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第4章 公然の秘密と謎の男
37話・無自覚ウザ絡み男
しおりを挟むアパートの前に止めた車内で、阿志雄は穂堂を自分の部屋へと誘った。
落ち着いた場所で、ふたりだけで話す時間が欲しかったからだ。今日は結局片桐関連の話しかしていない。会社や事件の話ではなく、もっと個人的な話がしたいと考えての誘いだ。
しかし。
「いえ、帰ります」
「……そうですか」
穂堂は迷うことなく断った。
その返答に、阿志雄は見るからに落胆した。見えない犬耳と尻尾が力無く垂れる幻が見えるほどだ。そこまで凹むとは思っていなかった穂堂は、少し考えてから再度口を開く。
「まだ月曜ですから遅くなるわけにはいきません。週末でしたら大丈夫です」
まだ今週は始まったばかり。遅くまで話し込んでは翌日の仕事に影響がでてしまう。そうでなくても事件の話で気疲れしている。お互い早めに休んだほうがいい、と穂堂は言っているのだ。
「今日行きそびれた海鮮丼の店、金曜に行きましょうか」
「は、はいッ!」
穂堂から次の約束を提示され、阿志雄は先ほどまでの沈みっぷりが嘘のように満面の笑みを浮かべた。
上機嫌で車から降り「また明日!」と手を振る姿を見て、穂堂は自分の言葉で一喜一憂する阿志雄が可愛らしく思えてきた。
「……というワケだから、もし穂堂さんに誘われてもおまえは来るなよ?」
「はあ」
翌日、阿志雄は金曜の夜に邪魔しないよう鍬沢に念を押していた。仕事中にひと気のない会議室に呼び出された上に意味の分からない頼み事をされ、鍬沢は呆れていた。
穂堂は鍬沢とも仲が良い。「せっかくだから一緒に」と声を掛ける可能性は十分にある。
「わかりました。金曜に誘われたら断ります」
「悪いな」
笑って礼を言う阿志雄に、鍬沢はある疑問を抱いた。最初から感じていた違和感が見逃せないほど大きくなっている。それが今回の件でハッキリした。
「阿志雄さんて穂堂さんに執着し過ぎですよね」
「へ?」
「回りくどいの嫌いなんで言っちゃいますけど、アンタは穂堂さんとどうなりたいんですか」
「ど、どうって」
戸惑う阿志雄に対し、鍬沢は普段と変わらぬ能面の様な表情のまま淡々と話を続ける。
「阿志雄さんの穂堂さんに対する態度、他部署の先輩社員に対する感情の域をとっくに超えてますよ」
そこまで言われ、阿志雄は完全にフリーズした。自分でも気付いていなかったことを指摘され、脳の処理が追いつかなくなったのだ。
どうなりたいかと問われ、すぐに『一緒に居たい』と答えは出た。だからこそ言葉に詰まる。
誰よりも仲良くなりたい。
個人的なことを知りたい。
誰にも邪魔されたくない。
ふたりだけで過ごしたい。
鍬沢の言うように、これはもう同性の先輩社員に抱く感情とは呼べない。
この執着は、まるで──
「…………オレ、そんなに?」
「周りへの牽制すごいですよ」
「ええ……嘘だろ」
「気付いてなかったんですか」
「うん」
茫然とした様子で呟く阿志雄に、鍬沢は盛大な溜め息を吐き出した。あそこまで露骨に穂堂への好意をアピールし、周りに牙を向けておきながら、完全に無自覚だったと判明したからだ。
「阿志雄さんが誰を好きでも構いませんけど、勝手に嫉妬されて文句言われるのは迷惑なので。自分の気持ちくらい把握しといてください」
これまで散々嫉妬とウザ絡みの被害に遭ってきた鍬沢は、今後の自分の安寧のためだけに阿志雄に自覚を促した。
【情報システム部 鍬沢 明】
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