85 / 110
第12章 元凶との対峙
84話・原初の竜
しおりを挟む適性のある者たち『勇者一行』を違う世界から召喚し、魔王を倒させる。その中のひとりを残して魔王と教皇に分割する。魔王は本能のままに暴れ回り、教皇は周辺諸国から懇願されて『勇者一行』を召喚する……ハイデルベルド教国はこれを約百年ごとに繰り返して栄えてきた。
今回は少し違う。何度も繰り返されてきた習慣をルノーが変えた。
それは、召喚した勇者一行を一旦元の世界に帰し、再び召喚したこと。これは実験だった。ルノーは『次元を渡る度に能力が上がる』という認識を持っている。元々の住人より別の世界から連れてきた者のほうが優れた能力を発揮するという説だ。
諒真たちは三度次元を超えた。初めて召喚された時より更に強くなり、まさに歴代最強の能力を持つ存在となった。
「大司教さま。最強の魔王が生まれるということは、これまでよりもっと多くの人々が苦しむということになりませんか」
「ええ。今まではハイデルベルド教国と隣国アイデルベルド王国の境に魔王の拠点があり、被害もその周辺だけでしたが、次はこの大陸全土を支配するかもしれませんね」
「そんな……!」
リエロの問いに笑顔で答えるルノー。彼はどれだけ被害が出ようと構わないと考えているようだ。
大司教の言葉にリエロは大きなショックを受けていた。わなわなと拳を震わせ、青褪めた顔で尚もルノーに疑問を投げつける。
「なんでそんなことをする必要があるんです。大聖堂を崇めてもらうためですか。小細工なんかしなくても、国民はみな信仰を心の支えにして日々を暮らしているじゃないですか!」
聖騎士の仕事の一環として、リエロは遠方から大聖堂に参拝しに訪れた人々を案内することもある。信心深い者が列を成し、大聖堂で祈りを捧げる姿を見てきた。魔王が現れれば、そういった人々にも危険が及ぶ。
「民が拝みに来るのは大聖堂が役に立つからです。魔王が現れ、国が乱れた時に救世主たる勇者を召喚することが出来るという事実があるからですよ。……でなければ、すぐに忘れられてしまいます」
これまでずっと笑顔だったルノーの表情が僅かに曇ったのを諒真は見逃さなかった。
大聖堂を頂点に置き、崇め続けさせること。
恐らくこれがルノーの行動理由なのだろう。
宗教国家というからには崇める神や教義があるはずだが、諒真は何も知らない。知ろうともしなかった。元の世界でも宗教に疎かった。大聖堂は巨大な神社のようなものという認識しかなく、今まで疑問を抱くこともなかった。
「あのさ、今更なんだけど、この大聖堂って何を祀ってるの?」
小さく挙手しながら諒真が尋ねると、ルノーとリエロが目を丸くした。当たり前過ぎて、教えていなかったことすら気付いていなかったのだ。
「原初の竜ですよ、リョウマ様」
「原初の竜ってなに?」
「この世界を見守って下さる存在です。数千年前に現われ、異種族間の争いを仲裁し、世界に平和をもたらしたと言われてます」
「へぇ~」
「他の国々で広く浸透しているのはバエル教と言って、原初の竜の存在と教えを広めた聖人バエル様を崇めているのですが、ハイデルベルド教国ではその大元となる原初の竜そのものを信仰の対象としております」
「そうなんだ」
リエロが掻い摘んで教えてくれたのは正に神話で、諒真は相槌を打つほかなかった。
同じ神を信仰していても宗派が分かれたり教義が異なること自体は珍しくはない。宗教というものは人々の心の拠り所である。土地が変わり、求めるものが変われば形も変わっていくものだ。
「バエル教など邪道です。原初の竜を差し置いて一介の人間が名を広く知られるなどあってはなりません」
ルノーの顔にはいつもの笑みは浮かんでいなかった。冷たい表情で吐き捨てるようにバエル教を否定する。
「もしかして、先代勇者一行の名前を残さないようにしたのも……」
英雄であるはずの先代勇者一行の名は記録されていなかった。後世に残さぬよう全ての書物や報告書から抹消されていた。
その勇者一行を召喚する教皇も名前が公開されていない。現に、諒真は本人に尋ねるまで教皇がザクルドという名だと知らなかった。
「原初の竜以外を崇めぬよう私が指示しました。もちろん、それ以前の勇者たちについてもです」
唯一残っているのは『教皇が召喚した勇者が魔王を倒した』という事実のみ。全ては信仰の対象を増やさぬためだった。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
