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神殿にて
始まり或いは終わり
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嗚呼、やっぱり。やっぱり、違った。違う、私が望んでいるのはそんな事ではない。
私の知る“神様”はそんな事をしない。たった一人の取るに足らない“私”という人間にそんな…人間の情のようなものを抱かない。
「儂らは万能ではあるが、それはあくまでこの世界での範疇故。他の場であれば、力は失わずとも存分な力を発揮せぬ」
けれど、神様はそんな私の事を知らぬとでも言うように、それが私の本当の願いだ、とでも言うように、囁く。甘美な毒のような耳に注ぎ込まれたその声は何も考えられずになるがままにされるようなもので。「それはお前にも言えることだ」と、更に言葉を重ねあげる。私の耳から身体に伝わる毒を注ぐ。
「“おとし仔”よ。おとされたであろうとも、お前の制約は前にある。何処に属せずとも、不思議な事にそれは存在する。故に儂らは手を出せぬ。手を下すことは可能であってもな」
私は神々の言う“おとし仔”で、だから殺されて然るべきなのに、こんな神様を目の前にして辛くないわけがない。辛い。辛い。逃げたしたくて…でも、生きないといけなくて……だけど、死にたくて。
「故に言え」
神様に殺されたならば、それは仕方のないことだと、そう割りきれるのに。神々は気紛れだから、だから、殺されても嗚呼、仕方がないな、と言えるのに。そんな逃げ道があるのに。
「何、で…」
何で、そんな些細な願い事も叶わないのだろうか。
「気に入ったからだ。他に意味などあるか?」
まるで物珍しい玩具を手に入れたがるような、あまりに無邪気な貌でそう言う。
「誰にも必要とされず、世界にも必要とされない、“おとし仔”のお前を、受け入れるのは儂らだけだ」
けれど、それは私のよく知っていた神々で。
けれど、それは私が望んでいた神々で。
けれど、それは嫌になってしまうくらい分かってしまうような神々で。
「貴方を愛するから。だから、私達は護りたいと、そう思うのよ」
どこまでも───自分勝手で、残酷でそれでいて無邪気だった。
「さぁ…だから、言って頂戴。その小さい口で紡いで頂戴」
唇に彫られたばかりのような綺麗で精巧な指を添えられ、口を無理矢理開かされる。それは強引な力業のようで、けれど、優しく、あくまで撫でるように。
そうして、溢れてしまわぬように、決して開いてしまわぬように、石より尚重くできた扉のように硬く口を閉ざしていたのに…ゆるり、とまるでそうであるように口が開かれる。
「さぁ…言ってみよ。許す、赦す。嗚呼、儂は赦すとも。それがお前が望む慈悲深き神々なのだからな」
「……え、」
そんな言葉私は洩らしてない。心の内で思っていただけで。いや、違う。私は確かにそう思っていたの? 本気でそうであってほしいと望んでいたの? ただの何でもない人間の私が神々をそう定義してしまったの?
