リュドミラの恋占い~身代わりの花嫁は国王陛下の番となる~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中

文字の大きさ
45 / 52

ある少女の独白

しおりを挟む
 私の祖国では、銀色の髪はとても珍しいものであった。銀髪であるだけで、周囲から羨望の眼差しを受けるのだと、昔どこかで聞いたことがある。

 上流貴族である私の父は、メイドとして働きに来た母のことを、ひと目見て気に入ったらしい。なぜなら母は、美しい銀髪をしていたからだ。

 やがて母は、私を妊娠した。しかし私を生んで程なくして、父から家を追い出されたらしい。

 当時はまだ、愛妾を持つことは法律で禁じられていなかった。しかし、愛妾や第二夫人というものを禁止する機運はすでに高まっていたので、体裁を気にした父は自己保身に走ったのだろう。

 満足な額の手切れ金も与えられず、未婚の母となった娘を実家が受け入れることもなく。やがて母は、街中にあるパン屋に住み込みで働くことを決意した。

「だいぶ大きくなったじゃないか、ジア」

「たくさん食べて、元気に育ちなさいな」

 パン屋で働いているのはみな優しい人ばかりで、誰もが私を可愛がってくれていたのをよく覚えている。

 私の中で思い浮かぶ母は、綺麗な銀髪をお団子ぐくりにして、毎日忙しそうにパンを焼く姿であった。綺麗なドレスを着ていたり、お上品なメイド服を着ていた姿は、一度だって見たことがない。しかし、私を捨てることなく、女手一つで育てることを選んでくれた母のことが、私は大好きだった。

 しかし、幸せな日々は長く続かなかった。私が五歳の時に、母が病気で亡くなってしまったのだ。

「う……っ、ううっ」

 大好きな母を失った私は、一生分の涙を使い果たすほどに泣き続けた。子供にとって、親の死はあまりにも悲しすぎる出来事だったのだ。

 そして泣いてばかりいる私に手を差し伸べてくれたのは……パン屋の店主のおじさんであった。

「ジア。良かったら、孤児院に行かずにこのままうちに住まないか?」

 私はすぐに頷いた。そしておじさんは、私を養子として迎えてくれたのだった。

 それから数年後。読み書きと計算ができるようになった私は、パン屋を手伝うようになっていた。

「お嬢ちゃん、今日はどれがオススメかしら?」

「えっと……今日から発売の季節限定、春キャベツのパンがオススメ……です!」

「あら、じゃあそれを三ついただくわ」

「っ、ありがとうございます!」

 店先に立ってお客を呼び込んだり、店内で接客したり。とにかくおじさんや店のみんなの力になりたくて、毎日必死だったのをよく覚えている。それは忙しくも、充実した日々であるに他ならなかった。

「ジア、いつもありがとう。でも……すまないね。本当ならばこんなパン屋ではなくて、お前は素敵なお屋敷に住んで、裕福な暮らしをするべきなのに」

 店の締め作業をする時、おじさんは時折そんなことを私に言った。

 そんな時、私は決まってこう言ったのだ。

「そんなこと言わないでよ、おじさん。私、今とーっても幸せだもの。素敵な‘‘看板娘’’になるために、もっと頑張るからね」

「ジア……」

 裕福でなくとも、大好きなみんなと暮らせる。それだけで私は、十分だったのだ。

 が、しかし。

 ささやかながら幸せな日常。それすらも奪われてしまうだなんて、その時の私は想像すらしていなかったのである。

+

「ここに銀髪の子供を住まわせていると聞いたが……間違いないな?」

 ある晩。おじさんが店の締め作業をしている時、目つきの悪い男が二人パン屋へとやって来たのだった。

「な、何です? たしかに子供が一人おりますが、養子縁組の申請はきちんと通しております」

「黙れ!! その手続きは一切無効だ、その子供は孤児院であずからせてもらう!」

「何を言ってるんだ、そもそも貴方たちは何者だ!!」

「うるさい、すべて法に則ったことだ!」

 そう言って、男たちは私を強引に私の手を引いてきたのだった。

「嫌、嫌あああ、離して、離してよ!!」

「ジア!!」

「大人しくしろ。このまま小娘の腕をへし折っても良いのか?」

「……っ、痛いっ、痛いよおお!!」

 男は、私の手首をキツく握りしめてきたのだった。

「やめろ! ジアに何するんだ!」

「嫌ああっ」

「お前もだ。このジジイをぶっ殺されても良いのか?」

 おじさんの命が危ない。それを聞いて、私は抵抗するのを止めざるを得なかった。

「ジア!!」

「嫌、嫌よ、おじさん、みんな!」

 おじさんの叫びもむなしく、私は男立ちに連れ去られてしまったのである。

 馬車に雑に放り込まれ、私はすぐさま手足を縛られた。真っ暗闇の中、いつ殺されるかも分からない。私は恐怖で震えることしかできなくなっていた。

 そして馬車が走り始めた時、信じられない言葉が聞こえてきたのだった。

「っ、たく、公爵様も、わざわざここまでするかねえ」

「報酬がもらえりゃ、どうでも良いこった。このご時世、落とし種がいると知られたら困るんだろ」

 そのやり取りを聞いて、私は背筋が寒くなるのを感じた。

 なぜなら……私をこんな目に遭わせたのが、自分の父親であることを知ってしまったからである。

+

 それからの日々は、本当に地獄だった。

 見知らぬ土地の孤児院に放り込まれた私は、顔見知りのいない環境での生活を余儀なくされた。なんとか友達を作ることはできたものの、すぐに他の孤児院に転院させられたのだ。

 理由は、私の素行不良。挨拶の声が小さいというのが、具体的な決定事由であった。

 それからも、私は些細な理由で短期間の転院をさせられた。朝食の食べる速さが遅いから、前髪が少し長いから、生意気な顔つきだから……と、信じられないものばかりであった。

 最初は自分が悪いのだと思って、転院しないように必死に努力した。しかし、その努力が実を結ぶことはなかった。そして私の心は、だんだんと壊れていったのだった。

 体裁を保つためとはいえ、父親がなぜ私を殺さなかったのかは定かではない。だが察するに、祖国では殺人だけでなく、殺人を指示した者も重罪となるからというのが理由だろう。

 最終的に、私はリュドミラにある孤児院に入院することとなった。

 その頃には、私はすっかり生きる屍のようになっていた。生きる希望も持てず、友達を作っても無駄だと思って、自由時間も部屋の片隅でずっと座っているような子供となっていた。
 
 いっそ、このまま消えてしまいたい。そこまで考え始めていた矢先、とある貴族の夫婦が私を引き取りたいと申し出てきたのだ。

 その夫婦にはすでに子供がおり、世継ぎがいないことに困ってはいないようだった。

「うちに来てくれるかな? ジア」

「ちょうどね、もう一人子供が欲しかったのよ。貴女が来てくれたら、うちの子も絶対に喜ぶわ」

 二人の言葉を聞いて、私は察した。彼らは娘ではなく、政略結婚に使う‘‘駒’’を求めているのだ……と。ならば、銀髪であり貴族の血を引く私を指名してくることも頷ける。

 とはいえ、転院を繰り返す日々よりもマシだと考えて、私は養子になることを決めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる

狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。 しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で……… こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

処理中です...