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0話。ビィビィアンの初恋6
しおりを挟むアイリス公爵令嬢は話をはじめた。
「そうね、勿論、逃げるならそれでもいいわ、その代わり、これからの未来は永久に無くなる」
「さあ、決めなさい!侍女になるか、牢屋行きか」
チェリーはまだ悩んでいた。
こんな選択を私にさせて、どうする気なの?
きっと殺されるは、今からでも、逃げる、駄目よ公爵家から逃れるのは無理だ。
それに、悪いのは私だ。
膝を床に付けて誓いを立てた。
「私、平民のチェリーと申します。
この度アイリスお嬢様には迷惑かけたと、反省しております、お許し下さい」
アイリス公爵令嬢は、まあ、服従すなら良いでしょう。
「そうね許すには私のドレスを弁償しなさい」
いったい、どれくらいするんだろうか?
「それでは、今日から私を侍女として雇ってください、
御給料くださるなら贅沢は、言いません」
アイリス公爵令嬢は微笑み彼女の全身を見て顔以外私に似てるわね。影武者にピッタリだわ。
あの、微笑みを見て、アイリス公爵令嬢この女、只者ではないとチェリーは悟った。
チェリーは静かに紅茶を注ぎながら、ふと手元を見つめた。
あの晩、ウエストを締め上げて嘔吐したことも、アイリスの怒声も、全てが遠い昔のようだった。
「貴婦人って…何?」
鏡の前でぽつりと呟く。ドレスは今も美しい。でも、気品は布地じゃ生まれない。
ヴィヴィアンが微笑んだ時、初めて“佇まい”の意味を知った。
(ドレスは専門のクリーニング屋が元通りの美しさにしております。)
勿論チェリーの御給料から差し引かれますが。
アイリス公爵令嬢の部屋で叱られた日から、チェリーは朝に花を活けるようになった。
侍女として、少しずつ身のこなしを学んだ。言葉遣いも、食事の作法も、アイリス公爵令嬢を見て覚えた。
ある日、アイリス公爵令嬢が、ふと呟いた。
「最近、背すじが綺麗になったわね」
それは、ドレスよりも重みのある褒め言葉だった。
チェリーは、小さく笑った。
「私、侍女として、ここに来ましたが貴婦人になるのも、悪くないかも」
アイリス公爵令嬢は貴族令嬢の覇気を発動していた。
「私の覇気で立っていられるのは貴女達だけみたいね」
周りを見ると立っているのは、ヴィヴィアンと、チェリーだけだった。
ヴィヴィアンは、軽やかなリズムでアイリス公爵令嬢の屋敷へ向かっていた。数ヶ月ぶりの訪問だ。
「この門、前より高くなった気がする…?」
呟いた声に返事はない。けれど、庭に咲くモクレンの香りは懐かしく、まるで彼女を歓迎しているかのようだった。
玄関で出迎えたのは、以前と違う侍女だった。
けれど、館の内装も、空気の緊張感も、変わっていない。
階段を上る途中、ふと耳に届いたのは――あの笑い声。
「アイリス…?」
扉が開くと、そこにいたのはアイリス公爵令嬢と…
見違えるほど凛とした佇まいのチェリーだった。
レースのついた控えめなドレス。視線を避けるでもなく、まっすぐヴィヴィアンを見つめる瞳。
「久しぶりね、ヴィヴィアン」
アイリスは優雅に微笑んだ。
「あら、見違えるほど立派になった、チェリーに驚いた?」
「ええ貴族の御令嬢だわ」
この瞬間が、何か新しい“はじまり”になる気がしていた。
チェリーは、ヴィヴィアンに褒められた自分が誇らしく嬉し泣きをしていた。
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