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第7章 入り乱れる思惑
48話・惑う夜
しおりを挟む「名残惜しいですが、そろそろ戻ります」
天幕に入ってから一時間ほど経った。先ほどまで抱きしめ合っていた身体が離されると、ぽっかりと穴が空いたような気持ちになり、無意識のうちに諒真は胸元を押さえた。
「おやすみなさいませ、リョウマ様」
「ああ。おやすみ、リエロ」
出入り口の布をくぐって出て行くリエロを見送るため、諒真も後を追って外に出る。すると、最後にまたぎゅっと抱き締められた。外は暗いが、そこかしこに篝火が焚かれ、見張りの騎士が巡回している。騎士数人に抱擁されているところを目撃され、諒真は慌ててリエロの腕を振り解いた。
「こら、ばか、人前でなにを」
「仲睦まじい姿を見せつけておくのが目的です。隙を見せたら他の人に狙われてしまいそうで。……こういう相手は僕だけにしてください」
耳元でそう囁いてから、リエロはすぐに背を向けて走り去っていった。その背中を見送りながら、諒真はずるずると地面にへたり込み、両手で顔を覆い隠す。
真っ直ぐ好意を向けられて、嬉しいようなむず痒いような気持ちに襲われた。命じられて仕方なく従っているのではなく、本気で慕ってくれている。天幕の中でのキスは芝居ではない。誰も見ていないのだからする必要はなかった。それなのに、リエロは求めてきた。
「いや、絆されてる場合じゃねーな。寝よ」
赤くなった頬を軽く叩き、出入り口の布を下ろすために立ち上がって手を伸ばすと、近くを創吾が通り掛かった。
「諒真くん」
「創、……」
返事をしようとした諒真は、すぐに言葉を詰まらせた。創吾の隣に立つ女性騎士ラミエナの姿に気付いたからだ。
あの時から一時間以上、創吾はずっと彼女と一緒だったのだろうか。リエロとの抱擁は見られていなかったようで、創吾の表情は普段と変わらない。
「もう寝るんですか」
「あ、ああ。今日はなんか疲れた」
「そうですよね、おやすみなさい」
隣に立つラミエナも「リョウマ様、おやすみなさいませ~!」と笑顔で手を振っている。小柄で可愛らしい女性だ。美しく着飾った貪欲な令嬢たちより、ラミエナのような明るく活発な女性のほうが好みなのだろうか、と考えながら天幕の中へと引っ込む。
「なんなんだよ……」
モヤモヤと胸に渦巻く感情がなんなのか分からず、諒真は毛布を頭から被って寝転がった。
(リエロとのキスに抵抗を感じなかったのは創吾と何度もしたことがあるからだ。それだって仕方なく……好きとかじゃない。慣れだ、慣れ)
そう自分に言い聞かせながら、諒真はしばらく眠れない時間を過ごした。
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