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本編
第25話:すれ違い
しおりを挟む謙太の出勤を見送り、洗濯物をベランダに干してから、龍之介も部屋を出た。電車に乗り、数日振りに自宅へと帰る。
謙太に呼び出されて以来、一度着替えを取りに帰ったきりだ。冷蔵庫の食材は大半が駄目になっており、まずはそれを処分する。そして部屋の換気と掃除を済ませてから仕事を始めた。やはり自宅の方が作業が捗る。
だが、慣れたはずの一人での時間が何故か寂しく感じる。無駄なものが一切ない部屋が殺風景に見えた。
「あーあ。せっかく決心したのに」
親友から泣きつかれ、泊まり込みで幼い子どもの世話をして、何故他人の自分がここまでやらねばならないのかと思うこともあった。そのせいで忘れたかった過去を思い出したりもした。
それでも、この数日間は龍之介にとって、ここ数年で一番充実した時間だった。
だから、一生独りで生きていくと決めた気持ちが揺らいでしまった。
「おかえり」
「ただいま」
謙太の帰宅時間より少し前にマンションに戻り、洗濯物を取り込み、そして彼を出迎える。龍之介が待っているから、謙太も寄り道もせずにまっすぐ帰ってくる。
「今日は寒いから鍋にした」
「お、いいね」
すっかり食欲も戻り、目の下のクマも消え、謙太は回復しているように見えた。心の内までは分からないが、とりあえずは大丈夫だろう。
「話し合い、今度の土曜にうちの実家でやることになった」
「そっか」
食べながら謙太が報告する。昼間、母親と寧花からそれぞれメールが届いたらしい。この話し合いの結果次第で、謙太のこれからが決まる。
「実家帰るなら前日の夜から行けよ。半日やそこらで終わる話でもないだろ?」
「うーん……」
実家に長居すれば、それだけあのパワフルな母親と顔を合わせる時間が長くなる。直接色々言われるのが分かっているからか、謙太はあまり気が乗らないようだ。
「うまくいけば、そのまま寧花さんと陽色連れて帰ってこれるかもな」
「え」
龍之介の言葉に、謙太は箸を落とした。片方はテーブルの上に、もう片方は足元に転がっていった。
「どうした」
「いや、手が滑った」
「なにやってんだか」
仕方ないなと笑いながら落ちた箸を拾い、キッチンで洗い直してから手渡すと、謙太は呆然とした表情でそれを受け取った。
「体調も良くなってきたみたいだし、明日は飲むとするか」
「うん?」
「ホラ、前におまえが買ってきた酒、まだ冷蔵庫にあるんだよ。つまみもそのまま残ってる。あんなの残したまま寧花さんに見つかったらヤバいだろ。始末しちまおうぜ」
「あ、ああ。そうだな」
寧花との復縁前提で話を進める龍之介に違和感を覚えつつ、謙太は曖昧に頷いた。
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