90 / 110
第13章 大聖堂の真実
89話・侵入者
しおりを挟む深夜の大聖堂に響く足音。
次第に近付いてくる不規則な靴音に、誰もが固唾を飲んで扉を見つめる。
開いた扉から現れたのは、聖騎士団団長のエルヴィダだった。彼女は聖騎士の正装で身を固め、左右に遠征部隊隊長ハルクと副隊長イルダートを従えている。二人は既に鞘から剣を抜き、いつでも振れるように構えていた。
「ハルク」
「……すまない、リョウマ殿」
諒真に声を掛けられ、ハルクは申し訳なさそうに眉を顰めた。
晩餐会の後にエルヴィダを酔い潰すよう頼んでいたが、うまく事が運ばなかったらしい。実戦経験のない名前だけの団長とはいえエルヴィダは高位貴族。部下の企みなどお見通しだったのだろう。
諒真がエルヴィダの足止めを頼んだのは話の邪魔をされたくなかったからだ。彼女は立場上大聖堂や聖職者を守らねばならない。
聖騎士全員ではなく、ある程度事情を知るハルクとイルダートだけを連れてきたところをみると、彼女の本当の目的は公にはできないもののようだ。
例えば、革命のような。
武力でルノーが倒せないと判明した今となっては制圧は不可能になったわけだが、エルヴィダはまだそれを知らない。
「まあぁ、こんな時間に皆さまお揃いで。何をなさっておいでなのかしらねぇ?」
「団長こそ、ここは大聖堂の中ですよ。そのような物々しい出立ちでどうなされました?」
ルノーが穏やかな笑みを浮かべて問うと、エルヴィダはハッと鼻で嗤った。
「夜間は無人になるはずの大聖堂に人が出入りした痕跡がありましたので見回りに。そうしたら大司教さまだけでなく勇者さまがたまでいらっしゃるんですもの。驚きましたわ」
痕跡、と聞いて諒真は首を傾げた。
諒真とリエロは滞在先の屋敷の中庭から大聖堂内部に転移魔法を用いて侵入した。由宇斗たちも、それぞれの部屋から転移魔法で直接この場に呼び出した。痕跡など残っているはずがない。
「大聖堂に続く回廊に血痕があり、建物内で途切れておりました。もしやと思い、教皇聖下の居室に来てみたのですが」
エルヴィダの話をイルダートが補足する。
先ほどルノーを攻撃して血塗れにはしたが、それはこの室内でのこと。廊下に被害は出ていない。
「あっ……」
そこで諒真は青褪めた。
近付いてくるエルヴィダたちの気配に気を取られ、もうひとつの気配を見落としていた。
生体感知魔法で探りを入れると、よく知る気配が地下深くに降りて行くのを感じた。大聖堂の地下には現教皇ザクルドが居る。
「まずい、教皇サマが!」
すぐに諒真は転移魔法で教皇の部屋に転移した。
薄暗い寝室内は相変わらず伽藍としている。冷えきった空気に諒真は身体を震わせた。寝台を覗き込めば、教皇は目を閉じて眠っていた。上階での騒ぎは地下まで届いていなかったようだ。
「……良かった、間に合った」
念のため風の魔法で寝台周辺を包んで保護する。ひと息ついて床にしゃがみ込み、大きく息を吐き出して気持ちを切り替えた。
カン、カン、と階段を降りてくる音が聞こえる。
生体感知魔法で見れば、一際強い光がこの部屋のすぐそばまで迫ってきていた。
(この部屋は魔法の防壁で護られている。オレは何故か影響を受けなかったけど、もしかしたらあいつは入れないかも)
淡い期待を抱くが、残念ながら防壁は役目を果たさなかった。バチッと乾いた音がして、あっさりと侵入者の出入りを許してしまう。
「……よぉ、創吾」
「再会が他の男の寝室とか、本当に君は僕を怒らせるのが巧いですね」
重い扉を開けて姿を現したのは、脇腹から血を滴らせている創吾だった。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
