?」
「ふふっ、確かに」
ラフタシュは大国であるため、騎士団に所属する騎士の数も多い。また、基本的にはみな騎士学校を卒業しているので、聖女に声をかけられたとしても失礼のない振る舞いはできるはずだ。
それに加えて、クラーラはいわゆる男性に好まれる外見である。先日の夜会でも、彼女は数多の男性客から声をかけられていた。そんな彼女ならば、騎士たちも言い寄られて悪い気はしないだろう。
「という訳で、女性の意見も取り入れたいところでね。ティア、協力してくれるかな?」
「ふふ、承知しました」
父上からあんな話をされて、正直まだ気分は沈んでいた。
しかし。私のためにリシャルドは解決策を練り、平和的解決のために努力してくれている。その気持ちはきちんと受け止めたかったのだ。
それに……これが最後の夫婦旅行になるならば、素敵なものにしたい。そのためには、ただ落ち込んでいるだけではダメだと思えたのだった。
「ありがとう。じゃあ、とりあえず既婚者を除外して、その中から探していこうか」
私たちは団員録を開いて、聖女のためのいい男探しを始めたのだった。
+
「……やっぱり、系統違いの方を選んだ方が良いかと思いますわ」
並べた絵姿を眺めながら、私はそう言った。
「系統違い、か。例えば、クラーラ様の年上、同い年、年下……とかかい?」
「それもありますけど、こう……爽やかな方と熱血そうな方……あと、賢そうな方、とか、そういう違う雰囲気の方を揃えるのはいかがでしょうか?」
「ああ、なるほど。それはいい考えだ。じゃあ、似た顔で絵姿をカテゴリー分けしていこうか」
そう言って、リシャルドは手際よく絵姿を十のグループに分けて並べた。その中から、私たちは一人ずつ代表者を選抜することにしたのだった。
「頼もしそうという意味ならば、彼とかどうかな?」
「うーん、頼りがいのありそうな素敵なお方ではありますけど、クラーラ様には少し強面すぎる気もします。この方のほうが……」
絵姿を見ながら、私たちはあれでもないこれでもないと言いつつ、選考を進めていく。幸い、騎士団には素敵な騎士たちがたくさんいるので、候補者多数の状況となっていたのだった。
「こちらの方だと、話しやすそうな優しげな雰囲気ですし、良いかと思います」
選考理由を口にしながら、私はちらりちらりとリシャルドの顔を盗み見る。数多の男性客がいる中でクラーラが彼を選んだということは、リシャルドのようなタイプが好みだと思ったのだ。
真剣な面持ちで絵姿を吟味する彼の姿は、胸を高鳴らせるには十分なほどに魅力的である。
テーブルに視線を落としているため伏し目になった目は、被さった長いまつ毛も相まって、どこかアンニュイな雰囲気を感じさせる。それはおそらく、口元が笑っておらず、きっちり閉ざされているからかもしれない。
愛想の良い笑みを浮かべるリシャルドは、見る者を安心させるような温かい空気を纏っている。しかし今の彼には、少しだけ冷たい空気感があるような気がしたのだった。
……でも、こういうリシャルド様も、素敵だわ。
ついリシャルドに見蕩れていると、急に彼と目が合ってしまった。金色の瞳に射抜かれて、私は反射的に後ずさっていた。
「っ、さ、最後の方は……こちらの方なんていかがでしょうか? 背が高くて教養があり、とっても魅力的な方だと思いますわ」
十人目の代表者として私が選んだのは、とある良家出身の若い騎士であった。そして奇しくも、彼はリシャルドによく似た雰囲気の人だったのである。
「なるほどな、たしかに良いかもしれない。じゃあ、十人目は彼にしようか」
こうして私たちは、無事に“いい男”を選び終えたのだった。
「じゃあ、団員録と姿絵は片付けて……って、リシャルド様?」
「ん?」
イスから立ち上がって、テーブルの上を片付けていると、リシャルドはなぜか私を後ろ抱きにしたのだった。
