【完結】魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

みやこ嬢

文字の大きさ
24 / 110
第4章 更なる不調と対策

23話・隠せない嫉妬

しおりを挟む


 強い魔法を使わなくては魔力の消費が出来ない。このまま通常空間に戻れば周囲に様々な悪影響を及ぼしてしまう。
 しかし、うまく魔法が発動しない。

「ど、どうしよう」
「落ち着いて。慌てなくても、この空間にいる限りは大丈夫ですから」
「でも……」

 送別会やその後のトラブルで今回はいつもより遅い時刻に集まっている。そこから更に長引けば日付を跨いでしまう。自分の不調で創吾そうごに迷惑をかけ、長々と付き合わせてしまうと諒真りょうまは申し訳なく思っていた。

 一方の創吾は、そういった諒真の思考を理解した上で今後の方針に悩んでいた。
 省エネ効率化で魔力の消費が難しい上に強力な魔法へのトラウマもある。更に今回の件で心理的に制限が掛かった。いつもより魔力の消費に時間が掛かることは容易に予想が出来る。いくら明日が週末だとしても、無駄に時間ばかりを掛けていては身体を休められない。特に諒真は心労で疲れている。魔力の消費やらねばならぬことを早く済ませ、休息時間を確保すべきだと医師の立場で判断する。

 創吾が思考を巡らせている間、諒真はそわそわしながらポケットからスマホを取り出し、画面を眺めていた。ここは現実世界から切り離された空間。当然携帯電話の電波は届かない。それでも先輩社員からの報告メールを何度も見返してしまう。

「部長、大丈夫かな……」

 ぽつりとこぼれた呟きが、がらんとした空間に響いた。

「まだ気になりますか」
「そりゃ心配だよ」

 創吾の口調が沈んでいることに、いつもなら気付いたかもしれない。
 何を当たり前のことを、と言わんばかりに諒真は即座に肯定した。スマホをポケットに仕舞い直し、顔を上げると、先ほどまで離れた場所にいたはずの創吾が目の前まで迫っていた。驚いて仰け反った瞬間、背後で小さな爆発音が連続して起きた。弱い威嚇魔法だ。動揺した諒真が無意識に発動させたのだ。

「あ、あれ?」
「……なるほど。君が意識して使わなくても魔法は発動するみたいですね」
「そうみたい、だな」

 異世界にいる間は驚きの連続だったが、こんな風に勝手に魔法が発動した経験はない。器から魔力が溢れ、精神が不安定な今だからこそ起きる現象。

「では、始めましょうか」
「え、でも、オレ今魔法が」
「問答無用です」

 創吾は再び距離を取り、周囲に無数の防御盾を生み出した。『いつものように』盾同士をぶつけて飛ばすと、狙われた諒真が慌てて逃げた。魔法はまだうまく使えない。何とか走って襲い来る盾から逃れ、反撃を試みる。

「あっ……」

 最も弱い火弾が数個空間に出現するが、勢いよく飛んでくる盾に弾かれてすぐに掻き消された。続けて更に数を増やすが、これもすぐに消されてしまう。

「諒真くん、もっと強い魔法を使わないと」
「だ、だって」
「僕なら大丈夫。防御盾がありますし、もし傷付いてもすぐに治せますから」
「……治りゃいいってもんじゃないだろ」

 問答を繰り返しながらぶつかり合っているうちに戦いの勘が戻ってきたのか、火弾より強い炎弾が生み出せるようになってきた。もう少しでいつもの感覚が思い出せる。互いにそう感じ始めた頃、諒真の放った炎弾が数発防御盾の壁を掻い潜って創吾に直撃した。

「っ創吾!!」

 血相を変えて駆け寄ると、倒れた創吾は痛みに顔を顰めながら自身に痛覚遮断をかけ、治癒魔法を使って傷を癒していた。
 すぐそばに膝をつき、青褪めた顔で覗き込んでくる諒真を見てフッと笑う。

「心配してくれてるんですか」
「あ、当たり前だろ!……ごめん、あんな風に弾が動くと思ってなくて。痛かったよな」
「すぐに痛覚遮断したから平気ですよ。ほら、もう治りました」

 創吾は身体を起こし、元通りになった身体と服を見せて笑う。だが、諒真は今にも泣きそうな表情で「そういう問題じゃない」と小さな声で呟く。

 その顔を見て、創吾は仄暗い悦びを感じた。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

処理中です...