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11話・想いの自覚
しおりを挟むミノリちゃんが来なくなって三日。自宅にこもり、ダラダラと時間が過ぎるのを待つ。昼間は日射しが強過ぎて動けない。日が完全に落ちた後、閉店間際のスーパーに行って食材の買い出しをする。野菜は先日ミノリちゃんがくれたので買わずに済んだ。前回は後先考えず一気に食べてしまったが、今回は彼女がいない間を埋めるように少しずつ食べている。
いつのまにか彼女と過ごす時間が生活のほとんどを占めていた。いつ来てもいいように部屋を掃除したり、貰った野菜の調理法を調べたり。おかげで随分と人間らしい生活に戻った気がする。
一日が過ぎるのが遅く感じる。彼女と出会う前、俺は何をして時間を潰していたんだろう。今はただ一人の時間が静かで長くて重苦しい。忘れたいことまで思い出してしまう。
気分を変えようと、本棚の漫画に手を伸ばす。『マジカルロマンサー』はミノリちゃんが俺んちに入り浸る理由の一つだ。いま彼女が読んでいる巻を手に取り、パラパラとページをめくると、物語は既に終盤に差し掛かっていた。
「読み終わったらもう来ないのかな」
いや、ストーカー問題がある。ストーカー野郎がいる限り、彼女は俺んちに避難し続けるだろう。いっそストーカー問題が片付かなければ……と思ったところで慌てて思考を中断した。相変わらず俺は自分のことしか考えてない。
バイトは順調なようで、毎日夕方にメールが届く。イベント会場で見聞きしたことをぎゅっと詰め込んだような文面に、思わず口元がゆるむ。なんて返事をしようか迷っているうちに時間だけが過ぎていく。『早く来て』なんて書けない。彼女が『来て欲しい』と言った時に即答出来なかった自分にはそんなことを言う資格はない。
散々考えて『暑いから気をつけて』と返す。すると『プーさんこそ気をつけてね』と逆に気遣うような返事が来た。
彼女にとって、俺はひ弱な無職ニート。
一時だけの避難場所。
それ以上でも以下でもない。
「……会いたいなぁ」
やっぱり俺はミノリちゃんが好きみたいだ。
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