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第6章 2度目の異世界召喚
37話・離れていく心
しおりを挟む祝宴の翌日、創吾を除く三人は装備を整えて聖都ハイドラの郊外を訪れていた。
「あちらに大型で獰猛な猪がおります。魔物に住処の山を追われ、こうして人里まで降りてきたのでしょう」
状況を説明するのは聖騎士団の遠征部隊隊長、ハルク・ダンケル。一番体格が良く強面だが、面倒見の良い優しい青年である。魔王討伐の旅の最中、勇者一行と行動を共にして助けてくれた頼れる人物だ。
彼の指差す方角には体長三メートル超の大猪が数頭闊歩している。植物や小さな生き物を主食とし、本来であれば山奥にある縄張りから出てこないはずだが、魔物に追われて平地まで追いやられてしまったのだという。
「あの群れは近隣の畑や村を襲っているそうです。既に怪我人が出ておりまして」
「なるほど」
元の世界にも猪による獣害はあるが、こちらの世界の猪はとにかく身体が大きい。ひとたび侵入を許せば畑は荒らされ、家屋も壊されてしまう。
「でも、元は魔物のせいなんだよな。できれば住処に返してやりたいところだけど」
「難しいでしょうな。何しろあの巨体ですから。気の毒ですが、見つけたらその都度倒していくほかありません」
諒真の言葉に同意しつつも、ハルクは難しい顔で首を横に振った。
「そんなの気にすることないよ。倒しちゃえばいーんだからさ」
「ちょっと、由宇斗!」
つまらなそうに説明を聞いていた由宇斗だったが、痺れをきらして腰に穿いていた大剣をすらりと抜いた。大猪まで数百メートルの距離を一気に駆けていく。慌てて将子が追いかけるが、彼女が追いつく前に由宇斗は大猪の群れを一刀両断していた。
「次はどこ?俺ぜんぶ倒すよ」
真っ赤に染まった剣を持ち、血の海の真ん中に立つ笑顔の由宇斗を見て、聖騎士団の面々は息を飲んだ。
「いやはや、流石は勇者殿と言うべきか」
近場の大猪を狩り尽くし、聖都に戻ってから、隊長のハルクは畏れと感嘆が入り混じった様子で呟いた。他の団員たちも表向きは称賛しつつも、あまりにも容赦のない由宇斗の戦い方に怯えているようだった。
「あれはやり過ぎだよな」
「いえ、大猪討伐は我々がお願いしたことですから。実際団員にも負傷者が出て難儀しておりましたので助かりました」
「それならいいけど」
大猪は図体が大きいばかりではなく動きも素早い。硬い毛皮に覆われ、剣先も通りにくい。魔物ではないが、倒すには手強い相手だ。
「リョウマ殿こそ魔法で亡骸を焼いて葬っていただきありがとうございます」
「オレも魔力使いたかったからいいよ。ハルクもお疲れ」
「勿体ないお言葉です」
「なんだよ、他人行儀だな。前みたいに気軽に話してくれよ」
「いえ、そういうわけには参りません。貴方がたはいずれ貴き立場になられる御方なのですから」
「えっ……」
驚きで言葉を失っている間に、ハルクは恭しく頭を下げて辞していった。
茫然とする諒真に気付いた創吾が心配そうに顔を覗き込み、声を掛ける。彼は大猪討伐の際、近隣の村を周って怪我人の治療を手伝っていたため、昼間の由宇斗の様子を知らない。
「どうかしましたか諒真くん」
いつもと変わらぬ優しい声に思わず泣きそうになるが、ぐっと堪え、笑顔を作る。
「ううん、なんか久しぶりだからうまく話せなくてさ」
「そうですか」
微かに震える声に気付かぬふりをして、創吾はさりげなく別の話題に切り替えた。
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