【完結】魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

みやこ嬢

文字の大きさ
91 / 110
第13章 大聖堂の真実

90話・狂った僧侶

しおりを挟む


 大聖堂の地下深くにある、弱った教皇を隠すためだけに存在する部屋。薄暗く冷えた室内で、諒真りょうま創吾そうごと対面していた。

 ぽたり、と血が床に落ちる。
 それを見て諒真が眉をひそめた。

「なんで傷を治さないんだよ。杭は消えただろ」

 邪魔をされぬように放った攻撃魔法を凝縮して生み出した杭は、精神の乱れで遠隔操作が出来なくなって掻き消えた。治癒魔法を得意とする創吾なら、刺さった杭さえなければ傷が塞げるはず。

「治すなんて勿体ない。せっかく諒真くんがくれた痛みですから、死なない程度に残しておこうと思って」
「はぁ?」

 それはつまり、痛覚遮断をせず、動ける程度に治癒して、わざと出血と痛みが残るように調整しているということだ。

「おまえ、やっぱおかしいよ」
「あは、そうかもしれません。でも気分は良いですよ。しがらみから解放されたような、すごく晴れやかな気持ちなんです」

 うっとりとした笑みを浮かべて近付いてくる創吾から距離を取るため後退りするが、すぐに寝台に行き当たる。後ろには眠ったままの教皇がいる。これ以上退くことも出来ず、諒真は覚悟を決めた。

「部屋に戻れ創吾。おまえは正気じゃない」
「嫌です。諒真くんと一緒じゃなければ戻りません」
「──ああ、もう!早く傷を治せよ!いつまで血を流してんだ!」
「だって、この傷があれば諒真くんが僕を気に掛けてくれるでしょう?さっきは置いていかれて寂しかったけど、もう離れませんよね?」

 創吾の顔色は悪い。笑いながら、時折苦痛に顔を歪めている。傷が治りきっていない状態で歩いて滞在先の屋敷から大聖堂まで来たのだ。恐らく、諒真がまだ杭の操作をしている時から。

 再び創吾の脇腹から血が滴り落ちた。
 自分がやったこととはいえ、諒真は恐ろしくてたまらなくなった。何かに縋りたくて、思わず後ろの寝台をちらりと見る。

「僕がいるのに他の男のほうを見ないでくれます?」

 言い終わる前に幾つもの防御盾が出現し、物凄い勢いで寝台の上目掛けて飛んでいく。事前に諒真が張った風の魔法のガードのおかげで教皇にはひとつも当たらず、全て弾き返された。

「危ないだろ、教皇サマが怪我したらどうすんだ!ただでさえ弱ってんのに!」
「別に死んでも構わないんじゃないですか。もう召喚魔法も使えないんでしょう?魔力がほとんど残ってないみたいですし」
「おまえ、よくそんな酷いこと言えるな!」

 創吾は医者だ。怪我や病気で苦しむ人々を救うためにその仕事を選んだはずだ。だからこそ与えられた能力は治癒魔法だったのだろう。
 そんな彼が教皇の命を軽んじる発言をしたことが信じられず、諒真は激昂した。

「……騒がしい。枕元で騒ぐな」

 突然教皇が口を開いた。
 うっすらと瞼を持ち上げ、視線だけをふたりに向ける。相変わらず身体は少しも動かせないようだ。

「すみません、うるさかったですよね」
「リョウマが入ってきた時から目は覚めていた」

 身体の自由がない教皇は、今は大聖堂での仕事も出来ずに一日中寝台で眠って過ごすしかない。たまに訪れるルノーだけが話し相手だ。人の気配がすればすぐに意識は覚醒する。

「あの、実はいま創吾が来てて……」
「分かっている」

 諒真が横にずれ、教皇と創吾の間から退いた。御簾みす越しではない対面は初めてで、創吾はビクッと身体を揺らした。

「魔王ザクルドと同じ顔……ルノーが言っていた通り、教皇と魔王は元は一人の人間だったんですね」

 ラミエナに協力してもらい、情報収集している最中に自分の闇が抑えられなくなってしまったのだ。教皇の姿はルノーの話が嘘ではなかった証。創吾はようやく納得した。

「リョウマ。ソウゴをわたしのそばへ。彼の中にある『魔王の一部』を取り出せば元に戻る」
「わ、分かりました!」

 創吾がおかしくなった原因は、魔王城跡で『呪いの核』の破片を浴び、『魔王の一部』を体内に取り込んでしまったから。

「創吾、来い」
「嫌です!元に戻ったら、僕はまた自分を偽らなきゃならなくなる……そんなのもう嫌だ!」

 手を差し伸べる諒真を、創吾は睨みつけた。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

処理中です...