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第13章 大聖堂の真実
88話・大司教の切り札
しおりを挟む約百年ごとに繰り返されてきた習慣。
魔王を倒した後、勇者一行のひとりが残留して魔王と教皇に分かたれる。時が来れば魔王は暴れ、教皇は異世界から勇者を召喚する。その度に人々は魔物や魔族に生活を脅かされ、不安な日々を過ごしてきた。
その元凶である大司教ルノー。
彼は戦う力こそないが、不死身の肉体と他者の能力を開花させる力を持っている。
「私を倒せないと理解していただけましたね。まあ私にも貴方がたは倒せないわけですが、切り札は持っています」
この切り札こそ、過去に召喚された勇者一行がルノーの思惑通りに動いた最大の理由。
「残留する者以外の元の世界への帰還。これは現教皇にしか出来ない御業です」
現在の教皇であるザクルドも、仲間の三人……ヴェルム、マルディナ、カティオを元の世界に帰すために教皇位に就いた。歴代の教皇は、みな仲間を家族の元へ帰すためだけに異世界に残留した。代々、心優しく仲間思いの者が犠牲になってきたということだ。
ザクルドは若く見えるが肉体の限界が近く、次元を超えるほどの魔法は使えない。故に、次代の教皇候補に代替わりをさせる必要がある。そして、新たに教皇位を継いだ者は大聖堂に縛られる。
「お仲間と離ればなれになるのは悲しいことです。だから今回は貴族たちを焚き付けて全員残留させようと試みたのですが……残念ながら、皆さまは私に嘘を仰っておられたようで。誘惑に負けなかった、と言えばご立派ですけれども」
ルノーがちらりと諒真を見る。
貴族令嬢の色仕掛けには引っ掛からなかったが、リエロに惹かれて迷いを感じたのは事実。気まずさで諒真は視線をそらした。
残留希望はルノーを欺くための芝居。
これは諒真が二人に頼んで仕組んだこと。
──では、創吾は?
創吾は数日間引きこもり、今日開かれた晩餐会まで誰とも会わなかった。その間に覚悟を決めたのだろう。彼が異世界残留を決めた理由は、恐らく諒真たちを無事に元の世界に帰すため。
そこで初めて諒真は、創吾に刺した杭の操作を失念していたことに気が付いた。不死身のルノーに驚き、動揺したことで精神の統一が出来なくなっている。
(まずい、創吾の縛めが解けてた)
創吾がひとり異世界に残留し、新たな教皇と魔王になることだけは絶対に回避せねばならない。
だから諒真は身を切る思いで創吾を傷付けて動きを封じ、その間に元凶である大司教ルノーを倒そうとした。まだ目的は果たされていない。いや、ルノーが倒せない存在と判明した今となっては、この先の選択肢はほぼ無いに等しい。
(くそ、他に手はないのか……!)
選びたくない手段ばかりが浮かび、その度に頭を振って悪い考えを否定する。己の無力さと不甲斐なさに、諒真は血が滲むほど唇を噛んだ。
カツ、カツ、と複数の足音が近付いてくる。
それが誰のものか、生体感知魔法を使わずとも諒真には分かっていた。
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