態度…態度が出てしまったのだろうか。…分からない。分からない。分からない事ばかりで吐きそうだ。何かがきっと神様の目に止まってしまって…嗚呼、そうだ。眼だ。覗き込まれたから。だから、それで視られたから。視られたから…そうでないと。そう思わないと。
「震えてるわ。ねぇ…怯えないで頂戴。私達はそんな恐ろしい存在じゃないわ。ね?」
踏み込んじゃいけない。神々は…神様は私の理解できるものではないのだから。そうやって線引きをしないと。引き込まれないようにしないと。そうしないと…私は私を保てない。寄せ集めて寄せ集めて造り出した私がまたバラバラになってしまう。
それは嫌だ。またはみ出したくない。私は普通だから。溢れてはいけない。皆が右だと言ったら迷わず、間違いなく右を示せるようにしないと。笑えと言われたら笑えるようにしないと。そうしないと…そうしないと、生きていけない。私は普通だから。異常者でも障害があるわけでもないのだから。だから、だから───…
「恐れるな、恐れるな。そうもされてしまえば儂らも哀しくなる」
思考が止まる。
「何…で……、なんで。ねぇ…なんで。おしえてよ、かみさま」
目の前の神様の…魚すらも棲めない程に冷たくて石灰水を多く含んで栄養がないまでに透明さを含みすぎた湖を凍らしてしまったような、そんな何処までも澄んだ毒の水を凍らして削って嵌め込んだ瞳から───宝石のような涙が溢れていた。藍に膜を張ったように潤んだ瞳を揺らして、触れば個体となって手に触れられるようなキラキラと反射する液体。
私の髪を梳いて、ゆるりと弧を描く笑みとは真逆に流れる涙。その涙は頬を伝い、私の頬に落ちる。神様の短い髪が肩からするりと滑り落ちて、私に覆い被さる。まるで髪に閉じ込められたようだった。周りのものを何も映さず、神様を見るだけのような。そう、私には今神様しか見えなかった。藍の瞳から涙を溢し、それでも笑う神様しか。
「許す、赦す。ただ一言言えば、儂らは赦そう。儂らの前でお前が───『死にたい』のだとそう言った世迷い言を赦そう。その一言で赦そう。二度も言ったその戯れ言を今一度忘れ、そして───愛そう」
あまりに慈悲深く笑うから。あまりに優しいから。だから、私は──私は───…
「たす…けて。こわいの。やだ。ひとり…きらい。みないで。やだよ。かみさま、たすけて。こわい。くらい。……もう…おちた、くないよ……たすけて。かみさま…かみさま、たすけて…」
神様は私を抱えて、赦してくれた。藍の瞳をすっ、と細めて、「嗚呼、分かっているとも」と、囁いた。
そうして私は瞼を閉じた。もう怖くなんてなかった。
††
「嗚呼…、殺して欲しければ殺してやろう。人間であったお前を殺してやろう」
抱えあげたひとりの“おとし仔”に接吻をひとつ、そっと落とす。優しくとも噛みつくように、喉に落とされる。
白く磨き上げられた神の肌。その頬には涙など流れていなかった。瞳から溢れたそれをうざったらしげに拭えば初めからそうでなかったかのように穏やかに見える貌があるのみ。掬い上げられた涙が白魚のような指先から離れ、周りの木々を反射させながら地面へと吸い込んだ。元より神に泣くなどという機能は必要ない。それだけの話だ。
「前の身体だから“歪”を生む。だから、ちゃんと殺してあげないとね。殺して───生まれ還らせましょう」
抱えあげた神に抱かれすよすよと眠る“おとし仔”に鼻歌でも歌うかのような口調で半音トーンを上げて接吻をひとつ、掬い上げた髪に落とす。
「「───我らの仔として」」
神々は歩く。
一歩歩けば、森が開け、空が晴れ渡る。草花が芽吹き、心地よい風が吹く。“おとし仔”を抱え、愛を囁く神々は愛と天地を司りし神。原初の神に生み落とされし天と地を生み出し、神々に、人間に、或いは人ならざる者に愛を囁く二柱の神。
「それにしても…ふむ、少しばかり壊れてしまったか」
