あれから会う事もなく3年が立ちました

尾道小町

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シルビアの記憶

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夢の中で、誰かが名前を呼んでいた。  

「シルビア」  

その声は、遠くて、でも懐かしくて、胸が痛くなるほど優しかった。  
  
白い部屋。

風の音。

誰かの手。  

それが誰なのか、思い出せそうで、思い出せない。  
 
 パンの香り。 
 
焼きたてのパンを「美味しい」と言ってくれた人がいた。  
その人の笑顔が、ぼんやりと浮かぶ。  
 
「愛してる」と言われた気がする。  

 でも、それは夢だったのかもしれない。  

目を開けると、見慣れない天井。  

隣にいる小さな手が、私の指を握っていた。  
  
 「おかあしゃま」  
  
 その言葉で、胸の奥が震えた。  

 私は、誰かの母だった。  

その記憶だけが、確かに私の中に残っていた。  
 
けれど、名前が出てこない。  

あの人の顔も、声も、輪郭だけが霞んでいる。  
  
どうして忘れてしまったのだろう。  

忘れたくなかったのに。  

誰かが、私の記憶を閉じ込めた。  

鍵をかけて、遠くに置いていった。  

でも、ユージンの笑顔が、少しずつ鍵穴を揺らしている。  
彼の声が、私の中の扉をノックしている。  

「おかあしゃま、だいすき」  

その言葉が、私の心に灯りをともした。  

私は、きっと、愛されていた。  

そして、愛していた。  

その記憶を、もう一度取り戻したい。  

 この手で、もう一度抱きしめたい。  
  
 あの人の名前。

ユリアス。  

その名を口にした瞬間、胸が熱くなった。  

 涙が頬を伝い、私は静かに目を閉じた。  
 
記憶は、まだすべて戻っていない。  

でも、確かに、ここにある。  

私の中に、愛が残っている。


深い森の奥、誰も知らない泉のほとり。  

 シルビアは、小さな光を見つけた。 

 それは、妖精が流した涙だった。  

「誰かが、泣いていたのね」  

シルビアは、その涙にそっと触れた。
  
指先が光に包まれ、彼女の胸に静かな痛みが広がった。  

それは、誰かの孤独に寄り添った証だった。


深い森の奥、誰も知らない泉のほとり。  

 シルビアは、小さな光を見つけた。 

 それは、妖精が流した涙だった。  

「誰かが、泣いていたのね」  

シルビアは、その涙にそっと触れた。
  
指先が光に包まれ、彼女の胸に静かな痛みが広がった。  

それは、誰かの孤独に寄り添った証だった。


高台の窓辺、シルビアは三人の姿を見下ろしていた。  
  
 サンドラの笑顔。ユージンのまっすぐな眼差し。  
 そして、ミレイユの微笑みが、少しだけ柔らかくなっていた。  
  
 シルビアは、手帳を閉じた。  
  
「赦しって、伝染するのね」  
 
彼女は、静かに立ち上がった。  
  
「私も、誰かに言葉を渡さなきゃ」  

その決意は、声にならないまま、風に乗って広がっていった。



礼拝堂の片隅に、ミレイユはサンドラと並んで座っていた。  

 「昔、あなたを泣かせたこと……覚えてる」  
  
 サンドラは、静かに目を閉じた。  
  
 「私も、誰かに見つけてもらいたくて、騒いでた」  
  
 ミレイユは、祈りの珠を握りしめた。  
  
 「私は、誰にも見つけてもらいたくなかった。  
 見つけられるのが、怖かったの」  
  
サンドラは、そっと彼女の手に触れた。  

「じゃあ、今は見つけてあげる。  
あなたのこと、ちゃんと見てるわ」  

 ミレイユの瞳に、涙が浮かんだ。  
 
それは、赦しのあとに訪れた、静かな再生の瞬間だった。







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