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第13話 忍者、異世界の技術に感心する
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数分後。
「お待たせしました~」
深々と頭を下げるアリューに、「気にしていないでござる」と斬九郎は笑顔で返す。
気を取り直して、斬九郎は刀を差し出す。
ちなみに、リーナは用事があるとかで「また来るわ」とだけ言い残して工房を去っていった。
正直なところ、初対面の、しかも裸体を見てしまった女子とどう話をしてよいのかと緊張したが、このアリューという少女はネイジェフのように人懐っこい性格をしており、こちらが話題を振らなくても自分からガンガン話していくタイプの人間だったため、ホッとひと安心。
おまけに、
「な、何なんですか、これ~!?」
花が咲いたような満面の笑みを浮かべるアリュー。その視線の先にあるのは手裏剣、まきびし、苦無といった忍者道具だった。興味深げにひとつひとつを手に取り、それを斬九郎が説明していく。
あまりにもアリューの反応がいいので、斬九郎も楽しくなっていろいろと話し込んでしまったが、本来の依頼を思い出し、改めて武器の再生をお願いをする。
アリューも「そうでした」と慌てて腕をまくって準備を開始。
「いい物を見せてもらったお礼に気合を入れて直しますね!」
意気込むアリュー。といっても、
「うん? もう始めるのか?」
「? 何か問題でもありましたか?」
「問題も何も……」
斬九郎は目を疑った。
準備万端といった感じのアリューだが、小鎚や火箸といった刀鍛冶職人が必要とする道具は見当たらない。鉄製の台の上に刀を乗せ、そこに両手をかざしているだけだ。
「道具は使わないのでござるか?」
「一から生み出すってなるといくつか必要になりますが、ここまで形がしっかり残っているなら魔法で十分修復可能です~」
「魔法……」
ここでも魔法の出番のようだ。
「これくらいから、大体一時間ほどですかね~」
「意外と早いでござるな」
数日は覚悟していたが、まさかたった一時間とは。
「では始めますよ~――リバルス!」
アリューがそう唱えると、忍刀にかざした両手が淡く光り出す。そのぼんやりとした輝きはやがて細かな粒子をまとい、刀へと雪のように舞い落ちていった。
しばらく様子を眺めていた斬九郎だが、次第に刃毀れしている部分が修復されていることに気づいた。じっくりと観察すると、光の粒子が欠けている部分に付着し、そこを埋めていくことを発見した。
初めて見る異世界の鍛冶職人の腕前。
魔法を使用するこのような修復方法は、戦国時代の日本には存在しない工程だ。
「本当に、魔法とは不思議なものでござるな。光を当てるだけで物を直せるとは」
「ただ当てているだけではありませんよ~。その物の心を捉え、癒していくのが魔法を駆使する鍛冶屋の腕の見せ所です~」
「心? 物に心があるでござるか?」
「当然です~。しゃべったり動いたりできなくても、作った人の心がしっかりと宿っているんですよ~」
新鮮な衝撃だった。
物に心があって、それを感じ取り、癒す――聞いたことのない概念だ。
この世界の職人と呼ばれる者たちは考え方から技法まで、何もかもが戦国時代の職人たちと違うのだと斬九郎は改め実感した。
「この刀……凄く大切に使っていたみたいですね~。いくつもの戦場を共に駆け抜けた、まさに相棒って感じが伝わります~」
「そんなことまでわかるのでござるか?」
「武器が教えてくれるんですよ~。武器の声がよく聞こえることが、偉大な鍛冶職人への第一歩であるっていうのが、私の憧れる祖父の口癖なので、私も注意深く武器の声を聞こうとしていたら、ある日突然聞こえるようになったんです~」
「それは訓練次第で誰でもできることなのでござるか?」
「どうでしょうか……全員が全員できるとは言い切れませんね~」
つまり、多少なりとも才能に頼る面がある、と。
そして、アリュー・クルーガーという少女はその才能を有している。
なるほど。あのリーナが褒めるだけのことはある。
「直している間、もう少しザンクローさんのいた世界の武器についてを教えてください~。できれば、実際に使っているところを見てみたいなぁ……なんて」
申し訳なさそうにしつつ、アリューの瞳は期待の色で染まっていた。
さすがは職人である。
何よりも己の好奇心に従順だ。
「喜んで」
斬九郎は申し出を受け入れ、アリューに自分たちの世界のこと――特に、武器についての話をした。
アリューからの願いを受け、斬九郎は手裏剣や苦無を適当な的に向かって投げるなど実践して見せた。
「はっ! ほっ! とっ!」
タン!