「あら、セローサ───貴方の所為よ。可愛いからって苛めちゃって…可哀想よ。だから、この子、またおちちゃったじゃない」
「フフ、引き上げたから良いだろう」
「そういうものじゃないわ。人の仔はすぐに死んでしまうのよ。折角、見付けたのだから大事にしなくちゃ」
寧ろ引き上げたからこそうまく懐くのだ、と嘯く対のように髪の短い神───セローサにため息を軽くつく。手間が省ければそれに越したことはないのだと、そう相手の感情など神々の思う通りになる、と置き去りにしたまま定義するのが神というものだ。
「それにしても…見たか、お前、テヌース」
証拠にセヌース、と舌に馴染んだように名を転がすセローサはゆるりと笑ったまま話の矛先を変える。名を呼ばれ、問いかけられたセヌースはそれについと柳眉を上げど、長い付き合いであるセローサの事など知っているので「何を?」と、問い返した。
「儂らに充てられながらして───耐えてみせる」
こんな上機嫌なセローサを久々に見たセヌースはぱちり、と白い睫毛を瞬かせて藍の瞳を覗かせる。何せ、自分の記憶を遡れば、最後にセローサがこれ程上機嫌に笑ったのは増えすぎた人間を虐殺と呼ぶべき選別をした時だったので。
「耐えて、耐えて、そうして…そのくせ儂らを必要とせし、まさに迷い子。道を指し示して欲しいと希い、縋るか。いや、違う。其処らの詰まらぬ人間が儂らに汚ならしくすがり付くのとは違う。あれは渇望だ。いっそ信仰、狂信にも近い儂らへの渇望」
それは一見してめちゃくちゃで矛盾したもの。
だけれど、一本の糸のよう。切られ、絡み合い、結ばれ、一目見て何一つ正当性を持たぬもの。しかしながら、よくよく見てみればピンと繋がった一本の糸。
「嗚呼、嗚呼、その歪さが何と愛おしい」
その神の瞳に宿るものは愛。迷うごとなく、人が愛と名付けるもの。
「……そうね」
セヌースはそう一言だけ返した。
セローサはそんな鏡写しのような神に目もくれず、それにしても、だ、と言葉を紡ぐ。
「良い拾い物をしたな」
「ええ、ええ。とても良い拾い物ね」
それだけは二柱の思うことであった。
そう話す神々の前には神殿がひとつ。二柱を模した像が両端に置かれ、人々の信仰を持って造られた石造りの神殿。人の立ち入りを拒むようなその場所を神々は歩く。その手に愛おしげにひとりの“おとし仔”を抱えて。
†††
会話が通じているようで通じていない。そこが神様クオリティ。ただの人の身で理解してしまったならば、SAN値チェック。ほぼ失敗します。何なら、主人公とかバリバリ失敗していますし。わりともってはいましたが。
そんなわけで小噺です。
今回の小噺は出てきた二柱の100年くらい前の趣味です。二柱の100年くらい前の趣味は、ズバリ縫いぐるみ集め。
神殿に捧げられていたものの中に迷い込んで来た小熊のデフォルメ縫いぐるみを可愛い、といたく気に入ったらしいです。なので、一時期二柱の住まう神殿には縫いぐるみが溢れかえっていました。様々なデフォルメされた縫いぐるみに埋もれる二柱…ではあったのですが、100年くらい前の話なのでその趣味は今はないです。いや、神殿のちょっとした所に置かれていたり名残はありますが、所詮その程度です。
そも、神々の趣味というのは気紛れの延長のようなものなので、直ぐ様廃れて忘れていくのです。実の子供にすらわりとそんな感じ。と、言うか神ってわりと自分の子供に無関心を貫いてます。偶には居ますが、わりと人間に近すぎて破滅したり碌な結果迎えなかったり…そうなります。
因みにお気に入りの縫いぐるみの名前はアポルオン一号。白色のふわふわの大きい熊の縫いぐるみでした。命名は髪の長い方の神───セローサ。縫いぐるみ集めに精を出していたのもこっちの神。セヌースはわりとそれに乗っかるタイプ。
そして、皆さんこの二人の名前似ていてややこしいとか思いましたか? 大丈夫です。自分が一番思っています。書いてる時に何度ごっちゃになったことか。なのに、何故変えないかって?
