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29話・腹黒彼女2

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 玄関のドアを開けたらミノリちゃんが立っていた。申し訳なさそうに俯いている。

「ミノリちゃん、いらっしゃい」

 声を掛けるとパッと顔を上げ、俺をじっと見つめてくる。表情は暗い。

「昨日はすみませんでした。私のために無理をさせちゃって」
「いや、俺が勝手にやっただけだから」
「でも怪我が……ショウゴさんからメールで教えてもらったけど、結構酷いんじゃ」
「もう平気だから。気にしないで」

 ショウゴが連絡したのか。それともミノリちゃんからメールして尋ねたのか。どんなやりとりをしたんだろう。気になるけど聞けない。
 ミノリちゃんはかなり責任を感じているみたいだ。当事者ではあるけれど、今回の件は彼女のせいじゃない。むしろ被害者なのに何故こうも抱え込んでしまうんだろう。

「もうアイツに付きまとわれる心配はなくなったんだよね?」
「は、はい。たぶん」
「良かった」

 ストーカー野郎の話を振ると、ミノリちゃんはようやく笑顔を見せた。
 そう、それならいい。
 身体を張った甲斐があった。

「ねぇ、プーさんまだぁ?」

 俺たちの会話が途切れた時を狙い、リエが顔を覗かせて声を掛けてきた。玄関先に立つミノリちゃんに気付き、パタパタと駆け寄ってくる。

「あれぇ、ミノリじゃん! プーさんのお見舞いにのぉ?」
「う、うん。心配で……」
「ありがと~! でも彼、まだ体調悪いんだって。長話はやめたほうがいいかもね~」

 わざとらしく俺の体にしなだれかかり、腕を絡めてくるリエ。めちゃくちゃカノジョヅラしてくるじゃねえか。正直言って、オマエの相手よりミノリちゃんと話をしている方が何十倍も癒されるんだが。

「そうだよね。あの、これ、お見舞い」
「あ、ありがと」

 しかし、ミノリちゃんはリエの言葉を真に受けてしまった。手に持っていた紙袋を差し出してきたが、俺が受け取る前にリエがサッと横から掻っ攫っていく。

「じゃあ帰ります。お大事に」
「う、うん、気をつけてね」
「ミノリ、ばいば~い!」

 バタン、と無情に閉まる玄関のドア。
 かつてこんな暗澹たる気持ちでミノリちゃんを見送ったことがあっただろうか。もう少し話がしたかったけど、リエコイツが居たら無理か。

 完全にリエと付き合ってるって思われたよな。すげえヘコむ。泣きそう。

「あっ、お高いゼリーだぁ♡ 冷やして食べよっと」
「待て待て待て。なんでオマエが食うんだよ」
「いーじゃん、カノジョなんだから~」
「カノジョからお見舞い貰ってないんだが?」
「可愛いJKが来てあげただけで十分でしょ」
「うるせえ!」

 我が物顔で俺んちに居座るリエにムカついてばかりだ。付き合うって条件を飲んだのは俺なのに。

「なあ、いつまで恋人ごっこするつもりだよ」
「私が飽きるまで~?」

 やっぱり遊びじゃねーか!
 飽き性であってくれ。

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