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【僕とお嬢さん】
5「お嬢様と暮らす」
しおりを挟む俺達は着の身着のまま、村や街を転々と移動した。
俺1人だったら食わなくても寝なくてもどんな劣悪環境でも平気だったが、“普通の人間”が同行しているので、そうはいかない。
持ち前の人当たりの良さを駆使し、人々に“へいこら”して施しをさんざ受けた。
とある街に腰を据え、大工業の人らと仲良くなり、家を作らせた。
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何も出来なかった“あの”お嬢様が、拙いながらも料理を学び始めた。
言葉づかいも態度も昔と比べて妙に優しくなっていった。
俺は、土木作業だの冒険者達のヘルプとしての剣士だのをやって適当に小金を稼いだ。
不眠不休で大丈夫なので、その小金は案外貯まり、大金になった。
その金で適当にお揃いの真珠の指輪を見繕い、お嬢様の目の前でひざまづきながらそれを渡したら、お嬢様は大層照れ悶えながら俺をぽかぽかと叩き、大層喜びながら大層泣いた。
見事な、喜怒哀楽の瞬間芸だった。
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時の流れは早かった。
気がつけば子供が出来ていた。望まれたから作ったが、何回作ってもやはり気恥ずかしい。
何人目の子供だろうか、と考えてやめておく。やはり最初の、あの“病弱な子”が一番印象深かった。
お嬢様は、俺の赤い瞳がこの子に遺伝しなかったことをひどく残念がった。
……別にいいじゃん、そんなの。俺は苦笑いを浮かべた。
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20年くらい経った。
お嬢様は家事をしまくったせいで、あの白魚のような美しい手はどこへやら、荒れに荒れまくった手になっていた。
……それなのに、俺ときたら見た目が何も変わっていなかった。いいかげん、俺の見た目が全く変わらない事にお嬢様も気がついて不気味に思うだろう。
俺と息子が並ぶと兄弟のように見える。不自然である。
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数年後、息子は流行り病にかかり亡くなった。
自分の子供の死に顔を見ることに未だに慣れなかった。ぼろぼろ泣いてしまった。いいかげん慣れろよ。みっともない。
危うく、何か言葉を発しそうになるが抑える。ちなみに、いまだにお嬢様と会話をしたことはなかった。
………あぁ。イヤだイヤだ。
だんだん“あの”嫌な瞬間が訪れる。
全てを捨ててどこかへ逃げたい衝動に駆られるが、そんな薄情な事をする資格なんざ俺にはないので必死に耐える。
何十年も一緒にいると、なんで情がわいてしまうのだろう。
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