理由は単純明快。同じ趣味で物書きをする知り合いと一緒に考えた名前なのでわりと気に入っているからです。他に特に意味はないです。あと、この二人よく似ているので対になるようにしたかったのです。
小噺なのに全然小噺じゃないな、これ…。二次創作でもわりとキャプション長々と書く派なので、気にしないでください。多分、次の話でも長々と書きます。内容も長ければ後書きも長い。話すのが好きなくせして人と関わるのが嫌いだからその反動からかな。まァ、そんな感じなのでその辺りご理解いただきながら、どうぞ末長くよろしくお願いします。
私の知る“神様”はそんな事をしない。たった一人の取るに足らない“私”という人間にそんな…人間の情のようなものを抱かない。
「儂らは万能ではあるが、それはあくまでこの世界での範疇故。他の場であれば、力は失わずとも存分な力を発揮せぬ」
けれど、神様はそんな私の事を知らぬとでも言うように、それが私の本当の願いだ、とでも言うように、囁く。甘美な毒のような耳に注ぎ込まれたその声は何も考えられずになるがままにされるようなもので。「それはお前にも言えることだ」と、更に言葉を重ねあげる。私の耳から身体に伝わる毒を注ぐ。
「“おとし仔”よ。おとされたであろうとも、お前の制約は前にある。何処に属せずとも、不思議な事にそれは存在する。故に儂らは手を出せぬ。手を下すことは可能であってもな」
私は神々の言う“おとし仔”で、だから殺されて然るべきなのに、こんな神様を目の前にして辛くないわけがない。辛い。辛い。逃げたしたくて…でも、生きないといけなくて……だけど、死にたくて。
「故に言え」
神様に殺されたならば、それは仕方のないことだと、そう割りきれるのに。神々は気紛れだから、だから、殺されても嗚呼、仕方がないな、と言えるのに。そんな逃げ道があるのに。
「何、で…」
何で、そんな些細な願い事も叶わないのだろうか。
「気に入ったからだ。他に意味などあるか?」
まるで物珍しい玩具を手に入れたがるような、あまりに無邪気な貌でそう言う。
「誰にも必要とされず、世界にも必要とされない、“おとし仔”のお前を、受け入れるのは儂らだけだ」
けれど、それは私のよく知っていた神々で。
けれど、それは私が望んでいた神々で。
けれど、それは嫌になってしまうくらい分かってしまうような神々で。
「貴方を愛するから。だから、私達は護りたいと、そう思うのよ」
どこまでも───自分勝手で、残酷でそれでいて無邪気だった。
「さぁ…だから、言って頂戴。その小さい口で紡いで頂戴」
唇に彫られたばかりのような綺麗で精巧な指を添えられ、口を無理矢理開かされる。それは強引な力業のようで、けれど、優しく、あくまで撫でるように。
そうして、溢れてしまわぬように、決して開いてしまわぬように、石より尚重くできた扉のように硬く口を閉ざしていたのに…ゆるり、とまるでそうであるように口が開かれる。
「さぁ…言ってみよ。許す、赦す。嗚呼、儂は赦すとも。それがお前が望む慈悲深き神々なのだからな」
「……え、」
そんな言葉私は洩らしてない。心の内で思っていただけで。いや、違う。私は確かにそう思っていたの? 本気でそうであってほしいと望んでいたの? ただの何でもない人間の私が神々をそう定義してしまったの?
