37 / 110
第6章 2度目の異世界召喚
36話・勇者の変化
しおりを挟む主賓である勇者一行はひと通りの挨拶を終えた後、大司教ルノーが待つ席へと案内された。教皇の姿はない。再召喚で魔力を使い果たして休んでいる、とのことだ。
「宴は楽しんでいただけておりますでしょうか」
「めっちゃ楽しー!ゴハンも美味しいし」
「それは良かった。お飲み物はいかがです?色々と取り揃えておりますよ」
そばに控えている給仕たちはそれぞれワインや蒸留酒、果実水のボトルを携えている。料理も目の前のテーブルに所狭しと並べられており、かなりの歓迎ムードが漂っている。
「ところで、元の世界では不都合はありませんでしたか?魔王の呪いのせいとはいえ、能力を隠しての暮らしはさぞ不便でしたでしょう」
「ああ、そうですね……」
気遣わしげなルノーの問いに、ちらりと創吾に視線を向けてから諒真が曖昧に返事をした。
不便じゃなかったといえば嘘になる。死の呪いに怯え、溢れる魔力を持て余す日々は確かに辛かった。呪いさえなければと思わぬ日はなかったが、創吾がいたから二ヶ月もの間耐えることができた。
「こちらの世界にいる間はどうぞ存分に御力をふるってください。……実は、魔王を討伐したおかげで魔物は消えましたが、生態系が狂ったからか各地で大型の動物が暴れておりまして。少々難儀しております」
今まで幅を利かせていた魔物が消え、抑圧から解放された大型の動物が暴走する事件が起きている。しばらくすれば落ち着くだろうが、民に被害が出ないよう聖騎士団は対応に追われているらしい。魔物に比べれば容易い相手だが、数が多いため手が回らないという。
「俺、やっつけてくるよ!どこ?」
「頼もしいお言葉ですユウト様。明日案内致しますので、今宵はどうぞ宴を楽しんでください」
「はーいッ!」
ガツガツと目の前のご馳走を食らう由宇斗を見ながら、将子が不安げな表情を浮かべている。テーブルマナーがどうとかではなく、何か違和感を感じているようだ。
それを察した諒真は創吾に目配せをしてから、将子だけに聞こえるよう魔法で声を掛け、会場の隅へと誘い出した。
「どうした。気分が悪いのか?」
「……そういうワケじゃないんだけど」
テーブルでルノーと笑顔で話している由宇斗を離れた場所から見つめる将子。気丈な彼女にしては珍しく落ち着かない様子だ。
「ねえ、由宇斗なんか変だと思わない?」
「そうか?まあ、少し浮かれているようには見えるけど」
「私も最初はみんなと久々に集まれたのが嬉しいんだって思ってた。だけど、やっぱり様子がおかしいの」
「それは再召喚されてからか?」
諒真の問いに、将子は首を横に振った。
「──違うわ。たぶん元の世界に戻る前から少しおかしかったと思う」
予想外の言葉に諒真は唖然とした。まさかそんな前からおかしいとは夢にも思っていなかったからだ。
「テンションが高いだけじゃなくて、感情の箍が外れやすくなってるのよ。前の由宇斗はもう少し落ち着きがあったし、人前ではしっかり勇者を演じていたわ」
「それは、確かに」
将子と顔を寄せ合い、小声で話し込む。すると、会場内がにわかに騒がしくなった。顔を上げると、先ほどのテーブルから由宇斗がこちらに向かって歩いてくるところだった。周りにいる貴族たちを避けることなく真っ直ぐ突き進んでくる。
由宇斗は笑顔を浮かべてはいるが、目は笑っていなかった。
「どうした将子、早く戻っておいでよ」
「え、ええ。すぐ行くわ」
「諒真さんとふたりで何話してたの?俺には言えないこと?」
ちらりと諒真を見る目は、まるで敵対する魔物を見下ろすように冷たい。これまで由宇斗がこんな目で仲間を見たことはなかった。
「そんなことないわ。間違ってお酒飲んじゃったから酔いを覚ましてただけよ。諒真さんは付き添ってくれてたの」
「ほんとに?もう大丈夫?」
宥めるため、将子は彼に近寄って腕を組んだ。普段の彼女なら冷たく突き放していただろうに、それほどまでに『今の』由宇斗を怒らせまいとしているのだ。
「心配かけてごめんなさい由宇斗」
「いいんだよ将子♡」
敵意を剥き出しにしていた由宇斗だが、将子の言葉で気持ちが落ち着いてきたのか、すぐにいつもの無邪気な笑顔に戻った。
先にテーブルへと戻ったふたりを見送りながら、諒真は仲間の微妙な変化を感じ取った。
10
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
男前受け
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
