【完結】魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

みやこ嬢

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第8章 魔王城跡探索

53話・警戒の基準

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 幸い地下はそこまで崩れてはいなかった。上階から落ちてきた瓦礫がところどころで山になっているが、他はあまり荒れていない。

「この奥です」

 先導するラミエナの後につき、開きっぱなしの大扉を潜ると、そこには広間があった。天井のど真ん中に大きな穴が空いており、そこから外の光が差し込んでいる。

 光に照らされるようにして浮いている球体を見て、勇者一行は無意識のうちに身構えた。この禍々しい気配には覚えがある。

「……魔王と同じ気配ね」

 眉間にシワを寄せた将子しょうこが呟き、他の三人も頷く。間違いない、これは『呪いの核』だ。

 大きさはバスケットボールほど。真っ黒な球体の表面はつるりとしていて、周囲の景色を映り込ませている。金属の塊のようでもあり、風船のようでもある。硬いのか柔らかいのかは直接触れてみなければ分からない。

「ちょうど真上が謁見の間で、元はそこにありました。調査隊が見つけて破壊を試みたところ、床を突き破って真っ直ぐ地下に潜った……というわけです」
「反撃はしてきませんが、一定以上の攻撃を受けると場所を移す性質があるようで、我々聖騎士団ではこれ以上手が出せません」

 同じ説明を道中でも聞いたが、正直諒真りょうまたちは半信半疑だった。
 しかし、現物を前にしてハルクとイルダートの説明を聞くと納得せざるを得ない。それほどまでに、この球体からは恐ろしい気配が漂ってきている。

「もしヘマをして更に地下に潜られたら追いようがない。下はもう建物じゃなくて地面だからな」
「ええ、ここで終わらせましょう」

 そう言っている間にも由宇斗ゆうとが腰の剣を抜いており、将子が慌てて引き留めている。『勇者』の攻撃なら一撃で破壊できるかもしれないが、無策で斬りかかることだけは流石に認めるわけにはいかない。

「とりあえず、ひと息入れてから掛かるとしましょう。……リエロ、準備を」
「はいっ」

 イルダートから指示され、リエロが担いでいた荷物を下ろした。中身は全員ぶんの水筒や携帯食だ。

「手伝うよ」
「ありがとうございます、リョウマ様」

 諒真の魔法で地面に小さな炎を灯し、瓦礫で組んだ簡易かまどを作る。上に持参した金属の網を敷き、水筒からお茶を移した小鍋を置く。空いている部分に携帯食のビスケットを並べて軽く炙っていく。

「どうぞ。熱いから気をつけてください」

 焼けたものから順次手渡していく。
 将子に直接渡そうとしたリエロに周りがひやりとするが、何故か由宇斗は何も言わなかった。

「……なにか基準があるんでしょうか」
「さあ?」

 リエロは騎士だが、一番の下っ端である。加えて、現在は諒真を慕っており、周りにも一切隠していない。例え若い男でも、他に気持ちが向いている者には妬かないということか。単に、取るに足らない相手だと思われているだけかもしれない。

 創吾そうごも将子を恋愛対象としては見ていないが、先ほどは何故か警戒された。由宇斗が創吾の好きな人を知らないからか、それとも他に警戒すべき理由があるからか。

 温かな飲み物と軽い食べ物で休憩を取ってから、勇者一行は『呪いの核』破壊作戦に移った。
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