態度…態度が出てしまったのだろうか。…分からない。分からない。分からない事ばかりで吐きそうだ。何かがきっと神様の目に止まってしまって…嗚呼、そうだ。眼だ。覗き込まれたから。だから、それで視られたから。視られたから…そうでないと。そう思わないと。
「震えてるわ。ねぇ…怯えないで頂戴。私達はそんな恐ろしい存在じゃないわ。ね?」
踏み込んじゃいけない。神々は…神様は私の理解できるものではないのだから。そうやって線引きをしないと。引き込まれないようにしないと。そうしないと…私は私を保てない。寄せ集めて寄せ集めて造り出した私がまたバラバラになってしまう。
それは嫌だ。またはみ出したくない。私は普通だから。溢れてはいけない。皆が右だと言ったら迷わず、間違いなく右を示せるようにしないと。笑えと言われたら笑えるようにしないと。そうしないと…そうしないと、生きていけない。私は普通だから。異常者でも障害があるわけでもないのだから。だから、だから───…
「恐れるな、恐れるな。そうもされてしまえば儂らも哀しくなる」
思考が止まる。
「何…で……、なんで。ねぇ…なんで。おしえてよ、かみさま」
目の前の神様の…魚すらも棲めない程に冷たくて石灰水を多く含んで栄養がないまでに透明さを含みすぎた湖を凍らしてしまったような、そんな何処までも澄んだ毒の水を凍らして削って嵌め込んだ瞳から───宝石のような涙が溢れていた。藍に膜を張ったように潤んだ瞳を揺らして、触れば個体となって手に触れられるようなキラキラと反射する液体。
私の髪を梳いて、ゆるりと弧を描く笑みとは真逆に流れる涙。その涙は頬を伝い、私の頬に落ちる。神様の短い髪が肩からするりと滑り落ちて、私に覆い被さる。まるで髪に閉じ込められたようだった。周りのものを何も映さず、神様を見るだけのような。そう、私には今神様しか見えなかった。藍の瞳から涙を溢し、それでも笑う神様しか。
「許す、赦す。ただ一言言えば、儂らは赦そう。儂らの前でお前が───『死にたい』のだとそう言った世迷い言を赦そう。その一言で赦そう。二度も言ったその戯れ言を今一度忘れ、そして───愛そう」
あまりに慈悲深く笑うから。あまりに優しいから。だから、私は──私は───…
「たす…けて。こわいの。やだ。ひとり…きらい。みないで。やだよ。かみさま、たすけて。こわい。くらい。……もう…おちた、くないよ……たすけて。かみさま…かみさま、たすけて…」
神様は私を抱えて、赦してくれた。藍の瞳をすっ、と細めて、「嗚呼、分かっているとも」と、囁いた。
そうして私は瞼を閉じた。もう怖くなんてなかった。
††
「嗚呼…、殺して欲しければ殺してやろう。人間であったお前を殺してやろう」
抱えあげたひとりの“おとし仔”に接吻をひとつ、そっと落とす。優しくとも噛みつくように、喉に落とされる。
白く磨き上げられた神の肌。その頬には涙など流れていなかった。瞳から溢れたそれをうざったらしげに拭えば初めからそうでなかったかのように穏やかに見える貌があるのみ。掬い上げられた涙が白魚のような指先から離れ、周りの木々を反射させながら地面へと吸い込んだ。元より神に泣くなどという機能は必要ない。それだけの話だ。
「前の身体だから“歪”を生む。だから、ちゃんと殺してあげないとね。殺して───生まれ還らせましょう」
抱えあげた神に抱かれすよすよと眠る“おとし仔”に鼻歌でも歌うかのような口調で半音トーンを上げて接吻をひとつ、掬い上げた髪に落とす。
「「───我らの仔として」」
神々は歩く。
一歩歩けば、森が開け、空が晴れ渡る。草花が芽吹き、心地よい風が吹く。“おとし仔”を抱え、愛を囁く神々は愛と天地を司りし神。原初の神に生み落とされし天と地を生み出し、神々に、人間に、或いは人ならざる者に愛を囁く二柱の神。
「それにしても…ふむ、少しばかり壊れてしまったか」
「あら、セローサ───貴方の所為よ。可愛いからって苛めちゃって…可哀想よ。だから、この子、またおちちゃったじゃない」
「フフ、引き上げたから良いだろう」
「そういうものじゃないわ。人の仔はすぐに死んでしまうのよ。折角、見付けたのだから大事にしなくちゃ」