タン!
タン!
小気味良い音を立て、手裏剣は狙った的へ一直線。
寸分の狂いもなく的へ当てる姿を見たアリューは「ほあ~」と感心しきりだ。
「よくそこまで正確に狙い打てますね~」
「修行の賜物でござるな」
とりとめのない会話をしながら、苦無や鎖鎌も余すところなくその有能さを披露していく。ちなみに、まきびしと焙烙玉に関してはさすがに性能説明だけで済ませた。
説明のたびに、アリューはまん丸の瞳を夜空に浮かぶ星の瞬きの如くキラキラと輝かせて眺めていた。
「革命的~♪ 前衛的~♪ 芸術的~♪」
アリューは相当気分が乗ってきたらしく、自身が作詞作曲した即興の歌を披露しながら作業を進める。
一方的に話すのではなく、時折、アリューからこの世界の武器についての話も聞くことができた。
忍として活動していない時は塗師として生計を立てていた斬九郎にとっても、異世界の物作りには興味がある。
ふたりの話はどんどん弾んでいく。
それはもう、時の流れを忘れてしまうくらい夢中になっていた。
「それにしても、ザンクローさんはすごいですね」
「何がでござる?」
「あのリーナさんが私に他人の武器を直すよう頼みにくるなんて初めてですからね~。今でも信じられません」
「……そんなに普段のリーナは気難しいのでござるか?」
「それはもう。ヴェール最大の硬度を誇るガンデア鉱石よりも遥かに硬いですよ」
ガンデア鉱石とやらがなんなのかは知らないが、相当な石頭であることはたしかなようだ。
「まあ、これを機に、もう少し他人に対して丸くなってくれるといいんですけど~。根は優しくていい子なんですよ~。私みたいな変わり者を相手にしても、腕はたしかだと褒めてくれて、こうやって頼ってきてくれますし~」
だが、人望はそれなりにありそうだ。しかし、
「うーむ……できるでござろうか」
「ふふふ。すぐには無理でも、徐々にそうなってほしいですね~。……だから、どうかそうなれる日まで、リーナさんと仲良くしてあげてください」
アリューは柔和な笑顔でそう言った。友人として心から心配している様子が窺える。
「む?」
物珍し気に工房を見渡していた斬九郎は、室内に扉を見つけた。
「ここは?」
「ああ。そこは廃材置き場です~」
「廃材置き場……少し覗いても?」
「構いませんよ~」
アリューの了承を得て、廃材置き場に足を踏み入れる。
そこは作業場よりもさらに物が乱雑に置かれており、薄暗さも手伝って足を先に運ぶのが躊躇われた――だが、
「おぉ……」
斬九郎の目には、その廃材置き場が宝物庫に映った。
廃材ということは、ここにあるものはいずれ処分されるのだろう。だったら、なんとか譲ってもらえないだろうかと斬九郎は考えていた。
かつて、里で評判の塗師――つまり職人としての顔も持っていた斬九郎は、自らの手で忍道具を作り上げることも多々あった。
――斬九郎は、ひとつの可能性を打ち出した。
その鍵を握るのは、リーナが魔獣との戦闘で用いた魔力を増幅させるという魔剣の存在であった。
魔力を増幅させる魔剣があるのなら、最初から魔力を武器に込め、魔法に類似した効果を持つ武器を作れないだろうか、と。もしそれが可能なら、自分にもあの不思議な力――魔法とよく似た力を使いこなせるかもしれない。
「……試す価値は大いにあるな」
職人としての血が騒ぐ。
今すぐにでも作業に取り掛かりたい斬九郎であったが、
「終わりましたよ~」
「! あ、ああ、今行くでござる」
作業を終えたアリューの声に呼び戻され、斬九郎は工房へ。そこで、魔獣との戦闘前となんら変わらぬ姿をした忍刀を手渡された。
「凄い! 完璧な仕事だ!」
その出来栄えに、斬九郎は大満足。むしろ、ボロボロになる前よりも綺麗になっている感じさえする。
「喜んでもらえてよかったです~」
ひと仕事終えた異世界の職人――アリュー・クルーガーは満足そうに頷く。ちょうどその時、
「そろそろ終わったかしら?」
リーナが迎えにやって来た。
「ちょうど終わったところですよ~。……ザンクローさん、さっきの話は全部内密でお願いしますね~」
「ああ、そうしよう」
「ちょっと何よ……気味悪いわね」
「気味悪いだなんて失礼ですね~」
斬九郎は唇を尖らせるアリューを「まあまあ」と宥めながら、
