23 / 86
本編
第23話:心の壁
しおりを挟む「今日全然仕事になんなくて上司からめちゃくちゃ怒られた」
「そりゃそうだろうな」
「こう……まだ何もハッキリ決まってないし、会社に言うのも違うかなって思って」
「だな」
夕食を食べながら、謙太は思っていることをぽつぽつと話し始めた。
事実を受け止め、自分の中で何とか整理しようとしている。自宅の外に出たことで少し気が紛れたようだ。
それを聞きながら、龍之介は相槌を打った。向かいに座る謙太をちらりと見て、箸の進み具合を確認する。いつもみたいにがっついてはいないが一応食べている。食事が出来るなら大丈夫だと龍之介は安堵した。
「それで、母さんからまたメールきた」
メールの画面を見せてもらったが、向こうの親から事の次第を説明されたらしく、非常に混乱した内容だった。可愛い孫と血が繋がっていなかったなどと言われてすぐに納得できるはずがない。
電話でなくメールでの連絡なのは謙太を気遣ってのことだろう。この件で一番ダメージを受けているのは謙太だからだ。
「近いうちに両家で話し合いをすると思う」
「……そっか」
謙太と寧花が離婚してハイおしまい、とはいかない。陽色の戸籍の問題がある。実子ではない以上、嫡出否認の手続きをしておかないと、将来謙太が別の女性と結婚する際に問題になる。寧花が陽色の実父である元彼とヨリを戻すなら、それはそれで手続きはしなければならない。放置しておいていい問題ではない。
「……自分の子じゃないって言われても、だからって急に他人だとは思えないし」
「うん、そうだよな」
「どうしたらいいんだろうな……」
寧花とやり直して今まで通りの生活に戻るか。別れて一切の関係を断つか。
謙太の一存で決められることではない。寧花や両家の家族の意志もある。どう転ぶかは話し合いをしてみなければ分からないが、自分がどうしたいのかだけは先に決めておいた方がいい。
「ケンタは元の生活に戻りたい?」
龍之介の問いに、謙太は俯いた。
「……正直よくわからん。それが一番良い気がするけど、それだと寧花が追い詰められそうで」
昨日の様子から、寧花がかなり責任を感じているのが分かった。何度も何度も頭を下げて謝っていた。浮気をしたわけでもないのに、謙太と一緒にいる限り一生罪悪感を抱えて生きていくことになる。
龍之介にとって、寧花の感情なんかどうでも良かった。
最初は育児ノイローゼ気味なんじゃないかと彼女を心配していた。家事育児をやらない謙太に憤った。
事情を知った今となっては話は別だ。
昨日、彼女は謙太を傷付けた。
一方的に話をして、勝手に陽色を連れ去った。
いや、実母である寧花が連れていくのは正しい。だが、陽色を置き去りにして無理やり関わらせておいて、あんな風に謙太から引き離したことだけは許せなかった。
それなのに謙太は寧花の心配をしている。悲しい思いをさせられたにも関わらず、寧花に対して負の感情を抱いていないように見えた。
それは彼女を愛しているからか。
大切だから気遣っているのか。
「おまえの人生だ。やりたいようにしろ」
復縁するにせよ別れるにせよ、その選択に自分は関係ない、所詮自分は他人なのだからと龍之介は一歩引いた立場で考えていた。謙太がどういった道を選んでも、それを見守ることしか出来ないからだ。
そんな龍之介の態度に、謙太は何も答えられなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺
ユッキー
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。
大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する
ユッキー
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。
そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
