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聖女の手助け
可愛さ以外に、私は何を表現したいのかしら?
絵がやたら地味に見えるのは、色が弱すぎるから?でも、塗り重ねたら水彩画特有の透明感が失われてしまうし……。
とりあえず、家に帰ったらもっと色を重ねて描いてみましょう。
「ユスティア、ねえ、ユスティア?」
「えっ、あっ……」
「どうしたの? ぼーっとしちゃって」
クラーラに呼びかけられ、私は慌てて顔を上げた。お茶会の最中だというのに、私はすっかり上の空になっていたようだった。
ウクラーリフの宮殿のガゼボで、私たちはお茶をしていた。参加者は私とクラーラ、そして“ヌイちゃん”と私が連れてきたクマのぬいぐるみである。
騒動のあと、最終的に私はクラーラと和解した。そして近頃は、お茶に誘い合う仲となっていたのだった。
作品制作に行き詰まって気分転換をしようとしていた矢先、ちょうど彼女からお茶のお誘いを受けて、今に至るという訳だ。
「い、いえ……何でもありませんわ」
「何でもないって言うけど、顔色が悪いわよ? それに、目の下にはクマができてるし……ケーキもあまり食べてないけど、もしかして体調が悪いの?」
「だ、大丈夫ですから……」
クラーラが私の額に触れようとした矢先、ぐらりと視界が揺れた。
「ユスティア!?」
そのまま私は、地面に倒れ込んでしまったのだった。
+
「ん……う?」
「良かった、目が覚めたみたいね」
目を覚ますと、白い天井とクラーラの顔が見えた。どうやら私は、ベッドに寝かされているようだった。
「倒れた時の擦り傷とか痣は治しといたから、安心して」
「っ、ご迷惑おかけして、申し訳ございません……!」
慌てて上体を起こし、私はクラーラに頭を下げた。疲労で重くなっていた身体が軽くなっていたので、察するにクラーラが魔力を使ってくれたのだろう。
「大丈夫よ、傷も痣も軽かったから。でも……」
「?」
「貴女、だいぶ無理してるんじゃない?」
クラーラに問われ、ぎくりと身体を震わせる。そして私が何か言うより先に、彼女は言葉を続けた。
「私ね、力を使うと病気やケガの重症度合いも分かるんだけど……睡眠不足だし、かなり身体に疲労が溜まってたわ。それに、心もだいぶ疲れてるみたい」
「……」
「何があったの? ユスティア」
どうやらクラーラには、すべてお見通しのようだ。
「……どうしても、負けたくないことがありますの」
私は諦めて、美術展とノエミーのことについてクラーラに話した。すると彼女は、最後まで言葉を遮ることなく私の話に耳を傾けてくれたのだった。
「それで、公務以外の時間はずっと絵を描いてたの……?」
「……はい」
「っ、待って。そんな生活してたら、いつまた倒れてもおかしくないわ。少し休んで……」
「っ、私が休んでいる間にも、あの子はずっと絵を描き続けてるから……っ!!」
「っ……」
「……だから、立ち止まってはダメなんです」
休むのも仕事のうち、という言葉もある。しかし今休んだならば、その分ノエミーに追いつけなくなるだけだ。デッサンでも色塗りでも、とにかく手を動かし続けなければならない。そう思うと、自然と睡眠時間を削ってキャンバスに向かってしまうのだった。
「ねえ。このことって、王子殿下はご存知なの?」
「……いえ。私が美術展に参加することしか伝えてませんし、言う気もありませんわ」
「どうして? 殿下にこの件を伝えて、メダルの授与を他の方に任せることもできるはずよ?」
「これはあくまで、私個人の問題ですので」
「でも……っ」
「たしかに、彼の“妃として”の私はそれで納得するかもしれません。でも、“絵を描く者”としての私はそれでは納得できないのです」
妃という立場を使って根回しするのではなく、正攻法でノエミーの受賞を阻止したい。私を突き動かしているのは、絵描きとしてのプライドだけだった。
「……分かったわ」
諦めたように、クラーラは溜息混じりにいった。彼女の心配はもっともなことであり、それを半ば突っぱねた私は強情である他ない。そんな申し訳なさを感じていると、クラーラは意外な言葉を口にしたのだった。
「じゃあ、身体の疲れはできる限り全部取っちゃいましょう。ユスティア、もう一回ベッドに横になってちょうだい」
「え、え?」
「ほら、早くなさい」
怒るどころか、クラーラは治療を再開し始めたのだ。そして私の手を握りながら、彼女は言った。
「疲れを取るぐらいなら簡単にできるから、いつでも呼んで? でも、精神的な疲労は私にも治せないから、これ以上思い詰めるんじゃないわよ」
「……クラーラ様」
クラーラの魔力により、身体の内が温かくなっていくのを感じる。しかしそれは、身体的な疲労の回復だけが理由でないのは明らかだった。彼女の言葉が、とにかく嬉しかったのである。
「それと、美術展の結果発表前には、絶対私のとこに来なさいな」
「? どうしてですか?」
「貴女まさか、げっそりした酷い顔で、殿下からメダルをもらう気?」
「……っ、ふふっ」
疲労困憊してボロボロになった姿でリシャルドの前に立つ自分を想像して、つい私は吹き出したのだった。
「笑いごとじゃないわよ。……とりあえず、応援してるから」
「ありがとうございます、クラーラ様」
こうしてクラーラの治療を受けてから、私はラフタシュへと戻ったのである。
+次は17:42更新予定。
クラーラの手助けもあり、ようやく持ち直したユスティア。
しかし、そんな彼女にリシャルドは……?