「今度は是非、一から武器を作る工程を見せてほしいでござる」
「お安い御用ですよ~」
「あと、できたら工房の一部を貸してはくれぬか?」
「いいですけど、何か作るんですか~?」
「魔獣との戦闘でほとんどの武器を使用してしまったので、新しく調達したいのだ。この世界の材料を使って」
「え? ザンクローさん、武器を作れるんですか~?」
「多少の心得はあるでござる。本職のお主には到底敵わぬが」
「お上手ですね~。では、是非一度、異世界の職人技術を見せてください~」
「ああ」
笑い合って、ふたりは握手を交わし、拳をごっつんこ。
これで、斬九郎とアリューは立派な仲間だ。
「まあ、仲良くなったっていうのはいいことだけど」
喜ぶも、なんだか腑に落ちないといった様子のリーナは斬九郎を手招きして、
「ザンクロー、あんたを待っている人たちがいるわ。ついてきて頂戴」
「拙者を待っている人たち?」
待っている人たちとは誰だろう。「たち」というからには複数人のようだが、まったく見当もつかない。セドルフか、それとも時間が取れたエルネスか。或はネイジェフか。
考えていたら「さっさとしなさい」とリーナに怒られた。これ以上待たせてはいけないと、斬九郎は早歩きでリーナの待つ部屋の出口へ。
最後に、斬九郎はアリューに刀の件でお礼を言うと、
「道具のことで何か困ったことがあったらここへ来てください~。いつでも力になりますよ~」
「去り際の挨拶をしたあとで悪いんだけど……あんたも来るのよ、アリュー」
「え~? 私もですか~?」
意外だったのか、声が裏返っている。
「この日陰と湿度を愛し、引きこもり界の大御所と言われる私を外に出そうと~?」
頑なに外出を拒否しようとするアリューだが、
「却下よ!」
一蹴。
さすが、扱いには慣れているようだ。
リーナの眼光に屈服し、「わかりました~」とアリューがこうべを垂れた。
「じゃ、行きましょう」
リーナが先頭を行き、斬九郎とアリューはその背中を追いかけるようにして工房をあとにした。
「お待たせしました~」
深々と頭を下げるアリューに、「気にしていないでござる」と斬九郎は笑顔で返す。
気を取り直して、斬九郎は刀を差し出す。
ちなみに、リーナは用事があるとかで「また来るわ」とだけ言い残して工房を去っていった。
正直なところ、初対面の、しかも裸体を見てしまった女子とどう話をしてよいのかと緊張したが、このアリューという少女はネイジェフのように人懐っこい性格をしており、こちらが話題を振らなくても自分からガンガン話していくタイプの人間だったため、ホッとひと安心。
おまけに、
「な、何なんですか、これ~!?」
花が咲いたような満面の笑みを浮かべるアリュー。その視線の先にあるのは手裏剣、まきびし、苦無といった忍者道具だった。興味深げにひとつひとつを手に取り、それを斬九郎が説明していく。
あまりにもアリューの反応がいいので、斬九郎も楽しくなっていろいろと話し込んでしまったが、本来の依頼を思い出し、改めて武器の再生をお願いをする。
アリューも「そうでした」と慌てて腕をまくって準備を開始。
「いい物を見せてもらったお礼に気合を入れて直しますね!」
意気込むアリュー。といっても、
「うん? もう始めるのか?」
「? 何か問題でもありましたか?」
「問題も何も……」
斬九郎は目を疑った。
準備万端といった感じのアリューだが、小鎚や火箸といった刀鍛冶職人が必要とする道具は見当たらない。鉄製の台の上に刀を乗せ、そこに両手をかざしているだけだ。
「道具は使わないのでござるか?」
「一から生み出すってなるといくつか必要になりますが、ここまで形がしっかり残っているなら魔法で十分修復可能です~」
「魔法……」
ここでも魔法の出番のようだ。
「これくらいから、大体一時間ほどですかね~」
「意外と早いでござるな」
数日は覚悟していたが、まさかたった一時間とは。
「では始めますよ~――リバルス!」
アリューがそう唱えると、忍刀にかざした両手が淡く光り出す。そのぼんやりとした輝きはやがて細かな粒子をまとい、刀へと雪のように舞い落ちていった。
しばらく様子を眺めていた斬九郎だが、次第に刃毀れしている部分が修復されていることに気づいた。じっくりと観察すると、光の粒子が欠けている部分に付着し、そこを埋めていくことを発見した。
