燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中

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甘い毒に酔いしれて

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「ん……」

 目を開けると、朝になっていた。波打ったように乱れたシーツが、昨夜の出来事が夢では無いことを物語っている。朝日の眩しさに目を細めていると、背後でもぞもぞと音がした。

「起きたか」

「!?」

 驚いて振り向くと、目と鼻の先にローデンヴェイクの顔があった。どうやら、彼に抱きしめられたまま寝ていたらしい。寝起きの熱を絡めた彼の匂いが、ふわりと鼻先を掠めた。

「私も今さっき起きたところだ。……寝にくかったなら悪かった」

 腕の中から私を解放し、ローデンヴェイクは少しだけ後ずさる。身体の触れ合いが無くなり、一抹の寂しさを感じている自分がいた。

 ……凄く、気まずい。

 昨日私が口にした言葉に、嘘偽りは無い。けれども、それを彼がどう捉えたかはまた別問題だ。

 前の関係にはもう戻れないという不安感が、今更ながら背後から襲ってきたのだった。

「……頼り無い男だと、見損なったか?」

 意外にも彼が口にしたのは、怒りではなく不安だった。寝起きの掠れた声は、いつもの威圧感を半減させていた。

「だが、残念ながらこれが私の本当の性格だ。欲のままに甘えるような、余裕の無い面倒くさい男で……悪かったな」

 ため息を吐き、ローデンヴェイクはきまり悪そうに言った。きっと彼は弱い部分も見せたくない部分も、何もかもを私に曝け出してくれたのだろう。

 嫌そうに眉をひそめた彼。そして私はようやく理解した。時折見せるローデンヴェイクのその表情は、苛立ちからではなく緊張から来るものなのだと。

「見損なってなんかおりません。それに……沢山好きと言われて、幸せでしたわ」

「……っな、!?」

「だから、そんなに怖い顔なさらないで」

「っ……この顔は生まれつきだ」

 不安を取り払うようにローデンヴェイクの頬を撫でると、少しずつ眉間の皺が緩められた。感情が顔に出ないというよりも、ひょっとしたら彼は表情を作るのが苦手なのかもしれない。

 それでも。その不器用さを含め、愛おしくて仕方が無い。

「……そんなに怖い顔なのか?」

「貴方の性格を知らなかったら、大抵の人はそう感じると思いますわ」

 忌憚の無い意見を、正直に口にした。

「……」

「……ロディ様?」

「……だからか。お前の弟妹達の態度がああなのは」

 彼にしては珍しく、大分ショックを受けているようだった。

「あら、気づいてらしたの?」

「あれだけ露骨に避けられて、気付かない方がおかしい」

 私には、幼い双子の弟妹がいる。そして二人共、ローデンヴェイクのことを酷く怖がっていた。私達の結婚式や戴冠式にも出席したものの、兄上の影に隠れて、彼と目を合わせようとすらしなかったのだ。

