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第4章 更なる不調と対策
24話・怒りと羞恥
しおりを挟む防御盾には死角が存在しない。魔力で自動制御されており、外部からの攻撃で破壊されるまでありとあらゆる攻撃を防いでくれる。
発動者が意図的に動きを止めない限りは。
炎弾が防御盾を出し抜いたのではない。創吾が防御盾の角度を変え、炎弾を弾いて軌道をズラし、わざと自分に当たるように仕向けたのだ。
炎弾は小さな炎の塊だ。後で治せるとはいえ当たれば熱いし火傷もする。分かった上で攻撃を受けたのには理由があった。
「創吾、大丈夫なのか?」
「もう痛くも痒くもありませんよ」
「当たった時は痛いだろ」
「そりゃあ、まあ」
眉を下げ、今にも泣きそうな表情の諒真。彼の視界には自分しかいない状態。更に怪我を負ったことで心配され、心の中も占めている。それが何より嬉しいと創吾は感じていた。
「はぁ~、心臓止まるかと思った」
そう言いながら諒真が立ち上がると、ズボンの後ろポケットからスマホが落ちた。拾い上げるついでに画面を見る。
この空間は次元をズラして生み出した、ふたりだけの世界。電波など届くはずもないというのに新着メールがないかと無意識に確認する諒真を見て、聞こえない程度に小さく舌打ちする。
──また自分以外の人のことを考えてる
創吾は「痛っ」と腕を押さえて蹲った。すると、すぐに諒真はスマホから視線を創吾に戻して傍らに膝をつく。
「まだ痛むのか?」
「いいえ、もう完治してますよ」
「そうか。それなら良かっ……」
安堵で笑う諒真の腕を掴んで引き寄せ、足を払い、ふわりと地面に転がす。一瞬のうちにひっくり返された諒真はポカンとした表情で自分に覆い被さる男を見上げた。
「いきなり何すんだよ」
「僕ちょっと考えたんですよ。やっぱり何時間もかけて魔力を消費するのは効率悪いかなって」
「そっ……そうだよな、悪い」
迷惑を掛けている自覚があるからか、創吾の言葉に諒真は顔を曇らせた。
「あの程度の炎弾、何百発撃っても大して魔力を消費しないでしょ。溜まってる魔力を全部出さないと意味がないですよ」
「で、でも」
出来るものならとっくにやっている、と諒真は睨んで訴えた。トラウマが心理的な枷となり、強力な魔法が使えなくなっていると創吾も知っている。
でも気付いてしまった。
感情を大きく揺さぶれば魔法は勝手に発動する、と。
「……まだそんなことを言ってるんですか。だったら、嫌でも魔法を使わせてあげます」
くい、と顎を持ち上げられ、抗う間もなく諒真の唇が創吾によって塞がれる。驚きで硬直した身体を嘲笑うように、もう片方の手が服の隙間から入り込んでいく。
ひやりとした指先に脇腹をなぞられ、諒真は身を捩って抵抗した。上からのし掛かられた状態で身体を起こすことも出来ず、くすぐったさに耐えながら「やめろよ」と訴える。
しかし、創吾は手を止めない。
むしろ嫌がる諒真を見て嬉しそうに笑っている。ついに手が胸元を撫で、その動きに性的なものを感じた諒真はぞくりと肌を粟立たせた。
「……やめろって言ってるだろ!!」
次の瞬間、炎と雷が混じったような魔力の塊が轟音を鳴らしながら空間を埋め尽くした。広範囲を焼き尽くす強力な攻撃魔法が羞恥と怒りの感情によって勝手に発生したのだ。
異世界でも、魔獣の群れや魔族の幹部と対峙した時くらいしか使ったことのない危険極まりない魔法。まともに喰らえば命はない。
「に、逃げろ創吾!!」
それが数十発、一気に弾けた。
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