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第7章 入り乱れる思惑
47話・罪悪感まみれのキス
しおりを挟む狭い天幕の中を照らすのはランプの僅かな明かりのみ。揺らめく炎がリエロの姿を浮かび上がらせていた。
聖騎士団遠征部隊の新入り騎士で、年齢は二十歳くらい。細身だが鍛え上げられた身体。淡い金色の髪と青い瞳。精悍な顔付きに見えるのは、魔王討伐の過酷な旅を経験したからか。礼儀も立ち居振る舞いも以前とは比べ物にならない。頼りなかった若者は、今やすっかり立派な騎士となっていた。
僅か二ヶ月での再会だというのに、まるで何年も離れていたかのように彼の成長ぶりに驚かされる。
そのリエロから「リョウマ様ともっと近付きたい」と熱のこもった瞳で見つめられ、諒真は不覚にもドキッとしてしまった。
「でも、おまえ泣いてたじゃん」
昨夜、客室に訪ねてきたリエロは辛そうな表情ではらはらと涙をこぼしていた。
「大恩あるリョウマ様をこちらの世界に縛り付けようとするなど本当に申し訳なくて。お顔を見たら堪えきれず……恥ずかしいので忘れてください」
あれは諒真に対する罪悪感から出た涙だった。命令されて嫌々やらされているのだと思い込んでいたが、隊長のハルクのためだけでなく、本心から諒真を慕っているという。
「こちらの世界の都合で嫌な思いをさせてしまうというのに、リョウマ様は僕を慰めてくださった。元々尊敬しておりましたが、あの時に心が決まったのです」
何の、と聞こうとした諒真の唇がリエロに塞がれた。キスされたのだと気付いた時には痛いくらいに抱き締められ、身動きが取れなくなる。
「……申し訳ありません、つい」
「えっ、あ、いや」
重ねられただけの唇がそっと離され、吐息のかかる距離で謝罪されて、諒真は恥ずかしさと気まずさで顔をそらした。
リエロから好意を持たれていることは理解した。上からの命令もあるが、それだけでないのだと聞いて安心もした。キスされても嫌悪感はなかった。
「今夜はこれ以上はしませんから、もう一度口付けてもよろしいですか」
「へ?」
先ほどの不意打ちとは違い、宣言されてからのキスを認めてしまえば彼の気持ちに応えることになってしまわないか。異世界に残るつもりなど微塵もないクセに期待だけ持たせて良いものか。そう思い悩んでいるのが伝わったのだろう。リエロは寂しげに微笑み、諒真の腰に回した手に力を込めた。
「今だけ。ふたりきりの時だけで構いません。もう少しリョウマ様と触れ合いたいんです」
「リエロ……」
拒絶するのは簡単だ。腕を突っ撥ねて身体を押し退ければいい。諒真が本気で嫌がれば、リエロは絶対に無理強いをすることはない。
それなのに動けなかった。
再び抱き寄せられ、何故か創吾を思い出す。
元の世界では魔力を発散させるためにキスされたり身体を触られたりした。ああしなければならない状況だったからだ。こちらの世界に再召喚されてからは一度もされていない。する必要がないのだから当たり前だ。
(呪いがなくなれば、もう創吾にあんな真似させなくて済む。もし呪いが解けなくても、オレがこっちの世界に残れば……)
天幕に入る前、彼は女性騎士のラミエナに声を掛け、ふたりで何処かへ行ってしまった。もしかしたら、今頃彼女とこんな風に触れ合っているのかもしれない。そう思ったら胸の辺りがモヤモヤと落ち着かなくなった。
「リョウマ様」
「ん……」
その気持ちを振り払うように、諒真は瞼を閉じてリエロの口付けを受け入れた。
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