寧ろ引き上げたからこそうまく懐くのだ、と嘯く対のように髪の短い神───セローサにため息を軽くつく。手間が省ければそれに越したことはないのだと、そう相手の感情など神々の思う通りになる、と置き去りにしたまま定義するのが神というものだ。
「それにしても…見たか、お前、テヌース」
証拠にセヌース、と舌に馴染んだように名を転がすセローサはゆるりと笑ったまま話の矛先を変える。名を呼ばれ、問いかけられたセヌースはそれについと柳眉を上げど、長い付き合いであるセローサの事など知っているので「何を?」と、問い返した。
「儂らに充てられながらして───耐えてみせる」
こんな上機嫌なセローサを久々に見たセヌースはぱちり、と白い睫毛を瞬かせて藍の瞳を覗かせる。何せ、自分の記憶を遡れば、最後にセローサがこれ程上機嫌に笑ったのは増えすぎた人間を虐殺と呼ぶべき選別をした時だったので。
「耐えて、耐えて、そうして…そのくせ儂らを必要とせし、まさに迷い子。道を指し示して欲しいと希い、縋るか。いや、違う。其処らの詰まらぬ人間が儂らに汚ならしくすがり付くのとは違う。あれは渇望だ。いっそ信仰、狂信にも近い儂らへの渇望」
それは一見してめちゃくちゃで矛盾したもの。
だけれど、一本の糸のよう。切られ、絡み合い、結ばれ、一目見て何一つ正当性を持たぬもの。しかしながら、よくよく見てみればピンと繋がった一本の糸。
「嗚呼、嗚呼、その歪さが何と愛おしい」
その神の瞳に宿るものは愛。迷うごとなく、人が愛と名付けるもの。
「……そうね」
セヌースはそう一言だけ返した。
セローサはそんな鏡写しのような神に目もくれず、それにしても、だ、と言葉を紡ぐ。
「良い拾い物をしたな」
「ええ、ええ。とても良い拾い物ね」
それだけは二柱の思うことであった。
そう話す神々の前には神殿がひとつ。二柱を模した像が両端に置かれ、人々の信仰を持って造られた石造りの神殿。人の立ち入りを拒むようなその場所を神々は歩く。その手に愛おしげにひとりの“おとし仔”を抱えて。
†††
会話が通じているようで通じていない。そこが神様クオリティ。ただの人の身で理解してしまったならば、SAN値チェック。ほぼ失敗します。何なら、主人公とかバリバリ失敗していますし。わりともってはいましたが。
そんなわけで小噺です。
今回の小噺は出てきた二柱の100年くらい前の趣味です。二柱の100年くらい前の趣味は、ズバリ縫いぐるみ集め。
神殿に捧げられていたものの中に迷い込んで来た小熊のデフォルメ縫いぐるみを可愛い、といたく気に入ったらしいです。なので、一時期二柱の住まう神殿には縫いぐるみが溢れかえっていました。様々なデフォルメされた縫いぐるみに埋もれる二柱…ではあったのですが、100年くらい前の話なのでその趣味は今はないです。いや、神殿のちょっとした所に置かれていたり名残はありますが、所詮その程度です。
そも、神々の趣味というのは気紛れの延長のようなものなので、直ぐ様廃れて忘れていくのです。実の子供にすらわりとそんな感じ。と、言うか神ってわりと自分の子供に無関心を貫いてます。偶には居ますが、わりと人間に近すぎて破滅したり碌な結果迎えなかったり…そうなります。
因みにお気に入りの縫いぐるみの名前はアポルオン一号。白色のふわふわの大きい熊の縫いぐるみでした。命名は髪の長い方の神───セローサ。縫いぐるみ集めに精を出していたのもこっちの神。セヌースはわりとそれに乗っかるタイプ。
そして、皆さんこの二人の名前似ていてややこしいとか思いましたか? 大丈夫です。自分が一番思っています。書いてる時に何度ごっちゃになったことか。なのに、何故変えないかって?
理由は単純明快。同じ趣味で物書きをする知り合いと一緒に考えた名前なのでわりと気に入っているからです。他に特に意味はないです。あと、この二人よく似ているので対になるようにしたかったのです。
小噺なのに全然小噺じゃないな、これ…。二次創作でもわりとキャプション長々と書く派なので、気にしないでください。多分、次の話でも長々と書きます。内容も長ければ後書きも長い。話すのが好きなくせして人と関わるのが嫌いだからその反動からかな。まァ、そんな感じなのでその辺りご理解いただきながら、どうぞ末長くよろしくお願いします。
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