完結♡聖女の狙いは私の旦那様!?~褒賞に選ばれた美貌の王子は、溺愛執着モードにチェンジしたようです~

4月2日コミカライズ配信♡二階堂まや

文字の大きさ
46 / 50

執着心は蜜の味

「り、リシャルド様? お帰りなさいませ」

「ああ、ただいま」

 入浴して寝る支度をしていると、リシャルドが寝室へとやって来た。彼は明日の朝に同盟国の視察から帰ってくる予定だったので、私はかなり驚いたのだった。

「え、えっと……だいぶ早いお帰りで」

「ああ。視察が思ったよりも早く終わってね。泊まらずにそのまま帰ってきたんだ。何となくだけど……君のことが心配でね」

「……っ」

 そう言って、リシャルドはベッドの上で私を緩く抱きしめたのだった。それは情事の最中の激しいものではなく、幼子を毛布に包むような優しい抱擁であった。

「最近、夫婦二人の時間がなかなか取れなかったから……久しぶりに、二人で過ごしたいと思ったんだ」

 私の背中を撫でながら、リシャルドは言った。

 芸術展に参加すると決めてから、私たちは生活時間が合わないことが増えていた。私は公務の時間以外をほぼすべて作品製作に使っており、リシャルドは公務で多忙となっていた。そのため二人揃って参加する公務以外では、食事と就寝の時ぐらいしか顔を合わさないのである。習慣となっていた夫婦のお茶会も、すっかり途絶えていた。

「だいぶ背中と肩が硬くなってるみたいだけど、無理してない?」

「え……っと、はい」

 クラーラの魔力も身体のこりにまで効く訳ではないので、リシャルドは私の身体に触れて気づいたようだった。そんな些細な変化を見逃さない彼に驚いていると、リシャルドはこう言った。

「マッサージした方が良さそうだね。ティア、ちょっと横になって?」

 彼に促されるがまま、私はベッドにうつ伏せとなった。いつもの自分ならば断っていただろうが、今の私は彼との触れ合いに少しだけ飢えていたのである。

「じゃあ、痛かったりしたら言ってね?」

「は、はい……お願いします」

 私がそう言うと、リシャルドは肩からマッサージを始めたのだった。

「肩バッキバキになってるけど、どう?」

「あ……気持ちいいです」

「ん、良かった」

 リシャルドのマッサージは、自分の片手と比べ物にならない程に気持ちいい。そして私は、だんだんと身体の強ばりがなくなっていくのを感じた。

「さっきメイドから聞いたけど、ウクラーリフの宮殿に行ってきたんだって?」

「え、ええ……クラーラ様からお茶に誘われたので」

「そっか。楽しめた?」

「は、はい……」

「ふふ、だったら良かった」

 口止めしていたこともあり、メイドは宮殿で私が倒れたのをリシャルドには伝えていないようだった。そのことに安堵していると、リシャルドは背中を揉みながら言葉を続けた。

「やっぱり、作品を作るのは大変?」

「……え?」

「今まで夢中になってるから、寝不足でも頑張ってるんだって思ってたけど……何だか無理してるのかなって」

 彼の言葉に、どきりと心臓が跳ねる。私が何も言えないでいると、リシャルドはさらに続けた。

「無理することはないし、純粋に楽しんでくれたらそれで良いよ」

「……っ」

 兄上やクラーラと同じように、リシャルドもまた私に無理をするなと言ってくれた。しかし、彼の“一番の画家”となるためにノエミーに挑むと決めた今、私は素直に頷けないでいた。

 すると、リシャルドはこう口にしたのだった。

「大丈夫、俺は絶対にティアに投票するから」

 それは、妃である自分からすれば嬉しい一言。

 しかし、絵を描く者としての自分からすれば、もっとも言われたくないひと言であった。

「っ、リシャルド様。……お言葉ではございますが」

「? どうしたんだい?」

 私は起き上がり、リシャルドを真っ直ぐに見据えた。そして彼の頬に手を添えて、口を開いたのだった。

「リシャルド様。どうか芸術展では、私の絵を探そうとはしないでください。貴方から見て一番心惹かれた絵に、投票なさってください」

「え……?」

「私には、どうしても勝ちたい相手がいます。けど私は……彼女には正攻法で勝ちたいのです」

 驚きのあまり絶句しているリシャルドを前にしても、言葉は止まらない。私は感情をそのまま彼にぶつけるように、さらに言った。

「貴方は以前、自分の価値と釣り合いについて考えよと仰いましたが……そんなもの、結局私には分かりませんでした。しかし、貴方には誰よりも私を見てほしい。貴方の一番になりたい」

「……」

「私は実力で、貴方の一番になってみせます。だから……貴方は黙って、審査員席に座っていてください!」

 威勢よくタンカを切って、私はようやく黙った。一気に喋ったせいで、呼吸が荒い。自分の呼吸音しか聞こえない。

 ……やってしまった。

 息を整えながらそう思っていると、リシャルドは私の両手を何も言わず掴んだ。

「……ティア」

「……っ」

「最高じゃないか!!」

「!?」

 私の手を握りしめて、リシャルドは嬉しそうにそう言ったのだった。

「そう言ってくれるのを待ってたよ、だから本当に嬉しい。嬉しすぎると嬉しい以外に言えなくなるって本当なんだね……っ」

「え、あっ……リシャルド様?」

 理由はよく分からないが、リシャルドはとにかく大喜びしていた。私が訳も分からず困惑していると、彼は急に言葉を切った。

「失敬、今は美術展に集中するのが先だね。この話はまた今度にしよう」

「は、はあ……」

「じゃあ楽しみにしてるよ、ティア」

 そう言って、リシャルドは満面の笑みを浮かべたのだった。

+次は18:32更新予定。
芸術祭当日。ユスティアが発表した作品は……?
お楽しみに♡
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました

恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」 交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。 でも、彼は悲しむどころか、見たこともない 暗い瞳で私を追い詰めた。 「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」 私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、 隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

【完結】 契約が終わったら静かにお引き取りくださいと言ったのはあなたなのに執着しないでください

紬あおい
恋愛
「あなたとは二年間の契約婚です。満了の際は静かにお引き取りください。」 そう言ったのはあなたです。 お言葉通り、今日私はここを出て行きます。 なのに、どうして離してくれないのですか!? すったもんだアリアリのクライスとファニア。 見守る義両親、騎士、山羊。 くすっと笑えるお話の…筈…? 山羊のポトちゃんが活躍する場面もお楽しみいただけますと幸いです。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?