まだ昼間だというのに、ベッドの上でするようなじゃれ合いをしている状況。きつく抱き締められているために後ろを振り返ことができず、リシャルドの表情は分からない。
「っ、い、いかがなさいましたか?」
「ティアが他の男を褒めるのを聞いて、ちょっと妬いてるだけだよ」
「え、え、え?」
「俺に言わないような言葉で、君がめいっぱい他の男を褒めるからだよ」
どこかいじけたような口調で、リシャルドは続ける。雲行きの怪しさを察して、私は慌てて言った。
「っ、リシャルド様……その、どんな言葉で他の方を褒めたとしても、私が心移りすることは絶対にございませんので……」
「でもさ、好きとか愛してるとか……ティア、あまり言ってくれないよね」
「……っ、きゃっ!?」
身体を反転され、リシャルドは私の上体をテーブルの上に押し倒した。
バサバサと、団員録や絵姿が床に落ちる音がする。しかしそんなことに構うことなく、リシャルドは私の左薬指にキスをしたのだった。
「……っ」
「ねえ、ティア」
彼が唇を離すと、結婚指輪の傍には赤い愛痕ができあがっていた。
「ティアは俺の奥さんだよね? それでも、俺より他の奴を褒めるならば……やっぱり妬けるな」
そこで私は、ようやく理解したのだ。
先程のリシャルドのアンニュイな雰囲気の正体は……嫉妬心であることを。
「っ、その……私の中で、リシャルド様が一番ですし……っ、えっと……」
「……ね、だったらさ」
私の指先を舌で舐めてから、リシャルドは言った。
「ティア。俺のこと……誰よりも、たくさん褒めて?」
+おはようございます♡
次回更新予定:本日12:12頃 です。お昼休みにぜひどうぞ♡
そこで彼は、アルラニへの視察の際にもクラーラが好みそうな騎士を何人か連れていこうと提案してきたのだった。
「視察でクラーラ様と会うかは分からないけど、アルラニはウクラーリフとも関わりが深いから、念には念を入れておこうと思ってね」
「な、なるほど」
「若手ならば独身でまだ婚約者もいない騎士も多いし、聖女に見初められたとなれば、みんな喜んで結婚すると思うんだ。そう思わないかい?」
「ふふっ、確かに」
ラフタシュは大国であるため、騎士団に所属する騎士の数も多い。また、基本的にはみな騎士学校を卒業しているので、聖女に声をかけられたとしても失礼のない振る舞いはできるはずだ。
それに加えて、クラーラはいわゆる男性に好まれる外見である。先日の夜会でも、彼女は数多の男性客から声をかけられていた。そんな彼女ならば、騎士たちも言い寄られて悪い気はしないだろう。
「という訳で、女性の意見も取り入れたいところでね。ティア、協力してくれるかな?」
「ふふ、承知しました」
父上からあんな話をされて、正直まだ気分は沈んでいた。
しかし。私のためにリシャルドは解決策を練り、平和的解決のために努力してくれている。その気持ちはきちんと受け止めたかったのだ。
それに……これが最後の夫婦旅行になるならば、素敵なものにしたい。そのためには、ただ落ち込んでいるだけではダメだと思えたのだった。
「ありがとう。じゃあ、とりあえず既婚者を除外して、その中から探していこうか」
私たちは団員録を開いて、聖女のためのいい男探しを始めたのだった。
+
「……やっぱり、系統違いの方を選んだ方が良いかと思いますわ」
並べた絵姿を眺めながら、私はそう言った。
「系統違い、か。例えば、クラーラ様の年上、同い年、年下……とかかい?」
「それもありますけど、こう……爽やかな方と熱血そうな方……あと、賢そうな方、とか、そういう違う雰囲気の方を揃えるのはいかがでしょうか?」
「ああ、なるほど。それはいい考えだ。じゃあ、似た顔で絵姿をカテゴリー分けしていこうか」
そう言って、リシャルドは手際よく絵姿を十のグループに分けて並べた。その中から、私たちは一人ずつ代表者を選抜することにしたのだった。