初めて見る異世界の鍛冶職人の腕前。
魔法を使用するこのような修復方法は、戦国時代の日本には存在しない工程だ。
「本当に、魔法とは不思議なものでござるな。光を当てるだけで物を直せるとは」
「ただ当てているだけではありませんよ~。その物の心を捉え、癒していくのが魔法を駆使する鍛冶屋の腕の見せ所です~」
「心? 物に心があるでござるか?」
「当然です~。しゃべったり動いたりできなくても、作った人の心がしっかりと宿っているんですよ~」
新鮮な衝撃だった。
物に心があって、それを感じ取り、癒す――聞いたことのない概念だ。
この世界の職人と呼ばれる者たちは考え方から技法まで、何もかもが戦国時代の職人たちと違うのだと斬九郎は改め実感した。
「この刀……凄く大切に使っていたみたいですね~。いくつもの戦場を共に駆け抜けた、まさに相棒って感じが伝わります~」
「そんなことまでわかるのでござるか?」
「武器が教えてくれるんですよ~。武器の声がよく聞こえることが、偉大な鍛冶職人への第一歩であるっていうのが、私の憧れる祖父の口癖なので、私も注意深く武器の声を聞こうとしていたら、ある日突然聞こえるようになったんです~」
「それは訓練次第で誰でもできることなのでござるか?」
「どうでしょうか……全員が全員できるとは言い切れませんね~」
つまり、多少なりとも才能に頼る面がある、と。
そして、アリュー・クルーガーという少女はその才能を有している。
なるほど。あのリーナが褒めるだけのことはある。
「直している間、もう少しザンクローさんのいた世界の武器についてを教えてください~。できれば、実際に使っているところを見てみたいなぁ……なんて」
申し訳なさそうにしつつ、アリューの瞳は期待の色で染まっていた。
さすがは職人である。
何よりも己の好奇心に従順だ。
「喜んで」
斬九郎は申し出を受け入れ、アリューに自分たちの世界のこと――特に、武器についての話をした。
アリューからの願いを受け、斬九郎は手裏剣や苦無を適当な的に向かって投げるなど実践して見せた。
「はっ! ほっ! とっ!」
タン!
タン!
タン!
小気味良い音を立て、手裏剣は狙った的へ一直線。
寸分の狂いもなく的へ当てる姿を見たアリューは「ほあ~」と感心しきりだ。
「よくそこまで正確に狙い打てますね~」
「修行の賜物でござるな」
とりとめのない会話をしながら、苦無や鎖鎌も余すところなくその有能さを披露していく。ちなみに、まきびしと焙烙玉に関してはさすがに性能説明だけで済ませた。
説明のたびに、アリューはまん丸の瞳を夜空に浮かぶ星の瞬きの如くキラキラと輝かせて眺めていた。
「革命的~♪ 前衛的~♪ 芸術的~♪」
アリューは相当気分が乗ってきたらしく、自身が作詞作曲した即興の歌を披露しながら作業を進める。
一方的に話すのではなく、時折、アリューからこの世界の武器についての話も聞くことができた。
忍として活動していない時は塗師として生計を立てていた斬九郎にとっても、異世界の物作りには興味がある。
ふたりの話はどんどん弾んでいく。
それはもう、時の流れを忘れてしまうくらい夢中になっていた。
「それにしても、ザンクローさんはすごいですね」
「何がでござる?」
「あのリーナさんが私に他人の武器を直すよう頼みにくるなんて初めてですからね~。今でも信じられません」
「……そんなに普段のリーナは気難しいのでござるか?」
「それはもう。ヴェール最大の硬度を誇るガンデア鉱石よりも遥かに硬いですよ」
ガンデア鉱石とやらがなんなのかは知らないが、相当な石頭であることはたしかなようだ。
「まあ、これを機に、もう少し他人に対して丸くなってくれるといいんですけど~。根は優しくていい子なんですよ~。私みたいな変わり者を相手にしても、腕はたしかだと褒めてくれて、こうやって頼ってきてくれますし~」
だが、人望はそれなりにありそうだ。しかし、
「うーむ……できるでござろうか」
「ふふふ。すぐには無理でも、徐々にそうなってほしいですね~。……だから、どうかそうなれる日まで、リーナさんと仲良くしてあげてください」
アリューは柔和な笑顔でそう言った。友人として心から心配している様子が窺える。
「む?」