お楽しみに♡
絵がやたら地味に見えるのは、色が弱すぎるから?でも、塗り重ねたら水彩画特有の透明感が失われてしまうし……。
とりあえず、家に帰ったらもっと色を重ねて描いてみましょう。
「ユスティア、ねえ、ユスティア?」
「えっ、あっ……」
「どうしたの? ぼーっとしちゃって」
クラーラに呼びかけられ、私は慌てて顔を上げた。お茶会の最中だというのに、私はすっかり上の空になっていたようだった。
ウクラーリフの宮殿のガゼボで、私たちはお茶をしていた。参加者は私とクラーラ、そして“ヌイちゃん”と私が連れてきたクマのぬいぐるみである。
騒動のあと、最終的に私はクラーラと和解した。そして近頃は、お茶に誘い合う仲となっていたのだった。
作品制作に行き詰まって気分転換をしようとしていた矢先、ちょうど彼女からお茶のお誘いを受けて、今に至るという訳だ。
「い、いえ……何でもありませんわ」
「何でもないって言うけど、顔色が悪いわよ? それに、目の下にはクマができてるし……ケーキもあまり食べてないけど、もしかして体調が悪いの?」
「だ、大丈夫ですから……」
クラーラが私の額に触れようとした矢先、ぐらりと視界が揺れた。
「ユスティア!?」
そのまま私は、地面に倒れ込んでしまったのだった。
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「ん……う?」
「良かった、目が覚めたみたいね」
目を覚ますと、白い天井とクラーラの顔が見えた。どうやら私は、ベッドに寝かされているようだった。
「倒れた時の擦り傷とか痣は治しといたから、安心して」
「っ、ご迷惑おかけして、申し訳ございません……!」
慌てて上体を起こし、私はクラーラに頭を下げた。疲労で重くなっていた身体が軽くなっていたので、察するにクラーラが魔力を使ってくれたのだろう。
「大丈夫よ、傷も痣も軽かったから。でも……」
「?」
「貴女、だいぶ無理してるんじゃない?」
クラーラに問われ、ぎくりと身体を震わせる。そして私が何か言うより先に、彼女は言葉を続けた。
「私ね、力を使うと病気やケガの重症度合いも分かるんだけど……睡眠不足だし、かなり身体に疲労が溜まってたわ。それに、心もだいぶ疲れてるみたい」
「……」
「何があったの? ユスティア」
どうやらクラーラには、すべてお見通しのようだ。
「……どうしても、負けたくないことがありますの」
私は諦めて、美術展とノエミーのことについてクラーラに話した。すると彼女は、最後まで言葉を遮ることなく私の話に耳を傾けてくれたのだった。
「それで、公務以外の時間はずっと絵を描いてたの……?」
「……はい」
「っ、待って。そんな生活してたら、いつまた倒れてもおかしくないわ。少し休んで……」
「っ、私が休んでいる間にも、あの子はずっと絵を描き続けてるから……っ!!」
「っ……」
「……だから、立ち止まってはダメなんです」
休むのも仕事のうち、という言葉もある。しかし今休んだならば、その分ノエミーに追いつけなくなるだけだ。デッサンでも色塗りでも、とにかく手を動かし続けなければならない。そう思うと、自然と睡眠時間を削ってキャンバスに向かってしまうのだった。
「ねえ。このことって、王子殿下はご存知なの?」
「……いえ。私が美術展に参加することしか伝えてませんし、言う気もありませんわ」
「どうして? 殿下にこの件を伝えて、メダルの授与を他の方に任せることもできるはずよ?」
「これはあくまで、私個人の問題ですので」
「でも……っ」
「たしかに、彼の“妃として”の私はそれで納得するかもしれません。でも、“絵を描く者”としての私はそれでは納得できないのです」
妃という立場を使って根回しするのではなく、正攻法でノエミーの受賞を阻止したい。私を突き動かしているのは、絵描きとしてのプライドだけだった。
「……分かったわ」
諦めたように、クラーラは溜息混じりにいった。彼女の心配はもっともなことであり、それを半ば突っぱねた私は強情である他ない。そんな申し訳なさを感じていると、クラーラは意外な言葉を口にしたのだった。
「じゃあ、身体の疲れはできる限り全部取っちゃいましょう。ユスティア、もう一回ベッドに横になってちょうだい」
「え、え?」
「ほら、早くなさい」
怒るどころか、クラーラは治療を再開し始めたのだ。そして私の手を握りながら、彼女は言った。
「疲れを取るぐらいなら簡単にできるから、いつでも呼んで? でも、精神的な疲労は私にも治せないから、これ以上思い詰めるんじゃないわよ」
「……クラーラ様」
クラーラの魔力により、身体の内が温かくなっていくのを感じる。しかしそれは、身体的な疲労の回復だけが理由でないのは明らかだった。彼女の言葉が、とにかく嬉しかったのである。
「それと、美術展の結果発表前には、絶対私のとこに来なさいな」
「? どうしてですか?」
「貴女まさか、げっそりした酷い顔で、殿下からメダルをもらう気?」
「……っ、ふふっ」
疲労困憊してボロボロになった姿でリシャルドの前に立つ自分を想像して、つい私は吹き出したのだった。
「笑いごとじゃないわよ。……とりあえず、応援してるから」
「ありがとうございます、クラーラ様」
こうしてクラーラの治療を受けてから、私はラフタシュへと戻ったのである。
+次は17:42更新予定。
クラーラの手助けもあり、ようやく持ち直したユスティア。
しかし、そんな彼女にリシャルドは……?
お楽しみに♡
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