【完結】君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

みやこ嬢

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番外編

あの日の面影 前編

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 龍之介りゅうのすけの部屋に居着いてから三ヶ月。
 衣替えの季節になった頃、謙太けんたは一度実家に戻った。離婚の際に大半の荷物を預けていたため、春夏用の衣服を取りに行ったのだ。

「どうりで荷物が少ないと思ったよ」
「リュウが置いてくれるかどうかは賭けだったからさ、いきなり全部は持ち込めなくて」
「ふうん」

 勢いで行動しているように見えて、謙太は意外と後先を考えていた。もし同居を断られてもすんなり退去出来るよう持ち込む荷物を最小限にしていた、ということだ。
 それが少しばかり面白くなくて、龍之介はつい素っ気ない返事をした。

 今回謙太が実家から持ってきたのは主に替えのスーツと薄手の衣服。スーツはハンガーにカバーが掛かった状態のものが幾つか。異動前は営業職だったこともあり、余分に数着所持している。

 寝室のクローゼットの半分を謙太用に空け、冬服と入れ替えていく。

「あれ?」

 仕分けの最中に謙太が首を傾げた。
 スーツに掛けられた不織布のカバーを外して中身を確認していたのだが、その中に仕事用ではない衣類が紛れ込んでいた。

「ん? これ、もしかして」
「高校ん時のブレザーじゃね?」

 取り出されたのは高校時代の制服だった。上着が濃紺、スラックスはチェック柄。ハンガーに掛けられた状態では判別し辛いため、間違えて一緒に持ってきてしまったらしい。

「うわ懐かしい! 卒業以来だから七年振りか」
「随分綺麗に取っておいてあるな」
「ズボンは何度か買い替えたけど」
「知ってる。派手に自転車チャリで土手転がり落ちて膝にデカい穴開けてただろ」
「リュウも一緒にいたんだっけ」
「あん時おばさんめっちゃ怒ってたよな」
「裾直ししたばっかだったからなあ」

 自転車通学だった二人は放課後よく一緒に遊びに出掛けた。大学受験前にはあまり会わなくなったが、それでも他の友人よりは遊ぶ頻度が高かった。
 この制服にはその頃の思い出が詰まっている。

 上着をハンガーから外し、袖に腕を通してみるが、途中で引っ掛かった。

「む、キツい」
「高校ん時よりガタイ良くなったもんなあ」
「まあな」

 謙太は一人暮らしを始めてからの趣味としてジム通いをしていた。結婚して新居へ引っ越したのを機に辞めてしまったが、数年の間にかなり鍛えられた。前の部署である営業に回されたのも、体力がある若手だからだろう。
 故に、高校の制服を着ることはもう出来ない。

「リュウならイケんじゃね?」
「まあ俺は楽勝だろ」

 元々細身の龍之介は、高校時代から体型がほとんど変わっていない。むしろ少し痩せたくらいだ。

 懐かしさと好奇心に負けて、龍之介はブレザーを受け取って羽織ってみた。すんなり着れたどころか、若干余裕すらある。高校時代の謙太に体格で負けていた事実に少し凹む。

「おー……、こうしてると高校ん時にタイムスリップしたみてえ」
「ばか。違和感あるだろ流石に」

 満面の笑顔で様々な角度から見てくる謙太を手のひらで遮る。しかし、とうとう謙太はスマホを持ち出して写真を撮り始めた。

「いや、なんか記憶の中のリュウそのまんま」
「まじか」

 現在二十五歳。
 そう言われて嬉しいような悔しいような、少し複雑な心境で龍之介は苦笑いを浮かべた。

「シャツとスラックスも着てみて!」
「やだよ恥ずかしい」
「ネクタイも!」
「やだっつってんだろ!」
「リュウ~……」
「……わ、わかった。わかったから情けない声を出すな。あとその顔やめろ!」

 やはり、龍之介は謙太に弱い。
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