 てっきり、彼は子供は好きではないと思っていたので、その反応は意外だった。

「小さい子供はうるさくて、お嫌いなのかと……それに気にしてらしたなんて、全く気付きませんでしたわ」

「嫌いだなんて一言も言ってない。……お前の家族とも仲良くしたいと思うのは、おかしいか?」

「ふふっ、……いいえ。とても嬉しいですわ」

 この前妹弟達から自分宛に届いた手紙に「怪物に虐められていませんか?」と可愛い心配が綴られていたことは絶対に黙っておこうと、私は心に誓った。

「話すことはおろか、あの態度は……流石に傷付く」

「意外と繊細ですのね」

「もう何とでも言ってくれ」

 いじけたようにローデンヴェイクは言った。凄く失礼だが、彼に対して年相応の未熟さを感じたのは、これが初めてかもしれない。

「……でしたら。良ければ、プレゼントを一緒に選びませんか? もうすぐ二人の誕生日で、何か贈ろうと思ってまして」

「良いのか?」

「勿論。次会った時に話すきっかけにもなるでしょうし、きっと喜んでくれるはずですわ」

「是非そうしたい」

「ふふっ」

 半ば食い気味の返答に、つい笑ってしまう。王と王妃である以前に彼と家族になったのだと、目に見えない繋がりを感じ始めていた。

 これまでに無く、言いたいことが次から次へ口から零れていく。そして、口が滑らかとなった今なら、言えそうな気がした。

「ローデンヴェイク様」

「!?」
 
「言えるように、頑張って練習しましたの。好きな人の名前は、ちゃんと呼びたいではないですか」

 彼が私の名を呼んでくれるように、私も彼を呼びたい。そう密かに思っていたのだ。

 ロディ様と呼ぶことも、そのうち卒業できるに違い無い。

「嬉しいが……困った」

「……?」

 意外にも、ローデンヴェイクは困惑しているようだった。気まずそうに目を逸らし、彼は口ごもってしまった。

「その……私は、愛称呼びで構わないのだが」

「何故ですか?」

「……っ、」

 奇しくも''何か隠していると思ったならば、問い詰めて良い''という権利を先に行使したのは、私だった。彼もそのルールを思い出したようで、仕方なさそうに口を開いた。

「……本当のことを言うと、お前が家族から愛称で呼ばれてるのが少し羨ましかったんだ」

「!?」

「自分も気軽に名を呼ばれる存在になりたい、そのうちお前をそんなふうに呼びたいと密かに思っていた」

 余程恥ずかしかったのか、ローデンヴェイクは片手で顔を隠してしまった。

 確かに、私は家族から''リズ''だとか、''リズ姉様''と呼ばれている。それに思い返せば、昨夜彼はどさくさに紛れて私を''リズ''と呼んでいたなと気付く。

 最早不器用を通り越した彼の言動に、とうとう私は吹き出した。

「っふ、ふふふふっ」

「……そんなに笑うな 」

「ふふっ、ごめんなさい、別に笑い者にするつもりは無くて……ただ、貴方が、ロディ様が、可愛すぎるから……っ、」

 彼の名をきちんと呼びたいとは言ったが、やはり気を抜いた瞬間口から出たのは愛称の方だった。

「ふふっ、そういうことならば、こうしましょう」

  皺の寄ったローデンヴェイクの眉間を指で撫でながら、私は提案を口にした。

「これからは、私のことをリズと呼んでくださいな。これでおあいこでしょう?」

「良いのか? ……リズ」

 ぱっと彼の表情が明るくなったのを、私は見逃さなかった。

「勿論です、ロディ様」

「ま、待てっ」

 じゃれつくように抱きつくと、ローデンヴェイクは身体を強ばらせた。そしてその理由は、直ぐに分かった。

 それは、先程彼が私から離れた理由と同じ。私の下腹部に、熱い塊がごつりと当たったのだった。

「え、あっ……」

「生理現象だ。……許せ」

 下に目を向けると、上向いたペニスが見えた。性的な興奮とは関係無くそうなると聞いたことはあったが、実際目にするのは初めてだった。

 こうなったからには、やはり昨夜と同じ方法で収めるしか無いのだろうか。

「これは……自然と戻るものなんでしょうか?」

「いつもは治る。……が、今は分からん」

 よく考えれば、互いに裸で肌を寄せ合っている状況で、何も無く収めるというのは、大分無理のある話だ。

 ならば、正攻法でいくのが良いだろう。私は擽るように、勃ち上がった陰茎に触れた。

「……っ、おい、」

「ん、昨日やってみて、要領は分かりましたので」

 竿を扱き、時折先端や括れをふにふにと刺激する。小動物を可愛がる感覚で手指を動かしていると、次第に荒い吐息が聞こえてきたのだった。

 けれども、それは長く続かなかった。

「……っ、は、リズ……!!」

「きゃっ!?」

 突然視界が反転し、気付いた時にはもう彼に押し倒されていた。昨夜の光景を思い出し、ある予感が過ぎる。

「その……今日もお忙しいでしょうし、朝から疲れては、ご公務に障ってしまうのでは……?」

「公務は午後からだから問題無い。それに……仕掛けてきたのはお前だろう」

「……っ、」

 昨夜の余韻を残した胎内が、切なく疼く。太腿をもぞつかせると、彼は私の耳元に唇を寄せた。

「もっと甘えたいのだが。……駄目か?」

 毒のように身体を痺れさせる言葉に、心臓が早鐘を打つ。先程までからかっていたはずなのに、私を見下ろす彼は、雄の目つきに様変わりしていた。そして私は、その言葉に逆らえる気がしなかった。

 不意に、底無し沼に足を踏み入れてしまったような感覚に陥る。けれども、もっと溺れてしまいたいと感じている自分もいた。

 彼の言葉はきっと、甘いお菓子などではない。依存性のある甘い毒のようなものなのだと、私はようやく気付いたのである。

 待ちきれないのか、私のへそに亀頭を押し付けながら、ローデンヴェイクは応えを待っていた。

「……喜んで」

「それと……」

「?」

「昨夜の話の続きを聞かせてくれ」

 頬や耳を食むように口付けながら、ローデンヴェイクは言った。

「色気より食い気な女の話を聞きたがるなんて、変な方」

「何だと?」

「……だって、綺麗に飾られたアフタヌーンティーの品々を見て、''美しい''じゃなくて''美味しそう''と思うような女ですのよ?」

 本音を口にする度に憧れの彼女には程遠いのを実感し、内心苦笑いする。きっと王太子妃とは、元々の土壌から違うのだろう。

「……素直で怖いもの知らずなのが、お前の良いところだろ」

「……っ」

「私はこの口からもっと色んな話を聞きたい。ただそれだけだ」

 人差し指で、ぐるりと唇を撫でられる。彼が本当の自分を受け入れてくれたことに気付き、私は目を見開いた。

 嬉しさのあまり、つい泣きそうになる。けれども、そこはぐっと堪えて私は口元に笑みを浮かべた。

「じゃあ……コルセットを締めすぎたこと、スワンシュークリームの首を折ったこと、妃達の喧嘩を仲裁してきたこと、ルヴェニアの王太子妃のドレスが素敵だったこと……どの話が良いですか?」

「……全部聞くに決まってるだろ」

「ふふっ、欲張りでらっしゃる。じゃあ……」

 彼の愛撫に身を委ねながら、私はおしゃべり好きの口をゆっくりと開いた。
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みんなの感想(1件)

HIRO
2022.12.10 HIRO

2話 殿下呼びではなく、陛下呼びでは?

2022.12.10 二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中

回想の時点でローデンヴェイクはまだ王位を継いでいないため、殿下が正当かと思います。
ただ、その前のアリーズの台詞が誤って「陛下」となっておりましたので訂正しました。
それでは、ご指摘ありがとうございました。

解除

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