25 / 110
第4章 更なる不調と対策
24話・怒りと羞恥
しおりを挟む防御盾には死角が存在しない。魔力で自動制御されており、外部からの攻撃で破壊されるまでありとあらゆる攻撃を防いでくれる。
発動者が意図的に動きを止めない限りは。
炎弾が防御盾を出し抜いたのではない。創吾が防御盾の角度を変え、炎弾を弾いて軌道をズラし、わざと自分に当たるように仕向けたのだ。
炎弾は小さな炎の塊だ。後で治せるとはいえ当たれば熱いし火傷もする。分かった上で攻撃を受けたのには理由があった。
「創吾、大丈夫なのか?」
「もう痛くも痒くもありませんよ」
「当たった時は痛いだろ」
「そりゃあ、まあ」
眉を下げ、今にも泣きそうな表情の諒真。彼の視界には自分しかいない状態。更に怪我を負ったことで心配され、心の中も占めている。それが何より嬉しいと創吾は感じていた。
「はぁ~、心臓止まるかと思った」
そう言いながら諒真が立ち上がると、ズボンの後ろポケットからスマホが落ちた。拾い上げるついでに画面を見る。
この空間は次元をズラして生み出した、ふたりだけの世界。電波など届くはずもないというのに新着メールがないかと無意識に確認する諒真を見て、聞こえない程度に小さく舌打ちする。
──また自分以外の人のことを考えてる
創吾は「痛っ」と腕を押さえて蹲った。すると、すぐに諒真はスマホから視線を創吾に戻して傍らに膝をつく。
「まだ痛むのか?」
「いいえ、もう完治してますよ」
「そうか。それなら良かっ……」
安堵で笑う諒真の腕を掴んで引き寄せ、足を払い、ふわりと地面に転がす。一瞬のうちにひっくり返された諒真はポカンとした表情で自分に覆い被さる男を見上げた。
「いきなり何すんだよ」
「僕ちょっと考えたんですよ。やっぱり何時間もかけて魔力を消費するのは効率悪いかなって」
「そっ……そうだよな、悪い」
迷惑を掛けている自覚があるからか、創吾の言葉に諒真は顔を曇らせた。
「あの程度の炎弾、何百発撃っても大して魔力を消費しないでしょ。溜まってる魔力を全部出さないと意味がないですよ」
「で、でも」
出来るものならとっくにやっている、と諒真は睨んで訴えた。トラウマが心理的な枷となり、強力な魔法が使えなくなっていると創吾も知っている。
でも気付いてしまった。
感情を大きく揺さぶれば魔法は勝手に発動する、と。
「……まだそんなことを言ってるんですか。だったら、嫌でも魔法を使わせてあげます」
くい、と顎を持ち上げられ、抗う間もなく諒真の唇が創吾によって塞がれる。驚きで硬直した身体を嘲笑うように、もう片方の手が服の隙間から入り込んでいく。
ひやりとした指先に脇腹をなぞられ、諒真は身を捩って抵抗した。上からのし掛かられた状態で身体を起こすことも出来ず、くすぐったさに耐えながら「やめろよ」と訴える。
しかし、創吾は手を止めない。
むしろ嫌がる諒真を見て嬉しそうに笑っている。ついに手が胸元を撫で、その動きに性的なものを感じた諒真はぞくりと肌を粟立たせた。
「……やめろって言ってるだろ!!」
次の瞬間、炎と雷が混じったような魔力の塊が轟音を鳴らしながら空間を埋め尽くした。広範囲を焼き尽くす強力な攻撃魔法が羞恥と怒りの感情によって勝手に発生したのだ。
異世界でも、魔獣の群れや魔族の幹部と対峙した時くらいしか使ったことのない危険極まりない魔法。まともに喰らえば命はない。
「に、逃げろ創吾!!」
それが数十発、一気に弾けた。
18
あなたにおすすめの小説
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
