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社内改革編

第20話 聖女、勇者パーティを退ける

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 私はかつて勇者様・・・に認めて貰えるよう、一生懸命彼に尽くしていた。セントラリアを拠点に活動していた勇者パーティのお世話係をしていた私は、家事全般、身の回りのお世話や料理も担当していた。舞台袖よりイザナの反応を窺う私。あの反応からするに……彼は気づいた・・・・ようだ。

「お……おい、この御膳はなんだ?」
「なんだ? と申されましても、勇者様のために村の者へ創らせました、特製・・の旬彩御膳ですぞ?」

 族長の代役を務めるププが尻尾を振り振りしつつ笑顔でイザナの質問に答える。

「なにこれーー、野菜ばっかじゃん」
「うむ、食べれない事はないがな……」

 キャシーとグエルも不満の声をあげる。エルフのユフィだけが、茎野菜を柔らかく煮詰めた水煮を満足そうに口へ含んでいた。

「ヒジッキーの煮物、ニンジーンの大自然焼き、茎野菜の水煮、特製茸のバター焼き、緑蜀黍みどもろこしのスープ、パプリカオニオン炒め、カラフルビーンズ焼き……まだまだありますぞ!?」

 グエルは食べれない事はない筈だ。ユフィに至ってはむしろ野菜やきのこは大好物だ。

「さぁ、イザナ様~~、たんと食べるにゃーー!」
「い、いや……おい、ちょっと待てって……」

 胸を押しつけて『あーーん』とニンジーンの塊を口へ入れようと近づく猫娘。いつもの勇者ならムフフな展開だろうが、今はそれどころではない。イザナの嫌いな食べ物ランキングトップ3に入るニンジーンが近づいているのだから。

「ほら、食べるにゃ~~天下の勇者様は何でも食べられる筈にゃ!」
「んん!? んぐっ!?」

 口の中へニンジーーンを大量投下され、無理矢理口を閉じられる勇者。私は思う。『この猫娘、出来る』と。顔面蒼白になりつつ、勇者は無理矢理ニンジーーンを飲み込む。

「ケホッケホッ、てめぇ、何しや……んんっ!?」
「はい、お酒もどんどん飲んでね~~」

 お酒を流し込まれる勇者。相変わらず胸を押しつけた状態で横をキープしている。イザナが正気に戻り、鼻の下を伸ばそうとすると、ヒジッキーの煮物を押し込まれた。イザナの嫌いな食べ物ランキング第五位の代物だ。

「勇者殿、宴は始まったばかり。今日は楽しんで行かれよ。さぁ、お前達、出番だぞ!」

 パン、パン、と両手を叩く犬耳ププ。舞台袖より私達は頷き合う。さぁ、いよいよ出番のトキだ。

 こうして、勇者にとって地獄の宴が始まるのだった。




 兎人族バニー三姉妹であるララ、リリ、ルル。そして兎人族ルックの私、ルーシア四名が舞台へと立つ。セクシーな私達の登場に、イザナの顔もぱぁっと明るくなる。鼻の下を伸ばすイザナとグエルの姿を見て、鬱憤を晴らすかのようにキャシーが『鼻の下伸ばしてるんじゃないわよ!』とグエルの鼻に鉄拳を喰らわしていた。

「ヒューーーー、さすが獣人族! こういうのを待ってたんだよ!」

 軽く会釈をし、舞を舞い始める私達。猫耳娘達が奏でる音楽へ併せ、私の持つ二つの果実メロンとララが持つ二つの果実りんごが上下左右に揺れ、華麗なる四重奏カルテットを演出する。

 リリも負けてはいない。先程から私を視て悶えていた彼女は既に出来上がっている。艶めかしい動きと表情、ムチムチとしたお尻と太腿が強調され、妖艶な仕草で勇者へ視線を送る度に彼を悩殺する。

「うひょーー。いいね、いいね! 気に入ったぜーーあんた達」
「うむ。満足である」

 イザナとグエルが満足そうな声をあげる。ユフィは既にお酒を飲まされだらしなく涎を垂らし、横になってしまっていた。

「ちっ、私という者が居ながら……イザナの奴……」
「ねぇ~~素敵なお姉さ~~ん。お姉さんも楽しんでよ~~、ほら、このお肉、食べて~~」

 メイド服の猫娘に促され、キャシーが何かのお肉を口に含まされる。

「あら、肉もあるんじゃない! イザナ、この鶏肉・・、美味しいわよ!」
「キャシー、今はそれどころじゃねーーから。そこのバニー、こっちへ来い。俺と今日は楽しもうぜ!」