物珍し気に工房を見渡していた斬九郎は、室内に扉を見つけた。
「ここは?」
「ああ。そこは廃材置き場です~」
「廃材置き場……少し覗いても?」
「構いませんよ~」
アリューの了承を得て、廃材置き場に足を踏み入れる。
そこは作業場よりもさらに物が乱雑に置かれており、薄暗さも手伝って足を先に運ぶのが躊躇われた――だが、
「おぉ……」
斬九郎の目には、その廃材置き場が宝物庫に映った。
廃材ということは、ここにあるものはいずれ処分されるのだろう。だったら、なんとか譲ってもらえないだろうかと斬九郎は考えていた。
かつて、里で評判の塗師――つまり職人としての顔も持っていた斬九郎は、自らの手で忍道具を作り上げることも多々あった。
――斬九郎は、ひとつの可能性を打ち出した。
その鍵を握るのは、リーナが魔獣との戦闘で用いた魔力を増幅させるという魔剣の存在であった。
魔力を増幅させる魔剣があるのなら、最初から魔力を武器に込め、魔法に類似した効果を持つ武器を作れないだろうか、と。もしそれが可能なら、自分にもあの不思議な力――魔法とよく似た力を使いこなせるかもしれない。
「……試す価値は大いにあるな」
職人としての血が騒ぐ。
今すぐにでも作業に取り掛かりたい斬九郎であったが、
「終わりましたよ~」
「! あ、ああ、今行くでござる」
作業を終えたアリューの声に呼び戻され、斬九郎は工房へ。そこで、魔獣との戦闘前となんら変わらぬ姿をした忍刀を手渡された。
「凄い! 完璧な仕事だ!」
その出来栄えに、斬九郎は大満足。むしろ、ボロボロになる前よりも綺麗になっている感じさえする。
「喜んでもらえてよかったです~」
ひと仕事終えた異世界の職人――アリュー・クルーガーは満足そうに頷く。ちょうどその時、
「そろそろ終わったかしら?」
リーナが迎えにやって来た。
「ちょうど終わったところですよ~。……ザンクローさん、さっきの話は全部内密でお願いしますね~」
「ああ、そうしよう」
「ちょっと何よ……気味悪いわね」
「気味悪いだなんて失礼ですね~」
斬九郎は唇を尖らせるアリューを「まあまあ」と宥めながら、
「今度は是非、一から武器を作る工程を見せてほしいでござる」
「お安い御用ですよ~」
「あと、できたら工房の一部を貸してはくれぬか?」
「いいですけど、何か作るんですか~?」
「魔獣との戦闘でほとんどの武器を使用してしまったので、新しく調達したいのだ。この世界の材料を使って」
「え? ザンクローさん、武器を作れるんですか~?」
「多少の心得はあるでござる。本職のお主には到底敵わぬが」
「お上手ですね~。では、是非一度、異世界の職人技術を見せてください~」
「ああ」
笑い合って、ふたりは握手を交わし、拳をごっつんこ。
これで、斬九郎とアリューは立派な仲間だ。
「まあ、仲良くなったっていうのはいいことだけど」
喜ぶも、なんだか腑に落ちないといった様子のリーナは斬九郎を手招きして、
「ザンクロー、あんたを待っている人たちがいるわ。ついてきて頂戴」
「拙者を待っている人たち?」
待っている人たちとは誰だろう。「たち」というからには複数人のようだが、まったく見当もつかない。セドルフか、それとも時間が取れたエルネスか。或はネイジェフか。
考えていたら「さっさとしなさい」とリーナに怒られた。これ以上待たせてはいけないと、斬九郎は早歩きでリーナの待つ部屋の出口へ。
最後に、斬九郎はアリューに刀の件でお礼を言うと、
「道具のことで何か困ったことがあったらここへ来てください~。いつでも力になりますよ~」
「去り際の挨拶をしたあとで悪いんだけど……あんたも来るのよ、アリュー」
「え~? 私もですか~?」
意外だったのか、声が裏返っている。
「この日陰と湿度を愛し、引きこもり界の大御所と言われる私を外に出そうと~?」
頑なに外出を拒否しようとするアリューだが、
「却下よ!」
一蹴。
さすが、扱いには慣れているようだ。
リーナの眼光に屈服し、「わかりました~」とアリューがこうべを垂れた。
「じゃ、行きましょう」
リーナが先頭を行き、斬九郎とアリューはその背中を追いかけるようにして工房をあとにした。
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