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第8章 魔王城跡探索
52話・気付かれない変化
しおりを挟む「将子は変わらないように見えますが」
「由宇斗ほどじゃないけど以前とは違う。覚えてるか?二度目に召喚された日の夜に開かれた祝宴」
「ええ、もちろん」
貴族も交えての歓迎の宴。それぞれ用意されていた衣装を身に纏って出席した。
「あの時、将子はドレスのデザインが気に入らないからってその場で直させたんだよ」
「!そうだったんですか」
「ああ。前までの将子ならドレスに手を加えさせるなんて絶対にしない」
将子は年頃の女の子で人並みにお洒落にも興味関心があるが、同時に常識もわきまえている。だからこそ、専門の服飾職人が丁寧に仕立てた衣装のデザインを素人判断で変更するなどという失礼極まりない真似はしない。
「それに、元の世界で連絡を取り合ってる時にも違和感があった。将子は告白を断る口実にするために『付き合ってる相手がいる』と周りに公言したんだ。詳しく聞かれたら困ることくらい分かってるはずなのに」
「……確かに、彼女にしては後先を考えない言動ですね」
学校の友人くらいならば誤魔化せるだろうが、もし家族の耳に入れば言い訳は出来なくなる。由宇斗と交際をしているのは嘘ではないが、元の世界では一度も直接顔を合わせたことはない。どこで知り合ったのかと聞かれても答えようがないのだ。賢い彼女がそんな迂闊な真似をするとは考えにくい。
「もしかしたら、オレもどこかおかしくなってるのかもしれない」
由宇斗と将子の変化に気付いた時、諒真は真っ先に『自分も何か変わったのでは』と疑った。
英雄だなんだと持て囃されて調子に乗ったつもりはないが、数ヶ月の間に人生観が変わるほどの経験をした。そのせいで若いふたりは感情や衝動を抑えられなくなっているのではないか。そして、自分も。
「諒真くんは最初に会った時から変わりませんよ。お人好しで優しいままです」
「そ、そうか?」
「ええ。僕が保証しますよ」
穏やかに微笑みながらキッパリと言い切る創吾に、諒真は胸がきゅうと締め付けられるような感覚を覚えた。抱えていた不安が今の言葉で薄れ、心が少し軽くなる。
「僕はどうです?何か変化はありますか」
「創吾も変わらないよ。優しくて、いちばん頼りになる男だ」
「わあ、照れますね」
照れ隠しで小突き合っているうちに、先頭を歩いていたラミエナが立ち止まった。
「皆さま、ここから地下に入ります。階段はないので、足元に注意しながら降りてください」
目的の『呪いの核』は地下にあるが、魔王城の階段はほぼ機能しておらず、瓦礫の山と化している。
「前回調査に来た時は辛うじて通れたのですが、あれから更に崩れておりますな」
「地下の空間が埋まってないといいですね」
身軽なラミエナと由宇斗、将子は不安定な足場も気にせずどんどん降りて行く。体格の良いハルクとイルダートはどうしたものかと躊躇している。魔王城は天井が高く、一階ぶん降りるにも十メートルほどの落差がある。もし足を踏み外せば大怪我は免れない。
「オレの飛翔魔法で下まで運ぶよ」
諒真が残ったメンバーに対し順番に魔法を掛けていくが、創吾は辞退した。
「諒真くん、僕には必要ありません」
「大丈夫か創吾」
「これくらい平気ですよ」
そう言って彼は足元に防御盾を生み出した。平面部を上に向けた状態で固定された盾に乗り、少し下がった場所にまた盾を作る。それの繰り返しで、あっという間に階下へと降りた。
ハルクとイルダート、リエロと共に諒真は飛翔魔法で降りる。魔法で身体が浮く感覚に慣れず着地でよろめくリエロに、諒真が咄嗟に手を差し伸べて身体を支えてやった。
「あ、ありがとうございます」
「お礼なんかいらないって」
屈託なく笑う諒真越しに見える創吾の姿に、リエロはビクッと身体を揺らした。彼の表情はいつもの穏やかな笑顔だというのに、何故か背筋に冷たいものが走る。
「顔色が悪いですよリエロくん。大丈夫ですか?」
「い、いえ、大丈夫です」
気遣うような優しい言葉さえ恐ろしく感じられて、リエロは額に浮かんだ脂汗を手の甲で拭った。
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