「頼もしそうという意味ならば、彼とかどうかな?」
「うーん、頼りがいのありそうな素敵なお方ではありますけど、クラーラ様には少し強面すぎる気もします。この方のほうが……」
絵姿を見ながら、私たちはあれでもないこれでもないと言いつつ、選考を進めていく。幸い、騎士団には素敵な騎士たちがたくさんいるので、候補者多数の状況となっていたのだった。
「こちらの方だと、話しやすそうな優しげな雰囲気ですし、良いかと思います」
選考理由を口にしながら、私はちらりちらりとリシャルドの顔を盗み見る。数多の男性客がいる中でクラーラが彼を選んだということは、リシャルドのようなタイプが好みだと思ったのだ。
真剣な面持ちで絵姿を吟味する彼の姿は、胸を高鳴らせるには十分なほどに魅力的である。
テーブルに視線を落としているため伏し目になった目は、被さった長いまつ毛も相まって、どこかアンニュイな雰囲気を感じさせる。それはおそらく、口元が笑っておらず、きっちり閉ざされているからかもしれない。
愛想の良い笑みを浮かべるリシャルドは、見る者を安心させるような温かい空気を纏っている。しかし今の彼には、少しだけ冷たい空気感があるような気がしたのだった。
……でも、こういうリシャルド様も、素敵だわ。
ついリシャルドに見蕩れていると、急に彼と目が合ってしまった。金色の瞳に射抜かれて、私は反射的に後ずさっていた。
「っ、さ、最後の方は……こちらの方なんていかがでしょうか? 背が高くて教養があり、とっても魅力的な方だと思いますわ」
十人目の代表者として私が選んだのは、とある良家出身の若い騎士であった。そして奇しくも、彼はリシャルドによく似た雰囲気の人だったのである。
「なるほどな、たしかに良いかもしれない。じゃあ、十人目は彼にしようか」
こうして私たちは、無事に“いい男”を選び終えたのだった。
「じゃあ、団員録と姿絵は片付けて……って、リシャルド様?」
「ん?」
イスから立ち上がって、テーブルの上を片付けていると、リシャルドはなぜか私を後ろ抱きにしたのだった。
まだ昼間だというのに、ベッドの上でするようなじゃれ合いをしている状況。きつく抱き締められているために後ろを振り返ことができず、リシャルドの表情は分からない。
「っ、い、いかがなさいましたか?」
「ティアが他の男を褒めるのを聞いて、ちょっと妬いてるだけだよ」
「え、え、え?」
「俺に言わないような言葉で、君がめいっぱい他の男を褒めるからだよ」
どこかいじけたような口調で、リシャルドは続ける。雲行きの怪しさを察して、私は慌てて言った。
「っ、リシャルド様……その、どんな言葉で他の方を褒めたとしても、私が心移りすることは絶対にございませんので……」
「でもさ、好きとか愛してるとか……ティア、あまり言ってくれないよね」
「……っ、きゃっ!?」
身体を反転され、リシャルドは私の上体をテーブルの上に押し倒した。
バサバサと、団員録や絵姿が床に落ちる音がする。しかしそんなことに構うことなく、リシャルドは私の左薬指にキスをしたのだった。
「……っ」
「ねえ、ティア」
彼が唇を離すと、結婚指輪の傍には赤い愛痕ができあがっていた。
「ティアは俺の奥さんだよね? それでも、俺より他の奴を褒めるならば……やっぱり妬けるな」
そこで私は、ようやく理解したのだ。
先程のリシャルドのアンニュイな雰囲気の正体は……嫉妬心であることを。
「っ、その……私の中で、リシャルド様が一番ですし……っ、えっと……」
「……ね、だったらさ」
私の指先を舌で舐めてから、リシャルドは言った。
「ティア。俺のこと……誰よりも、たくさん褒めて?」
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