 一瞬頬を膨らませるキャシーだったが、プリっとしたお肉の塊と、薄切り切られたロースト肉を口に含み、肉の味を堪能する。どんなお肉・・・・・も調理をちゃんとすれば美味しい物なのである。

「お兄さん、飲んでます? 一緒に楽しみましょう?」
「うひょーー。すげーな、お前のメロン! 俺好みの女だぜ!」

 そりゃあそうだ。勇者様は私の果実メロンがお好きでしたものね。でも、そろそろチェックメイトだ。

「ほら、お兄さんも口移ししてあげるから、このお肉、食べて!」
「へへっ、やけに積極的じゃねーーか……んぐっ!?」

 無理矢理口に肉を含ませる。勇者様には私が口移しで肉を含ませているように視えている・・・・・だろう。

「ねぇーー、この美味しい肉、何の肉なの?」
「あ、これですか? これは鶏肉じゃなくて、エビルフロッガーの蛙肉・・ですよ? あとこっちは野生のゴブリン肉ですね」

 一瞬、時が止まったかのように静まり返る一同。むしろ人肉にしなかっただけありがたいと思って欲しいものだ。尚、キャシーの嫌いなモノ、第一位は蛙だったりする。

「え? 今なんて……?」
「あら、皆さん聞こえなかったんですか? 世の中には何の肉か分からない・・・・・・・・・お肉を食べている貧困層もたくさん居るんです。エビルフロッガーは柔らかく煮込めば鶏肉のように美味しい味を再現出来ます。残念ながらゴブリン肉はゲロの味ですから、イリュージ茸による幻覚作用で、堪能して貰う事にしました」

 刹那、幻覚が解け、勇者達の口腔内にゲロの味が再現される。思わず口を押え、部屋の外へと飛び出す勇者達。イリュージ茸は単独で食べると美味だが、お酒・・と一緒に食べると強烈な幻覚作用を引き起こす。しかも、ある程度幻覚の内容を操作出来るのだ。尚、さっきイザナへ口移ししていた相手は私ではなく、男好きの蜥蜴人リザードマン、リザちゃんだ。

「お、お前等、こんな事をして……済むと思って……」
「あら~~勇者様? どんな事ですかぁ? 明日、目を覚ますとぉ~~、勇者様はぁ~~ここでぇ~~宴会を楽しんだ。獣人族の村を襲ったのは魔物ではない・・・・・・。それだけしか覚えていないのですよ」

 外で地面と睨めっこしているイザナを見下ろし、私が耳元で言葉を紡ぐ。イリュージ茸の幻覚作用は一種の催眠効果がある。ララとリリが同様にキャシーとグエルの耳元で囁いている。私はイザナの顔へメロンを近づけてあげる。

「俺は……宴会を楽しんだ……ぐへへ……そうだな……そうだったな……おろろろろろろろろ!」

 再び押し寄せる気持ち悪さに、メロンを押しのけるイザナ。吐瀉物が残念ながら大地へと還っていく。

「このお酒の量だと……イリュージ茸の副作用で三日間はその気持ち悪さが続きます故、街でしっかり療養して下さいね、イザナ様」

 私がイザナへ濃厚なキスをプレゼント……彼にはそう視えたであろうが、キスを披露した相手は言うまでもなく蜥蜴人のリザちゃんだ。有名な勇者と接吻が出来てリザちゃんも満足そうだ。

 自身の本当の姿が視えていない勇者を前に『まーぼろーしーー』と指を立てて振り振りするリザちゃん。めでたし、めでたしだ。


 そのまま勇者達は深い眠りへと落ちていく。
 魔族特製の転送装置を使って、ブリーズディアの街外れに彼等を転送する。
 暫くは記憶として忘れていても、身体がトラウマを覚えているため、彼等が獣人族の村へ近づく事はないだろう。

 獣人族達は歓声をあげ、こうして村は一つの危機を乗り越えたのである。


★☆★

「勇者様の唇、意外と柔らかかったわぁん♡ また是非堪能したいわぁん♡」
「そ……そう、それはよかったわね、リザちゃん……」

 後の蜥蜴人による感想に苦笑いする私なのでした。
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