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第12章 元凶との対峙
85話・説得不可能
しおりを挟む大司教ルノーの目的と動機が分かった。
個人の富や名声ではなく、原初の竜に対する信仰を確たる物にし、人々から忘れ去られないようにするためだった。
「それ、いつ終わるんですか」
諒真の問いに、ルノーは小さく首を傾けた。
長く白い髪がさらりと揺れ、部屋の明かりを受けて煌めく。美しさと凛々しさを併せ持ち、慈愛に満ちた笑顔と言葉で人々から敬われている存在だ。誰もが彼が素晴らしい人格者だと信じて疑わない。
「終わりなどありませんよ。これからも続けます」
きっぱりと言い切るルノーの目に迷いはない。
彼は原初の竜を唯一の信仰対象とするために、この先も永遠に繰り返していくつもりなのだ。ハイデルベルド教国だけでなく周辺諸国の民をも巻き込む最悪の習慣を。しかも次代は歴代最強。間違いなく被害の範囲は桁違いに拡大する。
「大陸の南には他の神を崇めている地域があるらしいですね。次の魔王が生まれたら信者も神殿も全て潰してもらいましょう」
聖句を唱える時のように穏やかな笑みを浮かべながら、ルノーが更なる目的を口にした。
それを聞いて、諒真とリエロが青褪めた。
説得出来る相手ではない。聞けば答えてくれるが、自分の考えを曲げる気など一切ない。笑顔で民を導きながら、裏では民を苦しめている。新たな魔王が生まれれば何も知らない人々は跪いて彼に請うのだろう。『勇者を召喚してください』と。
次の魔王=教皇候補は創吾だ。
「続けさせてたまるか……!」
「民を守るどころか危険に晒していたなんて。知った以上、黙って見ているわけにはいきません」
諒真が椅子から立ち上がり、目の前に座るルノーを見下ろした。リエロも険しい表情で後ろに控えている。
「おや、理解していただけませんでしたか」
「無理やりにでも止めます」
「力ずくで、ですか?」
「おかげさまで歴代最強らしいんで」
諒真が両手を左右に広げ、無数の杭を産み出した。物質ではなく一本一本が強力な攻撃魔法。異なる属性のものを同時に発動することで、ルノーが耐性を持っていてもどれかが効くようにしている。
一番最初に召喚された時はこんな風に魔法を使うことなど出来なかった。
「リョウマ様はお優しい方だと思っておりましたが、意外と武闘派なんですね」
動じることなく椅子に座り続けるルノー。反撃する様子もなく、逃げることもせず、自分に向けられた杭を呑気に見上げている。
戦う意思のない丸腰の人間に攻撃を仕掛ける行為には当然抵抗がある。諒真はルノーの周囲をぐるりと杭で囲むだけに留めた。並の相手なら、これだけでも十分な脅しになる。
「ルノー様、お願いだからオレにこんなものを撃たせないでください」
「撃っても構いませんよ。……ああ、出来ないのでしたか。貴方には『人を傷付けることへの心理的な枷』がありますものね」
ルノーが平然として居られるのは撃てないと知っているからだ。諒真は最初の旅の途中で起きた出来事の影響で、人を傷付ける恐れのある強力な攻撃魔法が使えなくなっていた。
だが、今は違う。
ルノーは知らないが、諒真は既にトラウマを克服している。だからといって平気で出来るわけではない。迷う諒真にリエロが寄り添い、背中を押す。
「残念です、ルノー様」
諒真は攻撃魔法の塊である杭をルノーに向かって放った。
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