【完結】魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

みやこ嬢

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第4章 更なる不調と対策

19話・波瀾の送別会 1

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坂木原さかきばら、明日は部長の送別会だからな」
「分かってますって」
「いつもの店に予約入れてるから、絶対遅れるなよ!」

 送別会の幹事を務める先輩社員から予定を再確認され、諒真りょうまは笑顔で返した。
 今月末で定年退職する部長には入社以来目を掛けてもらっている。厳しい課長に叱られて凹む諒真に優しく声を掛けて励ましてくれた、謂わば恩師のような存在。送別会の予定は異世界に召喚される前から決まっていた。恩師を笑顔で送り出すため、諒真はもちろん何をおいても参加するつもりだ。

 しかし。

「ちょうど『三日目』なんだよなぁ~……」

 一昨日創吾そうごのところに行って魔力を発散した。次に行くのはタイミング的に明日の夜なのだが、部長の送別会を欠席するわけにはいかない。

「送別会終わってから行く……となると遅くなっちまうな。かと言って、今日いきなり予定を空けてもらうわけにはいかないし、明後日には魔力が溢れちまうし」

 SNSのメッセージに『明日は予定があるから遅くなる』と送ると、しばらくしてから『了解しました』とだけ返信がきた。

「……怒ってる、かな」

 ただでさえも都合を合わせて貰っているのに、更に時間をズラしてもらうなんて迷惑以外の何ものでもない。いつも優しく、嫌な顔ひとつしないが、気を遣って言いたいことを我慢しているだけかもしれない。そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになった。







 金曜の夜七時、送別会が始まった。

 いつもなら創吾のマンションに転移して魔力の発散を始める頃。諒真は居酒屋の二階にある宴会場で本日の主役である部長の隣に座り、笑顔でビールを注いでいた。

「いやあ、こうしてみんなと顔を合わせるのも最後だと思うとついつい飲み過ぎてしまうな」
「最後だなんて寂しいこと言わないでください。また飲みましょうよ」
「はは、嬉しいねえ。そう言ってくれるのは坂木原くんだけだよ」

 上機嫌でグラスを空にしていく部長に、他の社員が声を掛けた。

「部長!この前健康診断で引っ掛かったって言ってましたよね。そんなに飲んで大丈夫ですか」
「ああ、嫌なことを思い出させんでくれ!今日くらい構わんだろう。楽しい席だ。節制は明日から頑張るよ」

 健康診断で引っ掛かったと聞いて、諒真は記憶を手繰った。確か半年前くらいに部署内でそんな話題が出ていたのを思い出す。
 異世界に召喚されていた数ヶ月間はこちらの世界ではなかったことになっている。故に、諒真の体感時間は他の人よりも長い。召喚前の出来事をはるか昔のことのように感じている。
 その話を覚えていたら飲むのを止めたのに、と諒真は少し後悔した。

「部長、お酒はこれくらいに」
「そう言うな。キミのお酌で飲むと美味いんだ。もう少しだけ、な?」
「でも……、はい。少しだけなら」

 今日で最後だからと言われてしまえば止めるのも悪いような気がして、諒真はややペースを落としながらも部長のグラスにビールを注いだ。あっさりめの料理を勧め、あまり飲ませないよう注意を払う。

「坂木原くん、なんだか最近雰囲気が変わったよねえ」
「え?そ、そうですか?」
「うん。一ヶ月くらい前あたりから顔付きが違うというか。しっかりしたなと思う時もあれば、ぼんやりしてる時もあるし、何かあったのかなと思ってね」
「え、いや、特には……」

 一ヶ月前は異世界から帰ってきた頃だ。

 色々な経験をした。
 命のやり取りもした。

 普段通りに振る舞っていたつもりだが、部長はちゃんと見ていてくれた。諒真はそれを嬉しく思った。
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